著者が精力的に描いた14の系図。原発と薬害に関わった利権人脈には、政治家、役人、マスコミ、学者たち・・の人物相関図が実名で。アトミックさんのいわれるように、「エイズ事件のミドリ十字人脈と原発人脈が、壮大で綿密な系図を織りなすファミリーである」ことがはっきり知ることができました。
バラバラに見える大きな事件、現象が実は「人」を通して追跡していくと密接につながっていることに行きつく。まことに世間は広いようで狭い。ましてそれが利権を介在しての腐った形で連鎖(リング)しているとは誰も気がつかない。
福島の原発惨事は、広島、長崎の被爆、水俣病、スモン病、イタイイタイ病、大気汚染、多くの薬害被害もと同じ連鎖の上にあったのではないでしょうか。
水俣病で父親が亡くなりチッソに抗議していた患者の川本輝夫さんが、そのころ持ちあがってきた六ヶ所村問題に対して著者に話した言葉が印象的です。
「青森の人に伝えてください。あなたたちはお人好しだ、と。お人好しには2種類あって、ひとつは生菩薩のような純粋な人だが、もうひとつは馬鹿だ。チッソをみれば分かるが・・青森でも一方的な受難史がはじまるでしょう。放射能と被害の因果関係は、水銀以上に証明が難しいですからね」
四半世紀前、川本さんは、毒物被害者として、来るべき放射性核廃棄物の被害を予期していた。見える形での惨事は青森でなく、まず福島を襲ったが・・「お人好し」は青森のひとばかりでしょうか。広く公害や原発を容認してきた各地の多くの人、さらには有権者をも指しているように思う。
原子力学会を支配してきた学者人脈には、私が尊敬していた学者の名前もあった。731部隊、薬害エイズ、そして原発。それに協力し続け反省を怠った学者たちの罪は重い。
あとがきで著者は、本書を読まれたアジア諸国の人にお願いをしている。抽象的な日本人全体でなく批判は、実例と実名をあげて悪しき支配者に向けて欲しい、と。これは大切なことだと思う。逆に私たちが他国に対して行う批判も同じこと。国全体で括らず個々に絞って向けるよう心がけたい。
それにしても本書発行(1996年)に著者は、いつになく相当の反発を覚悟をしていたようだ。それだけに渾身のノンフィクション作。著者の勇気に敬意を払い益々のご活躍を期待したい。
【写真】広瀬隆氏
参考動画ニュースの深層。初期放水の無意味を広瀬氏はすでに指摘
腐蝕の連鎖 薬害と原発にひそむ人脈 | |
広瀬隆 著 | |
集英社 |