漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「羅ラ」<鳥あみ> と「羅ラ」「邏ラ」「蘿ラ」「鑼ラ」「罹リ」

2023年11月09日 | 漢字の音符
 ラ・あみ  罒部  

解字 甲骨文は「网(あみ)+隹(とり)」 の形で、細い糸でできた目の細かいカスミ網で、隹(とり)を捕えること。篆文は、これに糸をつけて鳥あみが細い糸でできていることを表した。現代字は、网(あみ)⇒ 罒に変化した羅となった。意味は細かい鳥あみ、(支柱を立てて鳥あみをいくつも)並べる、鳥あみのような細かい薄絹をいう。
意味 (1)あみ(羅)。鳥あみ。あみで捕える。「網羅モウラ」(網は魚をとるあみ、羅は鳥あみ。もらすことなく、すべて収め入れること)「雀羅ジャクラ」(雀をとらえるあみ)「門前雀羅モンゼンジャクラ」(門の前に雀羅を張れるほど人の出入りが少ない。さびれている) (2)(鳥あみを)つらねる。ならべる。「羅列ラレツ」(つらなり並ぶ) (3)うすい絹。あやぎぬ。「羅衣ライ」(うすものの着物)「綺羅キラ」(あやぎぬと、うすぎぬ。うつくしくきれいな衣服) (4)梵語の音訳。外国地名。「羅漢ラカン」(梵語のarhan(阿羅漢アラカン)の略。仏教修行の最高段階に達した人)「羅馬ローマ」(イタリアの首都) (5)「羅針盤ラシンバン」とは、磁石の針を利用して方位を知る装置。船や飛行機の航行に用いる。語源は、中国の風水術で地相占いに使われる羅盤ラバンというアミの目のように細かく方位が書かれた盤の中央に方位磁針を組み込んだので羅針盤と呼ばれた)

イメージ 
 「とりあみ」
(羅・邏・蘿)
 「とりあみにかかる」(罹)
 「ラの音」(鑼)
音の変化  ラ:羅・邏・蘿・鑼  リ:罹

とりあみ
 ラ・めぐる  辶部
解字 「辶(ゆく)+羅(とりあみ)」の会意形声。鳥あみの目のように細かくすみずみまで歩いて巡回すること。
意味 めぐる(邏る)。見回る。「邏卒ラソツ」(見回りの兵士)「警邏ケイラ」(見回って警戒すること。また、その人)「巡邏ジュンラ」(巡回して警備すること。パトロール)
 ラ・つた  艸部
解字 「艸(くさ)+羅(とりあみ)」の会意形声。とりあみのようにからまって生える草で、つた・かずらをいう。
意味 (1)つた(蘿)。かずら。「蘿経ラケイ」(つたのしげった小道)「蘿月ラゲツ」(つたにかかって見える月)「蘿衣ライ」(こけの一種。さるおがせ)「蘿蔔ラフク」(大根の漢名。すずしろ)「海蘿ふのり」(①海産の紅藻類の一種。②フクロフノリを干し固めたもの。煮て糊に用いる) (2)つのよもぎ。

とりあみにかかる
 リ・かかる   忄部
解字 「忄(こころ)+羅の略体(とりあみにかかる)」の会意形声。あみにかかった鳥の心情を人に例えて、うえれる・なやむ意となる。また、鳥が不幸にもあみにかかることから、病気にかかったり災難に出会う意で用いられる。
意味  (1)うれえる。なやみ。「百罹ヒャクリに逢えり」(多くのなやみに逢う)(2)かかる(罹る)。こうむる。病気にかかる。「罹患リカン」(病気にかかる。罹も患も、病気にかかる意=罹病リビョウ)「罹災リサイ」(災難や災害にあう)

ラの音
 ラ  金部
 
銅鑼(石川県「無形文化財」より)
解字 「金(金属)+羅(ラ)」の形声。ラと呼ばれる円盤状の金属製打楽器をいう。銅製のものを銅鑼ドウラといったので、短縮したドラという名称で知られる。[説文解字]になく新しい字、明末の[正字通]に「銅を爲し之を築く。形は盆の如し。楽書に銅鑼と有る」とする。
意味 どら(銅鑼)。銅製の盆形の打楽器。紐で吊り下げてバチで打ち鳴らす。仏教の法要、民俗芸能の囃子、歌舞伎の下座(舞台の左方で演奏される)音楽、茶席に入るときの合図、出帆の合図などに用いられる。「銅鑼焼ドラやき」(銅鑼の形をした和菓子)
<紫色は常用漢字>

