語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】創価学会のドクトリンからすると靖国神社に英霊はいない

2018年07月12日 | ●佐藤優
 <大本に関して言えば、その徹底的な弾圧の理由は、先ほど示唆したことでわかったと思いますが、権力に近寄りすぎたのです。彼らは日本の傀儡(かいらい)国家だった満州国の植民に積極的に参与したり、宮中に大本のシンパをつくろうとしたり、かなり積極的に働きかけました。これが権力を簒奪(さんだつ)しようとしているのではないかと、政府の疑念を招きました。ちなみに、大本をモデルにした小説に高橋和巳の『邪宗門』(河出文庫)があります。「ひのもと救霊会」という名前にして、戦前から戦後までを生きた世直し教団の運命を描いた小説です。
 それに対して、幸先生の話に戻りますが、創価教育学会への弾圧は違うといわれました。創価は、宗教団体としての自立性があり、自分たちのドクトリンの基本に忠実だった。別に日本という国家に対して弓を引くといった話ではありませんが、神社というものへの認識が、当局に引っ掛かったのです。
 『牧口常三郎全集』(第三文明社)第10巻に、検察側調書が収められています。特高(特別高等警察)に取り調べられたときの問答形式の調書です。これが興味深い。わかりやすく対話形式にして紹介します。
 特高はまず、「神社には神々がいますか」と、問います。それに対し牧口常三郎は「神々は神社におりません」と答える。「それでは神社は空虚なのですか」と特高が聞くと、牧口は「そうではありません。神社には鬼神がおります。ですから、その鬼神をわれわれは拝むことはしません」と。さらに特高が、「では、伊勢神宮に天照大神(あまてらすおおみかみ)はおられるか」と問います。牧口「おられません。あそこにいるのも鬼神です」
 このような論に立って牧口は、伊勢神宮の神札(かみふだ)を取ることはできないと主張しました。
 これは、戦前戦中にあっては、間違いなく不敬罪で、そのうえ治安維持法違反でもあります。そのため、牧口常三郎は1944年11月18日に、東京拘置所内で獄中死することになります。享年73歳でした。しかし、それは自分たちの原理原則に、きわめて忠実だったともいえます。
 さて、公明党の支持母体は、創価学会です。ゆえに、安倍政権との関係も、やはり微妙なものがあります。なぜなら、公明党も大臣を送りこんでいる政権与党だからです。数年前の12月に、靖国神社を安部さんが訪れたことがありました。それまでは、公明党と基本的な問題は生じていませんでした。しかし、首相が靖国神社を参拝した。言うまでもなく、靖国神社は神道の側からすると、あそこに英霊がいるということになっています。あえていえば、靖国神社は追悼のために行くのではなく、顕彰の場であり、どうもありがとうと褒め称(たた)えて、感謝に行く場所だともいえます。
 しかし、牧口常三郎の特高との問答からわかるように、創価学会のドクトリンからすると、靖国神社に英霊はいません。代わりに何がいるかといえば、鬼神です。先ほど、日連系の信者たちは、信仰の対象が何であるかに対して敏感だという話をしました。拝むと拝む対象に似てくる。日蓮系、あるいは創価学会の人は、お稲荷を拝まない、キツネを拝むとキツネのように狡くなるのを嫌うと説明しました。ということは、そういう神社には、いわゆるA級戦犯が、もしかしたらそこにいるかもしれません。そうすると、そこを拝むと拝んだ人がA級戦犯のようになってしまうかもしれません。
 つまり、その後に起きてくる70年談話や集団自衛権の問題、安保法制の問題などは、政治の問題であると同時に、宗教的な問題でもあるということです。拝む対象がそういうものであれば、その影響を受けて無意識のうちにそれを信じる行動を始めている、ということになるのではないでしょうか。この考え方は、創価学会の人から聞いてこのように言っているわけではありません。あくまで私の解釈です。>

□佐藤優『「日本」論 --東西の“革命児”から考える』(KADOKAWA、2018)の「第二講 改革と革新の源流」の「創価学会のドクトリンからすると靖国神社に英霊はいない」を引用

 【参考】
【佐藤優】宗教者の戦時下抵抗 ~大本教のスサノオ・オオクニヌシ信仰~
【佐藤優】亡くなっても魂にも個性がある/ウアゲシヒテ「原歴史」 ~「日本」論(6)~
【佐藤優】葬式は宗教の強さに関係する ~「日本」論(5)~
【佐藤優】紅白歌合戦の持つ大きな意味 ~「日本」論(4)~
【佐藤優】歴史的時間の「カイロス」と「クロノス」 ~「日本」論(3)~
【佐藤優】点と線の意味づけによって複数の歴史が生じる ~「日本」論(2)~
【佐藤優】江戸時代の「鎖国」は反カトリシズムだった ~『「日本」論 --東西の“革命児”から考える』~


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