漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「旁ボウ」<かたわら・ひろがる>と「傍ボウ」「榜ボウ」「謗ボウ」「牓ボウ」「膀ボウ」「蒡ボウ」「磅ボウ」「滂ボウ」

2024年11月04日 | 漢字の音符
  増補改訂しました。
 ボウ・ホウ・かたわら・つくり  方部 páng・bàng

解字 甲骨文と金文は「凡ボン・ハン+方(方向)」の会意形声。凡は舟などの形であるが、ここでの意味は不明。方は方角・方向の意で発音も兼ねる。旁はこの他にも多様な字体があるが、甲骨文字の意味は、①地名またはその長。殷に敵対した「旁方」と呼ばれる地名、②祭祀名、となっている[甲骨文字辞典]。金文は[簡明金文詞典]が、①方向、方位、②人名、とする。篆文は方以外の部分が大きく変化した。[説文解字]は「溥(あまねし・ひろい・おおきい)也(なり)。方の聲(声)」とし、意味が変化した。その後の隷書(漢代)以降では、隋の訓詁書の[博雅]は「旁、大也。廣(ひろい)也」とし説文解字と同じ意味だが、543年の[玉篇]は「猶(なお)側ソク(そば・かたわら)也(なり)。一方に非(あら)ず也(なり)」とし、「かたわら」の意味があるとする。しかし、その字体から意味の変化を知るのはむずかしい。
 現代字は旁となったが、意味は篆文以降の、あまねく・ひろい意、および、かたわらの意味があるが、「かたわら・そば」の意は、日本では人をつけた傍ボウが受け持っており、現在、旁の字は、漢字の「つくり(旁)」の意がポピュラーである。
 なお、旁の音符字を点検してみると、「かたわら」の意味で解字できるものと、それ以外のものがある。そこで、イメージは「かたわら」とし、それ以外の字は「形声字」として解字した。
意味 (1)あまねく。ひろい。「旁引ボウイン」(広く調べ出す。広く考証する。博引)「博引旁証ハクインボウショウ」(広く引用し広く証拠を示して説明する)(2)かたわら(旁ら)。(=傍ら)(3)つくり(旁)。漢字の右辺の部分。
覚え方 傍の字を参照。傍を、ごろ合わせで覚えておくと、旁も書けて便利。

イメージ 
 「かたわら」
(旁・傍・榜・牓・膀)
 「形声字」(謗・蒡・滂・磅)
音の変化  
  ボウ:旁・傍・榜・牓・膀・謗・蒡・磅  ボウ・ホウ:滂

かたわら
 ボウ・かたわら・はた  イ部 bàng
解字 「イ(人)+旁(かたわら)」の会意形声。かたわらにいる人。転じて「かたわら」の意となる。旁が、あまねく・かたわら両方の意があるので、人をつけて、かたわらの意を明確にした字。
意味 (1)かたわら(傍ら)。はた(傍)。そば(傍)。わき(傍)。「傍線ボウセン」(文字や文章のわきに引く線)「路傍ロボウ」(みちばた)「傍観ボウカン」(かたわらで見る)「傍若無人ボウジャクブジン」(傍らに人無きが若(ごと)し)(2)分かれた。派生した。「傍系ボウケイ」「傍流ボウリュウ」「傍証ボウショウ」(証拠となる傍系の資料。間接の証拠)(3)つくり(傍=旁)  
覚え方 ひと()たつわ(立ワ=冖)ほう()ぼうに観者 (※立の下とワの上は重なる)
 ボウ  木部 bǎng・bàng
解字 「木(いた)+旁(かたわら)」の会意形声。道や建物のかたわらに立てた木製の掲示板。
意味 (1)たてふだ。掲示板。「榜札ボウサツ」(たてふだ)。(2)官吏登用試験の合格者を発表する掲示板。「金榜キンボウ」(金色の紙に書いた合格者の掲示板。金牓とも)「榜元ボウゲン」(官吏登用試験の首席合格者)(2)かかげしめす。「標榜ヒョウボウ」(かかげあらわす)