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音符「翟テキ」<長く美しいキジの羽>と「擢テキ」「濯タク」「躍ヤク」「曜ヨウ」「耀ヨウ」

2023年11月07日 | 漢字の音符
  増補改訂しました。
 テキ・タク・ジャク  羽部

解字 「羽(はね)+隹(とり)」の会意。長く美しい羽をもつ鳥の意で、雉(きじ)を表す。雉の雄は羽が美しく、また、長い羽を高くあげたり、上下させることから、翟を含む字は、(羽を)高くあげる、上げ下げする、イメージを持つ。
 
尾の長いキジ(中国のネットから。現在なし)  

キジの羽をつける京劇の役者
意味 (1)尾の長いキジ。 (2)きじばね。「翟衣テキイ」(きじの羽で飾った衣)「翟者テキシャ」(きじの羽を持って舞う役者。楽吏の下級の者)

イメージ 
 「きじのはね」
(翟)
  きじが羽を「高くあげる」(躍・擢)
  きじが羽を「上げ下げする」(濯・櫂・糶・糴・戳)
 「形声字」(曜・燿・耀)
音の変化  テキ:翟・擢・糴  タク:濯・戳  チョウ:糶  トウ:櫂  ヤク:躍  ヨウ:曜・燿・耀

高くあげる
 ヤク・おどる  足部
解字 「足(あし)+翟(高くあげる)」の会意形声。足を高くあげて飛びあがること。
意味 おどる(躍る)。おどりあがる。とびはねる。「躍進ヤクシン」(勢いよく進む)「躍動ヤクドウ」(いきいきと動く)「躍起ヤッキ」(必死になる)「跳躍チョウヤク」(地面を蹴ってとびあがる)
 テキ・タク・ぬく・ぬきんでる  扌部
解字 「扌(手)+翟(高くあげる)」の会意形声。手で物を高く抜きあげること。
意味 (1)ぬく(擢く)。ひきぬく。「抜擢バッテキ」(多くの中から特に引き抜いて登用する)「擢用テキヨウ」(=抜擢。選び出して取り立てる) (2)ぬきんでる(擢んでる)。「擢秀テキシュウ」(すぐれぬきんでること)

上げ下げする
 タク・あらう・すすぐ  氵部  
解字 「氵(水)+翟(上げ下げする)」の会意形声。水につけたものを上げ下げする。
意味 あらう(濯う)。すすぐ(濯ぐ)。「洗濯センタク」「濯澡タクソウ」(=洗濯)「濯足タクソク」(足をあらう)
 トウ・かい  木部
解字 「木(き)+翟(上げ下げする)」の会意形声。水の中を上げ下げしてかき、舟をすすませる木製のかい。 
意味 かい(櫂)。オール。かいで舟をこぐ。「櫂舟トウシュウ」(櫂で舟をこぐ)「櫂歌トウカ」(舟歌)「櫂先かいさき」(①櫂のさき。②茶杓の先の抹茶をすくうところ)
 チョウ・うりよね・せり  米部
解字 「出(だす)+米(こめ)+翟(あげさげする)」の会意形声。相場が上げ下げする市場に米を出すこと。市場に米を出して競ること。
意味 (1)米を売りに出す。うりよね()。「チョウバイ」(①米を売ること。②せりうりする) (2)せり()。せりうり。競売。「せりいち」(価格のせりあいをする市)「せどり」(同業者間の売買の仲介をして手数料をとる=競取)
 テキ・いりよね・かいよね  米部
解字 「入(はいる)+米(こめ)+翟(あげさげする)」の会意形声。相場が上げ下げする市場から米を買い入れること。
意味 かいよね()。いりよね()。「糴糶テキチョウ」(穀物の売買)
 タク・(さす)  戈部
解字 「戈(ほこ)+翟(あげさげする)」の会意形声。武器の戈(ほこ)を上げ下げして、刺すこと。転義で印を押す意味がある。
意味 (1)さす。つく。「戳穿タクセン」(さしつらぬく) (2)さして傷つける。「戳傷タクショウ」(さしきず) (3)印を押す。「戳記タクキ」(印章。スタンプ)

