語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】日本にとっての最大の危機は反知性主義だ ~『思考法』(7)~

2018年07月24日 | ●佐藤優
 (承前)

 <これはカトリック教会の再政治化の観点で、非常に大きな意味があります。では、どうしてカトリック教会はこれほどまでに再政治化しようとしているのか。近代的なシステムが危機的な状況になり、今生じている問題をうまく解決することができないからです。
 それで今、日本最大の脅威って何だと思います? 私は斎藤環(たまき)さんと対談をしてきたんですが、完全に見解一致するところがありました。それは今の日本にとって最大の危機は、反知性主義だということ。アンチ・インテレクチャルな傾向を尊重する。アベノミクスがそうです。論理整合性を通常のレベルで重視した場合、アベノミクスというのは出てこない政策です。金利が限りなくゼロに近いときに札を刷るのは、どう考えても金融政策とは言えません。これは財政政策です。金融政策と財政政策の区別もつかないような議論になってしまっている。明らかな反知性主義からなされるものです。
 それからうんと乱暴な言い方、しかし真実のある一面を切り取っているから言いますが、内閣総理大臣と内閣官房長官の双方が偏差値秀才でないのは、極めて異例なことです。日銀の連中が裏で何と言っているか。アベノミクスに対する最初の反発は、「成蹊(せいけい)卒の奴に言われたくねえよな」でした。それから小泉進次郎さん、あの人気。これも明らかに今までの学歴エリート、偏差値エリートと別のところに、求心力が集まっているということです。明らかにその流れの中に反知性主義があります。
 反知性主義は、危機の時代においては必ず出てきます。現場主義という言い方もその一変種です。理論だけで現場を知らない奴はダメだ。裏返すと橋本徹の強さは、その反知性主義を巧みに操ることができるところからきています。AKB48の中にも反知性主義はある。反知性主義は怖いです。状況によるとヴァンダリズム、破壊行動か暴力性に変わる可能性があるからです。>

□佐藤優『思考法 教養講座「歴史とは何か」』(角川新書、2018)の「第四講 近代〈モダン〉とは何か」の「日本にとっての最大の危機は反知性主義だ」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】対話によってイスラム過激派の脅威を解体していく ~『思考法』(5)~
【佐藤優】バチカンの大きな方針転換、「共産主義は敵」 ~『思考法』(4)~
【佐藤優】反知性主義の勃興 ~『思考法』(3)~
【佐藤優】AIに関連した宗教の具体例 ~『思考法』(2)~
【佐藤優】『思考法 教養講座「歴史とは何か」』の「新書版まえがき」

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする