漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「取シュ」<耳をとる> と「娶シュ」「諏シュ」「趣シュ」「最サイ」「撮サツ」「陬スウ」「叢ソウ」

2024年01月11日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 シュ・とる   又部           

解字 「耳(みみ)+又(て)」の会意。戦功のしるしとして討ち取った敵の耳を切り取って、しっかり手に持つことを示す。
意味 とる(取る)。つかんで離さない。とりあげる。自分のものにする。「取材シュザイ」「取捨シュシャ」「取得シュトク」「取引とりひき

イメージ   
 「耳をとる」
(取・最・撮)
 「とる」(娶・趣・諏)
 「形声字」(叢・陬)
音の変化  シュ:取・娶・趣・諏  サイ:最  サツ:撮  スウ:陬  ソウ:叢

耳をとる
 サイ・もっとも・も  日部            

解字 篆文・旧字は「冃(かぶと)+取(とった耳)」 の会意。冃ボウは頭からかぶるものの意で、冒ボウ・帽ボウ(かぶりもの)の原字。ここではかぶとを表わす(私見)。戦場でとった耳をたくさんかぶとに入れた形。たくさんの敵の耳は、「もっとも」高い軍功のひとつであった。新字体は、上部の冃⇒日に変化。
意味 もっとも(最も)。も(最)。このうえなく。いちばん。「最高サイコウ」「最善サイゼン」「最新サイシン」「最寄(もよ)り」(最も近い)
 サツ・とる・つまむ  扌部
解字 「扌(手)+最(かぶとに入れた耳)」 の会意形声。かぶとに入れた耳を手でつまみとる。つまむ意だが、近年は転じて、映画や写真をとる意に使われている。
意味 (1)つまむ(撮む)。「撮要サツヨウ」(重要な点を抜き出して簡潔に書く) (2)とる(撮る)。映画や写真をとる。「撮影サツエイ」 (3)ひとつまみほどの分量。「撮土サツド」(ひとつまみの土。わずかな量のたとえ)

とる
 シュ・シュウ・めとる  女部
解字 「女(おんな)+取(とる)」の会意形声。女を嫁にとること。
意味 めとる(娶る)。妻をむかえる。「婚娶コンシュ」(よめいりと、よめとり。夫婦の縁組=嫁娶カシュ
 シュ・おもむく・おもむき  走部
解字 「走(はしる)+取(方向をとる)」 の会意形声。方向をとって走ること。急いで行く。はしる。向かってゆくが原義。[説文解字]は「疾(はや)い也。走に従い取(シュ)の聲(声)」とする。のち、自分の心のむくところの意で用いられる。
意味 (1)おもむく(趣く)。急いで行く。はしる。向かって行く。「趣使シュシ」(急ぎの使い) (2)心の向かうところ。ねらい。考え。「趣旨シュシ」「趣意シュイ」 (3)おもむき(趣)。あじわい。「趣味シュミ」「興趣キョウシュ」(味わいのある趣)
 シュ・ス  言部
解字 「言(ことば)+取(とる)」 の会意形声。人びとから意見(言葉)を出してもらい、取り入れること。はかる・相談する意となる。
意味 はかる・問う。相談する。「諏謀シュボウ」(意見を集めて相談する)「諏訪シュホウ」(問いはかる。諏も訪も問う意)「諏訪すわ」(長野県の地名。神社名。)

形声字
 ソウ・くさむら・むらがる  又部
解字 「丵サク(のこぎり歯のついた道具)+取(ソウ)」 の形声。丵は以下の多義的な意味をもつ。①草がむらがる。②ギザギザした山が突き出てならぶ形。③鑿サク(のみ)の音符になる。④業ギョウ・對タイ・ツイの構成要素になる。ここでは①の草が群がる意で用いられ、取は音符ソウになっている。音符「丵サク」を参照。
意味 (1)くさむら(叢)。草がむらがっているところ。「叢生ソウセイ」(むらがり生える)「叢林ソウリン」(①木のむらがる林。②[仏]寺院。特に禅寺) (2)むらがる(叢がる)。「叢雲むらくも」(むらがる雲)「叢雨むらさめ」(むれになって降る雨。にわか雨)「叢書ソウショ」(①多くの本をまとめた全書。②シリーズで刊行される書物)「腸内細菌叢チョウナイサイキンソウ」(腸内に棲む細菌が菌種ごとの塊となって腸の壁にむらがって張り付いている状態。腸内フローラとも言う。) 
 スウ・ソウ・すみ  阝部
解字 「阝(おか)+取(シュ⇒スウ)」の形声。[説文解字]は「阪の隅(すみ)也。阝(おか)に従い取(スウ)の聲(声)とし、坂のくぼんだ所を謂う。
意味 (1)すみ(陬)。くま。くぼんだところ。「僻陬ヘキスウ」(かたいなか。僻地のさらにおくまったところ。辺鄙ヘンピな土地=僻地)「陬遠スウエン」(遠くの片田舎) (2)地名。「陬邑スウユウ」(春秋時代の魯の国の村の名。孔子の生地。現在の山東省曲阜市の東南)
<紫色は常用漢字>

<関連音符>
 シュウ・ジュ・あつまる・あつめる  耳部
解字 「取(手にいれる)+乑シユウ(おおい)」の会意形声。音符「乑シユウ」を参照。

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音符「正セイ」<都邑を攻撃し征服する>「征セイ」「政セイ」「整セイ」「証ショウ」「症ショウ」