形声字
 ヨウ・かがやく  火部
解字 「火(ひ)+翟(テキ⇒ヨウ)」の形声。[説文解字]は「照(て)る也(なり)。火に従い翟の聲(声)。発音は弋笑切(ヨウ)」とする。火の光がかがやく意。火がかがやく意で出来たのが燿。しかし、のちに輝ができ、取って代わられた。
意味 かがやく(燿く)。(=輝く)。「燿徳ヨウトク」(徳をかがやかす)
耀 ヨウ・かがやく  羽部(本来は光だが、光は部首にならない)
解字 「光(ひかり)+翟(ヨウ=燿ヨウ)」の形声。光かがやくこと。燿の字の火⇒光に変えてできた後起の字。篆文になく北魏の石碑に見える[字通]。現在は、この字がよく使われる。部首は本来、光だが、この字は部首にならないため、便宜的に翟の羽が部首になっている。
意味 かがやく(耀く)。ひかる。てる。「耀光ヨウコウ」(耀く光り)「栄耀エイヨウ」(栄え耀く)「耀名ヨウメイ」(名を輝かす)
 ヨウ・かがやく  日部
解字 「日(日光)+翟(ヨウ=燿ヨウ)」の形声。翟(ヨウ)は燿ヨウの略体。日がかがやく意。転じて、日・月・星の総称。
意味 (1)かがやく(曜く)。日のかがやき。ひかり。 「照曜ショウヨウ」(照りかがやく) (2)日・月・星の総称。空のかがやく七つの星。日・月と五星(火・水・木・金・土)を七曜という。 (3)一週間を七曜に当てはめた各曜日。
<紫色は常用漢字>

疑問 翟を含む常用漢字の曜・濯・躍、およびそれに準じた耀は、羽の部分がヨをならべたヨヨの形になっている。意味も隹(とり)の羽なのだから「羽」と書くべきではなかろうか。中国簡体字は躍[跃]だけが簡略化されているが、あとの全ておよび繁体字も「羽」である。
 
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音符「東トウ」<荷物を入れたふくろ>と「棟トウ」「凍トウ」「陳チン」

2023年11月05日 | 漢字の音符
  鶇つぐみ、を追加しました。
 トウ・ひがし  木部  
 
東は筒状の袋に荷物を入れ、両端を結んだ形。
(李楽毅著「漢字演変字典1000例」の東より)

解字 甲骨文・金文とも筒状の袋の両端を縄でしばった形の象形。袋の中ほどもしばっており甲骨文第二字はタスキがけに結んでいる。この袋は普段は両端が開いている袋で、荷物を入れて運ぶのに使用した。袋に荷物を詰めると両端を結び、人が背負って運んだ。この字形が「重い」という字になる(音符「重ジュウ」を参照)。また、家畜の背に積むときは中ほどに荷物をいれないようにして、背で振り分けた。
 甲骨文字では仮借カシャ(当て字)して方角の東の意味で使われた。字形は篆文から木のあいだに日が入った「東」の形に変化した。
意味 ひがし(東)。「東天トウテン」(東の空)「極東キョクトウ」「関東カントウ」「東遷トウセン」(都などが東へ移動する)「東征トウセイ」(東の敵を征伐する)

イメージ 
 「仮借カシャ
(東)
 「形声文字」(棟・凍・鶇)
 本来の意味の「荷物を入れたふくろ」(陳)
音の変化  トウ:東・棟・凍・鶇  チン:陳

形声文字
 トウ・むね・むな  木部
解字 「木(き)+東(トウ)」の形声。トウは通トウ・ツウ(とおる)に通じ、屋根の最も高い所をつらぬいて通る木。甲骨・金文の袋は普段は両端が開いている袋であり、通る意味があるのではないだろうか[私見]。なお[説文解字]は「極キョク也。木に従い東の聲(声)」とし、「同注」は「極者(は)屋の至高之(の)處(ところ)を謂(い)う」と補足している。
意味 (1)むね(棟)。むなぎ(棟木)。屋根の最も高い水平部分。また、その部分の木。「棟上(むねあ)げ」「棟瓦むねがわら・むながわら」「棟幹トウカン」(棟に使う太い木。すぐれた才能) (2)かしら。「棟梁トウリョウ」(棟むねと梁はり。集団のささえとなる統率者)
 トウ・こおる・こごえる  冫部
解字 「冫(こおり)+東(トウ)」の形声。トウは通トウ・ツウ(とおる)に通じ、氷の冷たさが隅々まで通ること。[説文解字]は「仌(冫=こおり)也。仌に従い東の聲(声)」としている。
意味 (1)こおる(凍る)。いてる(凍てる)。「凍結トウケツ」「凍土トウド」 (2)こごえる(凍える)。「凍傷トウショウ」「凍死トウシ
 トウ・つぐみ  鳥部
解字 「鳥(とり)+東(トウの音)」の形声。トウという名の鳥。つぐみをいう。

ツグミ(「野鳥図鑑・日本野鳥の会」より)
意味 つぐみ(鶇)。鶫とも書く。スズメ目ヒタキ科の鳥。シベリアで繁殖し秋に大群で中国や日本に飛来する渡り鳥。上記の「野鳥図鑑」は「日本では秋に林に渡来するが、冬には農耕地、河川敷、芝生などの開けた地上で見る。「クィクィ」または「キュッキュー」と2声で鳴くことが多い」と説明している。

荷物を入れたふくろ
 チン・のべる・つらねる・ひねる  阝部  

解字 金文は、「阝(神が降りるはしご)+土(つち)+東(ふくろ)」の会意。「阝+土」は梯子から神が降り立つ地、そこに東(ふくろ)がついた陳は、神が降り立つ地の前に袋の中の供物をつらね、神に願い事をのべること。つらねる意と、のべる意になる。篆文と現代字は土が省略された陳となる。また、供物を長いあいだ供えて置くと、古くなり陳腐の意となる。
意味 (1)ならべる。つらねる(陳ねる)。「陳列チンレツ」「出陳シュッチン」 (2)のべる(陳べる)。申し立てる。「陳述チンジュツ」「陳情チンジョウ」「陳謝チンシャ」(事情を陳べて相手に謝る) (3)ふるい。ひねる(陳ねる)。「陳腐チンプ」(古くて腐る。ふるくさい)「陳皮チンピ」(ミカンの皮を乾かした生薬。(ミカンの)皮が古い意)
<紫色は常用漢字>

  <東が含まれる音符>
 ジュウ・チョウ・え・おもい・かさねる・かさなる  里部 

解字 金文第一字は「人(ひと)+東(中に荷物が入った袋)」で、人が荷物をいれた袋を背負う形。荷物が重い意となる。金文第二字は人が東の上にきた形。篆文は、さらに下に土がつき人が持つ袋の重みが土にかかる意で、重い意を表す。現代字は形が変わり、千と里がつながった重になった。したがって部首は里になっている。
意味 (1)おもい(重い)。おもさ。「重量ジュウリョウ」 (2)おもおもしい「重厚ジュウコウ」 (3)大切にする。「重用チョウヨウ」 (4)かさなる(重なる)。「重箱ジュウばこ」「八重やえ
https://blog.goo.ne.jp/ishiseiji/e/c389762c6e634eb7148b25ab803b4ffb

 ソウ・ゾウ・ともがら   曰部

解字 甲骨文字は、「東(荷物を入れた袋)+東(荷物を入れた袋)+口(くち)」の形。東東は荷物二つで荷物を運ぶ二人を表す。そこに口がついて、荷物を運ぶ人が互いに話をしている形で、ともがら・なかまの意。金文は口⇒口にものを含む形になり、篆文は曰(いう)になったが意味は話す意で変わらず、同じ職業のなかまの意。後に裁判用語として使われたため、司法関係の役所やひろく役人の意味となった。楷書から曰⇒日となり上部が簡略化された曹となった。東が荷物を入れた袋であることについては、音符「東トウ」を参照。
意味 (1)なかま。ともがら(曹)。 (2)つかさ。裁判官。役人。「法曹ホウソウ」(法律家) (3)軍隊などの階級の一つ。「軍曹グンソウ」 (4)「曹司ゾウシ」とは、官吏や女官の部屋の意。「御曹司オンゾウシ」(堂上家の部屋住みの子息。名門の子弟) (5)外国語の音訳。「曹達ソーダ」(オランダ語 soda[ナトリウム塩。通常は炭酸ナトリウムを指す]の音訳語)「重曹ジュウソウ」(重炭酸曹達の略。炭酸水素ナトリウムの俗称)
https://blog.goo.ne.jp/ishiseiji/e/71ee5c5316397553917aa6156f676619

