漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「夨ショク」<頭をかたむける>と「呉ゴ」「娯ゴ」「誤ゴ」「蜈ゴ」「茣ゴ」「虞グ」

2024年11月14日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 ショク・ソク  大部 cè

解字 大の字形の人が左に頭をかたむけたかたちの象形。[説文解字]は「頭を傾ける也(なり)。大に従う。象形」とする。
意味 あたまをかたむける。かたむく。



[吳] ゴ・くれ  口部 wú   

解字 「口(くち)+夨(頭をかたむける)」の会意。人が頭をかたむけて口をあけた形。呉は金文から、姓や人名および官名(山林開発・漁労担当)に用いられた[簡明金文詞典]が、後漢の[説文解字]は「姓也(なり)。亦(また)郡也(なり)」と姓や郡の名に用いるほか、一曰(一説に)呉は大言(大きな声)也(なり)。夨ショクと口コウに従う」と、大きな声の意があるとする。しかし、この解釈には疑問がある。というのは現在、ほとんど使われることない字だが、呉の音符字に「口+呉」の𠱐という字があるからだ。543年の[玉篇]は「笑わんと欲する也(なり)」とし笑う意としている。呉に口を加えたのは、呉の意味が 姓や郡名になったので、本来の意味を表すために口をつけた形であり(そのため、この字には口が二つある)、呉のもとの意味は「わらう」と考えられる。そこで、私は音符イメージとして「わらう」を挙げることとしたい。なお、吳は旧字。呉の音符字は常用漢字で「呉」と表記され、それ以外は「吳」になる。

中国語スクリプト(「呉越同舟」より)
意味 (1)昔の中国の国名。長江下流の蘇州や南京を都とした国。「呉越同舟ゴエツドウシュウ」(反目している呉と越の人が同じ船に乗る)「呉姫ゴキ」(呉の美しい女性)(2)中国の長江下流地域の総称。「呉音ゴオン」(日本漢字音の一つ。南北朝時代の南方方言をもとにしている)(4)姓のひとつ。「呉子ゴシ」(兵法家で「呉起ゴキ」という名の兵法書を出した)(5)[国]くれ(呉)。古く日本で中国を指した呼称。日が暮れる方角に当たるからと言われる。「呉竹くれたけ」(呉くれから渡来した竹、①淡竹ハチクの異称、②真竹の異称)「呉織くれはとり」(大和朝廷に仕えた渡来系の機織りの技術者、また、その織物。はとりは、はたおりの略)(6)[国]くれる(呉れる)。与える。

イメージ 
 「仮借(当て字)」
(呉) 
 「わらう」(娯)
 「形声字」(誤・虞・蜈・茣)
音の変化  ゴ:呉・娯・誤・蜈  グ:虞  

わらう
 ゴ・たのしむ  女部 yú
解字 「女(おんな)+呉(わらう)」の会意形声。女がわらい、たのしむさまを娯という。[説文解字]は「楽(たのし)む也(なり)。女に従い呉の聲(声)」とする。
意味 たのしむ(娯しむ)。たのしみ。「娯楽ゴラク」「歓娯カンゴ」(よろこびたのしむ)「娯喜ゴキ」(よろこんでたのしむ)

形声字
 ゴ・あやまる  言部 wù 
解字 「言(いう)+呉(ゴ)」の形声。言いまちがえることを誤という。[説文解字]は「謬(あやま)る也(なり)。言に従い吳聲(声)」とする。
意味 あやまる(誤る)。あやまり。まちがい。「誤報ゴホウ」「誤解ゴカイ」「錯誤サクゴ」(①あやまり。まちがい。②現実と思っていることが一致しない。時代錯誤)
 グ・おそれ・おもんばかる  虍部 yú
解字 「虍(虎の頭)+呉(ゴ⇒グ)」の形声。虎の頭をかぶって踊る神楽舞を虞という。虎のように踊るのでおそれる意となり、また、おもんばかる意となる。
意味 (1)おそれ(虞)。おそれる。うれえる。「憂虞ユウグ」(うれえおそれる)(2)おもんばかる(虞る)。前もって考える。「不虞フグ」(①思いがけない出来事。②先のことを前もって考えない)「虞を以て不虞フグを待つ者は勝つ<孫子>」(注意深く準備した上で、準備の足りない敵を待ち受ける者は勝つ)(3)中国古代の王朝名。舜が帝位にあった期間。「虞舜グシュン」(舜が帝王であった王朝の名)(4)人名。「虞美人グビジン」(秦末の武将・項羽の愛人=虞姫グキ)「虞美人草グビジンソウ」(ひなげしの別名)
 ゴ  虫部 wú
解字 「虫(むし)+吳(ゴ)」の形声。ゴという名の虫。「蜈蚣ゴコウ」に用いられる。ムカデ科の節足動物をいう。
意味 「蜈蚣ゴコウ・むかで」に用いられる字。蜈蚣とは、ムカデ科の節足動物の総称。多数の足があり身をくねらせて進む。蚣コウもむかでの意。百足とも書く。
 ゴ  艸部 wú
解字 「艸(くさ)+吳(ゴ)」の形声。ゴという名の艸(草)。「茣蓙ゴザ」に用いる。
意味 「茣蓙ゴザ」とは、藺草で編んだ縁つきの筵むしろ
 ゴ・おじか  鹿部 yǔ
解字 「鹿(しか)+吳(ゴ)」の形声。牡(おす)の鹿をという。
意味 (1)おじか(麌)。(2)「麌麌ゴゴ」とは、群がり集まるさま。
<紫色は常用漢字>

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