語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【教育】文科省記者クラブに協力・加担の責任 ~検定の情報隠し~

2016年04月15日 | 社会
 (1)3月18日、教科書の検定結果が公表された。例年より約半月早い。主に高校1年生用で、現行版の部分改定に当たる。

 (2)2014年1月、文部科学省は多くの反対意見を押し切り、新検定基準を定め、政府の統一見解に基づく記述を義務づけた。さらに学習指導要領の解説で、竹島と尖閣諸島を「日本固有の領土」と明示することを要求した。
 日本政府の立場ばかり際立たせた検定指示に、多くのメディアが疑問を示した。当然だ。
 一方で、「産経新聞」と「読売新聞」は肯定的だった。

 (3)今回の検定では、加筆ではなく現行版で認められている記述が、書き換えさせられた例が続出した。
 「日本史A・B」では検定意見206件のうち73件、「現代社会」でも66件に達している。
 そのようなことになった理由を、文科省は「これまでが寛容すぎた」からだと説明した、という(3月18日のNHK)。
 この理由づけこそ、検定が恣意的に実施されていることを如実に物語っている。
 前回2011年度の検定は民主党政権下で、今回は安倍自民党政権下だ。
 だが、このコメントを引き出したNHKを始め、主要メディアは淡々と事実を伝えるばかりで、政治状況に迎合している検定の、この不当性を追求していない。3月19日付け「中国新聞」などが、社説で厳しく批判した程度だ。

 (4)さらに、情報だけ伝えて、問題意識をまったく示していない記事がある。文科省が、今回の検定の関係資料を「6月から公開」すると伝えた記事だ。
 検定期間中、文科省は検定申請本(白表紙本)や検定意見一覧、修正表(書き換え記述の一覧)などを外部に漏らすことを厳禁している。
 それらは、報道解禁(今回は3月18日)のほぼ半月前に記者クラブに渡される。解禁までの期間い記者たちが取材の過程でそれらの情報を部外者に示すことは黙認されているが、重要な事例や記述を見落としていることが少なくない。
 今回も、「請願権(憲法16条)」の記述をほぼ正しく記述したのは、「現代社会」と「政治経済」の合計12冊のうちで2冊だけだった。だが、その点を指摘した報道は皆無だった。
 その他の重大な誤記や注目すべき記述の存在を、関心を持つ者が知るには、6月以後の資料公開を待つしかない。情報開示請求では、膨大な量の資料を相手に、手間ひまがかかる。

 (5)検定資料の公開開始は、
   以前・・・・4月26日までに
   2009年・・・・5月25日から
   2014年・・・・6月3日から
 今回も6月2日の鹿児島市会場から。
 関係者が最も多く、来場最多の東京会場は6月7日から。
 文科省は、書き換え後の見本本が揃うのを末ため、という。しかし、見本本の提出期限は5月の連休前後だ。以前は、「提出があり次第順次公開する」とされた。
 文科省は、国会での論議を嫌い、会期末頃まで情報を隠すことが多い。
 記者クラブでは、結果として文科省の情報隠しに協力・加担している。
 情報独占の厚遇に惑わされ、権力監視の役割を忘れたのでは、自殺行為だろう。

□高嶋伸欣(琉球大名誉教授)「検定の情報隠しで文科省記者クラブに協力・加担の責任!」(「週刊金曜日」2016年4月8日号)
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