 リョウ・はかる  里部

解字 甲骨文は、穀物をいれる袋の上に、注ぎ口を表した形。穀物の量をはかる意味を示す。金文は口⇒日に変化。篆文以降、形が変化し、現代字は、「日+一+里」の形になった。漢字検索のための部首は里。形が大幅に変化しているので、ごろ合わせで覚えると便利。
覚え方 ひ(日)に、いち(一)ど、さと(里)で、量って計量す。
意味 (1)はかる(量る)。「計量ケイリョウ」「量器リョウキ」 (2)かさ。容積。人間のもつ力や気持ちの大きさ。「容量ヨウリョウ」「力量リキリョウ」「度量ドリョウ」 (3)ます。「度量衡ドリョウコウ」(長さと容積と重さ)
https://blog.goo.ne.jp/ishiseiji/e/b9aa36b7a202a83af4c856458e3a9657

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音符「妟エン」 <陽の気になる女> と 「宴エン」 「匽エン」「堰エン」

2023年11月03日 | 漢字の音符
   改訂しました。
 エン  女部          

解字 妟は篆文からできた字で、金文は宴から妟を抜き出した。金文は「日(太陽)+女」で女の後ろに太陽が描かれている形。篆文は日が女の上にきた妟エンとなった。意味は[説文解字]が「妟は安也(なり)。女、日に従う」とし、安んじる意とする。私は匽エンと共通するイメージとして「陽の気になる(女)」とした。
意味 (1)やすんじる。 (2)太陽が出て清らかで明るいさま。

イメージ 
 太陽と女から「陽の気になる」(宴)
陽の気になる
 エン・うたげ  宀部  
解字 「宀(建物)+妟(陽の気になる)」の会意形声。建物の中で、陽気になって楽しんだりくつろぐこと。のちに転じて、さかもり・うたげの意味になった。[説文解字]は「安也。宀と妟に従う」とし、[同注]は「引伸して宴饗エンキョウ(もてなしのさかもり)と為す」とする。
意味 (1)たのしむ・くつろぐ。「宴息エンソク」(くつろいで休む)「宴安エンアン」(くつろぐ)「宴楽エンラク」(心がやわらぎ楽しむ) (2)うたげ(宴)。さかもり。「宴会エンカイ」「酒宴シュエン」「宴餞エンセン」(送別の宴) 


    エン <ふせる>
 エン・ふせる  匸部   

解字 「匸(はこ形のかこい)+妟(陽の気の女)」の会意形声。かこいの中に入った女が、陽気をなくして伏せること。
意味 (1)かくす。 (2)ふせる。たおす。「匽武エンブ」(武器をふせる。戦いをやめる)(=偃武)

イメージ 
 「ふせる」
(匽・偃・堰・・蝘)
音の変化  エン:匽・偃・堰・・蝘

ふせる
 エン・ふせる  イ部
解字 「イ(ひと)+匽(ふせる)」の会意形声。人が伏せて横になること。また、活動をやめること。
意味 (1)ふせる(偃せる)。うつむく。よこになる。たおれる。「偃息エンソク」(寝ころんで休息する)「偃月エンゲツ」(半月。弓張り月。月の弦が横になる状態)「偃旗息鼓エンキソクコ」(旗をふせ太鼓を鳴らさない。軍隊のありかをくらます) (2)やめる。とどめる。「偃戈エンカ」(戈ほこをしまって使用しない。戦いをやめる)「偃武エンブ」(武器をふせる。戦争をやめる)「偃武修文エンブシュウブン」(戦争をやめ文[学問など]を修める)
 エン・せき  土部
解字 「土(つち)+匽(ふせる)」の会意形声。川に土をふせて(積んで)せきとめること。
意味 (1)せき(堰)。いせき。ダム。「堰堤エンテイ」(川をせき止めた堤。ダム) (2)せきとめる。「堰塞エンソク」(せきとめて塞ふさぐこと)
 エン・もぐら  鼠部
解字 「鼠(ねずみ)+匽(ふせる)」の会意形声。土のなかで、ふせて(もぐって)生活するねずみ。もぐらの意。
意味 もぐら()。土竜とも書く。モグラ科の哺乳動物。土のなかでトンネルを作り生活する。「エンソ・もぐら
 エン  虫部
解字 「虫(爬虫類)+匽(ふせる)」の会意形声。家の壁や天井裏にふせて(隠れて)いて、夜になると出てきて昆虫などを捕食する「やもり」をいう。
意味 (1)やもり。「蝘蜓エンテイ」(①やもり。②トカゲ科の爬虫類の総称) (2)蝉の一種。なつぜみ。
<紫色は常用漢字>

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音符「豕シ」と 「豚トン」「逐チク」「豖タク・チク」と「啄タク」「琢タク」「塚チョウ」 「圂コン」

2023年11月01日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 シ・い・いのこ  豕部いのこ

解字 いのしし、またはぶたの姿を描いた象形。部首「いのこ」「いのこへん」となる。音符として使われることはなく、会意として、いのしし・ぶたなどの意を表わす。亥と似ているが、亥は豚などの骨格を、豕は動物の豚(ぶた)を示す。
意味 い(豕)。いのこ(豕)。いのしし。ブタ類の総称。「亥豕ガイシの誤り」(文字の書き誤りのこと)
参考 豕は部首「豕いのこ」になる。漢字の右辺や下部に付いて、イノシシの意味を表す。[新漢語林]には、24字が収録されている。
常用漢字 3字
 ゴウ・やまあらし(豕+音符「高コウ」)
 トン・ぶた(豕+月(にく)の会意)
 ゾウ・ぞう(下部に豕を含むので便宜的に分類される)
※このうち、豪ゴウ・豚トン・象ゾウともに音符となる。

イメージ 
 「ぶた・いのしし」
(豕・豚・遯・逐)
音の変化  シ:豕  チク:逐  トン:豚・遯

ぶた・いのしし
 トン・ぶた  豕部
解字 「月(にく)+豕(ぶた)」の会意。ぶたの肉の意で、肉をとるための豚を表わす。
意味 (1)ぶた(豚)。こぶた。いのこ。「豚児トンジ」(不出来な息子) (2)「河豚カトン」とは、ふぐのこと。ずんぐりとした形が似ているから。
 トン・のがれる  辶部
解字 「辶(ゆく)+豚(トン)」 の形声。トンは遁トン(のがれる)に通じ、のがれる意を、辶(ゆく)を付けて表した。なお、この字はすべて遁トンに置き換えが可能である。
意味 (1)のがれる(遯れる)。にげる。「遯走トンソウ」 (2)かくれる。「遯世トンセイ」(①隠居する。②仏門に入る)「遯竄トンザン」(にげうせる)「隠遯イントン」(世間をのがれて隠れる)
 チク・おう  辶部           

解字 甲骨文はいのししの下に止(足)の形を描き、いのししを人が追っているさま。金文は、いのししに彳(ゆく)と止(足)を描く。この部分が篆文でしんにょうの原形(辵)に変化している。現代字は、「辶(ゆく)+豕(いのしし)」の会意で、いのししを追ってゆくこと。
意味 (1)おう(逐う)。おいかける。おい払う。「駆逐クチク」(おいはらうこと)「放逐ホウチク」(おいやる・おいはらう)「逐電チクデン」(①いなずまを追う。速力が非常に速い。②[国]にげうせる。にげて行方をくらます) (2)順を追う。「逐一チクイチ」(ひとつひとつ)「逐次チクジ」(次々に)「逐語チクゴ」(一語一語) (3)きそう。争う。「角逐カクチク」 


  豖[豕] タク・チク <犠牲にしたぶた>
豖[豕]  タク・チク  豕部  

解字 豚に右下がりの斜線を入れ、豚を犠牲にした形。単独の字となることはない。新字体では斜線がとれて「豕」と表現され、豕シ(い・いのこ)と字体が同じになるが、発音と意味が異なる。また、豕(豖)タクは、その発音からものをたたく音の擬声語としても用いられる。