金榜キンボウ。金色の紙に書いた官吏登用試験合格者の掲示板(「北京孔子廟・国子監博物館の展示」)
 ボウ  片部 bǎng
解字 「片(木の板)+旁(かたわら)」の会意形声。土地の境界(かたわら)に立てた目印の木札。
 牓示石
意味 (1)たてふだ。「牓札ボウサツ」(たてふだ=榜札)(2)境界の表示札。「牓示ボウジ」(木の杙くいや石などで領地の境界を標示したもの)「牓示杙ボウジぐい」(荘園などのさかいぐい)「牓示石ボウジいし」(荘園などの境界石)
 ボウ  月部にく bǎng・páng・pāng
解字 「月(からだ)+旁(かたわら)」の会意形声。月(からだ)の旁(かたわら)にある部分で、片腹、片腕、昆虫などの羽をいう。なお、膀胱ボウコウ(ゆばりぶくろ)には、かたわらの意味はなく形声字である。
意味 (1)わき。わきばら。(2)かたうで。「膀臂ボウヒ」(片腕。助っ人。臂は、うでの意)(3)かたわらに付く羽。「翅膀シボウ」(昆虫などの羽)(4)「膀胱ボウコウ」とは、尿を一時的に溜める袋状の器官(ゆばりぶくろ)に使われる字。下腹部中央に位置する。膀ボウも胱コウも形声字。

形声字
 ボウ・そしる  言部 bàng
解字 「言(いう)+旁(ボウ)」の形声。相手の欠点をあげつらって言うことを謗ボウという。後漢の[説文解字]は「毀(そしる)也(なり)。言に従い旁ボウの聲(声)」とする。
意味 そしる(謗る)。悪口をいう。「謗言ボウゲン」「誹謗ヒボウ」(誹も謗も、そしる意)「誹謗中傷ヒボウチュウショウ」(悪口を言いふらして他人を傷つける)「毀謗キボウ」(人を非難する。毀はこぼつ意)「ザンボウ」(あしざまに言ってそしる)「分謗ブンボウ」(同僚が謗りを受けるのを自分も分かち合う)
 ボウ  艸部 bàng

葉付きの牛蒡
解字 「艸(草)+旁(ボウ)」の形声。ボウという名の草。「牛蒡ゴボウ」に用いる字。
意味 「牛蒡ゴボウ」とは、キク科の二年草。古くは薬草として中国から伝来。日本では根菜として栽培される。牛は草木の大きいものに冠され、蒡ボウのなかでも大きいものを指して言った言葉。「牛蒡子ゴボウシ」(ゴボウの種子を乾燥したもの。民間薬として消炎、解毒、解熱効果がある)
 ボウ・ホウ  氵部 pāng
解字 「氵(みず)+旁(ボウ・ホウ)」の形声。水が盛んに流れたり、雨が盛んに降るさまを滂ボウ・ホウという。[説文解字]は「沛ハイ(雨や水の勢いがよいさま)也(なり)。水に従い旁の聲(声)」とする。
意味 (1)水が盛んに流れたり、雨が盛んに降るさま。「滂湃ホウハイ」(水勢の盛んなさま)「滂沛ホウハイ」(①水の豊かで広い。②雨が盛んに降る。③恩沢が豊か) (2)涙の盛んに流れるさま。「滂沱ボウダの涙」(涙が盛んに流れる)(3)豊かで広い。「滂洋ホウヨウ
 ホウ・ポンド  石部 bàng・páng
解字 「石(いし)+旁(ホウ)」の形声。石が落ちる音を磅ホウという。六朝時代の梁の[玉篇]は「石の聲(声)なり」とし石の崩落する音の形容。また、イギリスの重さの単位であるポンド(pound)をいう。
意味(1)石が落ちる音の形容。また落ちる音が広がる意。「磅磅ホウホウ」(石がぶつかって飛び散る音)「磅唐ホウトウ」(①ひろくはびこる。②音が四方に響きわたる)(2)ポンド(磅)。イギリスの重量の単位(pound)。1ポンドは、453.592グラム。また、貨幣の単位(pound)。
<紫色は常用漢字>

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