(1)米国大統領予備選挙は、4月19日、
ヒラリー・クリントン氏(民主党)
ドナルド・トランプ氏(共和党)
が共にライバル候補者を押しのけ、地元ニューヨーク州を制した。
指名獲得に向けて勢いを増す二人だが、選挙の行方はまだ予断を許さない。米国の選挙制度には、不正や手違いが忍び込む余地があり、どんな番狂わせが待っているか、予想しがたいからだ。大統領選挙で、
(a)2000年、票の集計に不正があったとして、アル・ゴア氏(民主党)が連邦最高裁に提訴する騒ぎとなった。
(b)2008年、オバマ大統領の対立候補だったジョン・マケイン(共和党)陣営の大々的な不正が発覚した。
(2)(1)-(b)では、死者が選挙人名簿に再登録されたり、同一人物が複数の選挙区で何回も有権者登録をするということまで行われた。
日本と違って住民基本台帳のない米国では、選挙の前にまず、自ら有権者登録をしなければならない。
ところが、この名簿管理が杜撰なうえに、州によって事前登録の手続きが異なるため、不正だけでなく、選挙結果に影響を及ぼしかねない様々なトラブルが絶えない。
トランプ氏の息子と娘ですら、ニューヨーク州の事前登録の期日を間違え、今回、父親に投票できなかったほどだ。
(3)民主主義の根幹たる選挙制度の運営が不透明とは、世界の民主主義をリードする米国にとって皮肉の極みだ。
いったい、何が問題なのか。
<選挙制度改革の提唱者や運営当局がしきりに議論するのは、どの方向へ進むべきである。しかし誰ひとりとして、われわれが、いまどこにいるのかを示す地図をもっていないことだ>【注1】
つまり、スポーツから消費行動まで、あらゆる減少をデータ化したがる米国が、肝心の「民主主義」をデータ化できていなかったのだ。
(4)ガーケン・イェール大学教授(ロースクール)は、選挙運営の実態をはじめて数値化した。
それによれば、米国では選挙管理システムの運営者である州務長官(州行政職のトップ)のかなりの部分が、民主党か共和党への支持を鮮明にしている。なぜなら、このポストは、より高い地位に就くためのステップであり、<中立的な無党派の立場をとると、後ろ盾となってくれる党から信用されず、出世の芽も摘まれてしまうからだ>【注2】。
かくて、二大政党のもとでは、「ニワトリ小屋をキツネたちが警備する」ことになってしまう。
もうひとつの足枷は、「極端な分権主義」だ。米国では、中央から州への権限移譲が盛んで、それによって地域のニーズにあった政策が生まれる、というメリットが生じる。
反面、米国の3,000に近い自治体のほぼ半数が、有権者数1,400人以下の小さな規模となり、予算不足から制度運営の責任者である選挙管理人ですら、本業を持ちながらパートタイムで従事せざるえない、という。
(5)州政府はデータを公表したがらない。ガーケン教授はしかし、独自に全国調査し、各州の選挙運動の公正さを格付けして公表した。
世論の力で、米国の選挙制度に変革をもたらそうとする試みは、ゆっくりと、しかし着実に進みつつある。
【注1】ヘザー・ガーケン『民主主義の指標』(未邦訳)。
【注2】前掲書。
□岩瀬達哉「「民主主義の国」アメリカの大統領選は実は不正だらけだ」(「週刊現代」2016年5月7日・14日合併号)
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ヒラリー・クリントン氏(民主党)
ドナルド・トランプ氏(共和党)
が共にライバル候補者を押しのけ、地元ニューヨーク州を制した。
指名獲得に向けて勢いを増す二人だが、選挙の行方はまだ予断を許さない。米国の選挙制度には、不正や手違いが忍び込む余地があり、どんな番狂わせが待っているか、予想しがたいからだ。大統領選挙で、
(a)2000年、票の集計に不正があったとして、アル・ゴア氏(民主党)が連邦最高裁に提訴する騒ぎとなった。
(b)2008年、オバマ大統領の対立候補だったジョン・マケイン(共和党)陣営の大々的な不正が発覚した。
(2)(1)-(b)では、死者が選挙人名簿に再登録されたり、同一人物が複数の選挙区で何回も有権者登録をするということまで行われた。
日本と違って住民基本台帳のない米国では、選挙の前にまず、自ら有権者登録をしなければならない。
ところが、この名簿管理が杜撰なうえに、州によって事前登録の手続きが異なるため、不正だけでなく、選挙結果に影響を及ぼしかねない様々なトラブルが絶えない。
トランプ氏の息子と娘ですら、ニューヨーク州の事前登録の期日を間違え、今回、父親に投票できなかったほどだ。
(3)民主主義の根幹たる選挙制度の運営が不透明とは、世界の民主主義をリードする米国にとって皮肉の極みだ。
いったい、何が問題なのか。
<選挙制度改革の提唱者や運営当局がしきりに議論するのは、どの方向へ進むべきである。しかし誰ひとりとして、われわれが、いまどこにいるのかを示す地図をもっていないことだ>【注1】
つまり、スポーツから消費行動まで、あらゆる減少をデータ化したがる米国が、肝心の「民主主義」をデータ化できていなかったのだ。
(4)ガーケン・イェール大学教授(ロースクール)は、選挙運営の実態をはじめて数値化した。
それによれば、米国では選挙管理システムの運営者である州務長官(州行政職のトップ)のかなりの部分が、民主党か共和党への支持を鮮明にしている。なぜなら、このポストは、より高い地位に就くためのステップであり、<中立的な無党派の立場をとると、後ろ盾となってくれる党から信用されず、出世の芽も摘まれてしまうからだ>【注2】。
かくて、二大政党のもとでは、「ニワトリ小屋をキツネたちが警備する」ことになってしまう。
もうひとつの足枷は、「極端な分権主義」だ。米国では、中央から州への権限移譲が盛んで、それによって地域のニーズにあった政策が生まれる、というメリットが生じる。
反面、米国の3,000に近い自治体のほぼ半数が、有権者数1,400人以下の小さな規模となり、予算不足から制度運営の責任者である選挙管理人ですら、本業を持ちながらパートタイムで従事せざるえない、という。
(5)州政府はデータを公表したがらない。ガーケン教授はしかし、独自に全国調査し、各州の選挙運動の公正さを格付けして公表した。
世論の力で、米国の選挙制度に変革をもたらそうとする試みは、ゆっくりと、しかし着実に進みつつある。
【注1】ヘザー・ガーケン『民主主義の指標』(未邦訳)。
【注2】前掲書。
□岩瀬達哉「「民主主義の国」アメリカの大統領選は実は不正だらけだ」(「週刊現代」2016年5月7日・14日合併号)
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