イメージ  
 「犠牲にした豚」
(冢・塚)
 「ものをたたく音」(啄・琢)
音の変化  タク:啄・琢  チョウ:冢・塚

犠牲にしたぶた
 チョウ・つか  冖部
解字 「冖(上からおおう)+豖(犠牲にした豚)」の会意。犠牲獣をともなった墳墓のこと。
意味 (1)つか(冢)。大きな墓。「冢墓チョウボ」(墓)「冢樹チョウジュ」(墓に植えてある樹) (2)おか(丘)。「丘冢キュウチョウ」(①丘。②丘のような墳墓)
 チョウ・つか  土部
解字 旧字はで「土+冢チョウ(つか)」の会意形声。土を盛り上げた墳墓のこと。冢チョウの意味を、土をつけて強調した字。現代字は斜線がとれた塚。
意味 (1)つか(塚)。土を高く盛って築いた墳墓。「塚穴つかあな」(墓とする穴) (2)塚のように土が盛りあがったもの「一里塚いちりづか」「貝塚かいづか」「蟻塚ありづか」 (3)姓。「大塚おおつか」「塚本つかもと」「塚原つかはら」「塚越つかごし」「手塚てづか

ものをたたく音
 タク・トク・ついばむ  口部
解字 旧字は「口(くち)+豖(タク)」の形声。タクはものをたたく音の擬声語で、鳥が口ばしで木をつつく音になぞらえる。新字体は、豖⇒豕に変化した。
意味 (1)ついばむ(啄む)。くちばしでつつく。「啄木タクボク」(木をつつく)「啄木鳥きつつき」(かたいくちばしで木の幹に穴をあけ、舌で虫を引き出して食べる鳥)「小啄木鳥コゲラ」「赤啄木鳥アカゲラ」 (2)人名。「石川啄木いしかわたくぼく」(岩手県生まれの歌人)
 タク・みがく  王部
解字 旧字は「王(玉)+豖(タク)」の形声。タクはものをたたく音の擬声語で、切りだした玉の原石を小刻みにたたいたりけずって形をととのえること。玉を仕上げるので、たたく意より、みがく意が強くなる。新字体は、豖⇒豕に変化した。
意味 (1)みがく(琢く)。玉をみがく。玉を打つ。「琢磨タクマ」(琢はたたいてみがく、磨はこすってみがく。転じて学徳をみがくこと)「切磋琢磨セッサタクマ」「彫琢チョウタク」(①宝石をきざみみがく。②詩文の字句をみがく) (2)徳・技などをみがくこと。「琢句タクク」(字句をみがくこと。詩文を推敲すること)

    コン <豚囲い・豚便所>
 コン・カン  囗部
豚便所(後漢代の模型)(ウィキペディアより)
解字 「豕(ぶた)+囗(かこい)」の会意。囲いの中で豚を飼うこと。豚囲い。また、豚囲いには横に便所が併設されており人がそこで用をたし、糞が豚の餌になった。
意味 ぶたごや。かわや。

イメージ  
 「廁の付いた豚小屋」
(圂・溷)
音の分布 コン:圂・溷
廁の付いた豚小屋
 コン・にごる  氵部
解字 「氵(みず)+圂コン(廁の付いた豚小屋)」の会意形声。廁(かわや)の付いた豚小屋からでる水。にごる・けがれる意。また、圂の意味である「かわや」を表す。
意味 (1)にごる(溷る)。いりまじる。みだれる。「溷濁コンダク」(①にごる。②世の中が乱れる)「澆季溷濁ギョウキコンダク」(澆季は乱れた世、乱れけがれた末世) (2)けがれる。けがす。 (3)かわや。便所。「溷廁コンシ」(豚便所)「墜茵落溷ツイインラクコン」(茵は、敷物。溷は、かわや。風に吹かれて散った花が、あるものは運よく敷物の上に墜(お)ち、あるものは運悪くかわやに落ちる。人には運不運というものがある) (4)豚小屋。家畜小屋。
<紫色は常用漢字>

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