2024年01月09日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 セイ・ショウ・ただしい・ただす・まさ  止部

解字 甲骨文は「口(城壁に囲まれた都邑)+止(あし)」の会意。足(止)が都邑をめがけて進むさま。正は、城壁に囲まれた都邑に向かって進撃する意で、その都邑を征服することをいい「征」の原字。金文から、都邑の口⇒一に変化した正になった。正はもと征服を意味し、征服した人々から税を徴収し、納税義務を強制することを正当化し、これを正義とした。[字統]
意味 (1)ただしい(正しい)。「正義セイギ」 (2)ただす(正す)。「校正コウセイ」 (3)ちょうど。まさ(正)。「正午ショウゴ」 (4)本当の。本来の。「正体ショウタイ」「正味ショウミ」(本来の部分) (5)年の初め。「正月ショウガツ

イメージ 
 「都邑を攻撃し支配する」
(正・征・政)
 「ただしい・ただす」(整・柾) 
 「形声字」(証・症・鉦)
音の変化  セイ:正・征・政・整  ショウ:証・症・鉦  まさ:柾

都邑を攻撃し支配する
 セイ・うつ・ゆく  彳部
解字 「彳(ゆく)+正(都邑を攻撃し支配する)」の会意形声。正が正しい意となったため、征の字で、まっすぐ進み城壁の中の敵をうつ(征服する)意を示す。
意味 (1)ゆく(征く)。敵をめがけて進む。「出征シュッセイ」「征旅セイリョ」(遠征の軍) (2)うつ(征つ)。攻めて滅ぼす。「征討セイトウ」(攻めて討つこと。征も討も、うつ意)「征服セイフク」「(征(う)って服従させる) (3)もとめる。とりたてる。「征税セイゼイ」(税をとりたてる)
 セイ・ショウ・まつりごと  攵部
解字 「攵ボク(=攴。うつ)+正(都邑を攻撃し支配する)」の会意形声。都邑を攻撃して支配し、人民をたたいて納税させさせ、世の中を治めること。これが政の本来の意味である。
意味 (1)まつりごと(政)。世の中を治めること。「政治セイジ」「政策セイサク」(政治の方針)「政府セイフ」(政治を行う役所)「行政ギョウセイ」(政治を行う。立法・司法以外の統治) (2)物事をおさめること。「家政カセイ」「財政ザイセイ

ただしい・ただす
 セイ・ととのえる・ととのう  攵部
解字 「束(たばねる)+攵(=攴。うつ)+正(ただしくする)」の会意で、薪(まき)などを束ねたものを打ってきちんと整える意。[説文解字]は「齊(ととの)う也(なり)。攴と束と正に従う。正は亦(また)聲(声)」とする。
意味 (1)ととのえる(整える)。ととのう(整う)。「整理セイリ」「整頓セイトン」「整列セイレツ」「均整キンセイ」 (2)きちんとそろって半端のないこと。「整数セイスウ」(小数点以下の端数をもたない数字)
<国字> まさ  木部

柾目と板目(「木材の基礎知識」より)
解字 「木(木材)+正(ただしい・まっすぐ)」の会意。木目のゆがんでいない、まっすぐな木材。
意味 まさ(柾)。木材の木目が縦にまっすぐ通っているもの。「柾目まさめ」⇔「板目いため」(木目が不規則)

形声字
[證] ショウ・あかし  言部 
解字 旧字は證で「言(ことば)+登(登録する)」の会意形声。登録するときに言葉で告げる意。転じて、本当のことを「あかす」「あかし」の意味となった。現代字は同音の証ショウとなり、「あかす」「事実を述べる」意味で用いられる。 
覚え方 「言(ことば)+正(正しい・本当の)」の会意形声。本当のことを言うこと。
意味 (1)あかす。 確かな根拠に基づいて事実を明らかにする。「証言ショウゲン」「証人ショウニン」 (2)事実を述べて裏づける。「証明ショウメイ」「証左ショウサ」 (3)あかし(証)。しるし。「物証ブッショウ」「証文ショウモン」 (4)証明のための文書。「証券ショウケン」「免許証メンキョショウ
 ショウ  疒部
解字 「疒(やまい)+正(=証。しるし)」の会意形声。病気のしるしが出るさま。
意味 病気のしるし・状態。外にでた特徴。「症状ショウジョウ」「炎症エンショウ」「軽症ケイショウ」「重症ジュウショウ」「症候ショウコウ」(身体に表れた病状の変化)
 ショウ・かね  金部
解字 「金(金属)+正(ショウ)」の形声。ショウは鍾ショウ(かね)に通じ、金属製の打楽器である「かね」の意。たたいて鳴らす。中国では軍隊で用いられた。日本では雅楽や念仏に用いる楽器をいう。
 中国の鉦
意味 (1)かね(鉦)。軍隊で用いるたたいて鳴らす鉦(かね)。行軍のときの合図に用いた。 (2)[国]仏具のたたきがね。「摺り鉦すりがね」(バチで鉦の内側を摺る演奏方法) (3)「鉦鼓ショウコ」とは、①軍の合図に使う鉦かねと太鼓。②仏具の青銅製のまるいかねと太鼓。③雅楽に使う銅製の打楽器と太鼓。
<紫色は常用漢字>

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音符「埶ゲイ」<人が草木をそだてる> と「芸ゲイ」「勢セイ」「熱ネツ」「褻セツ」「芸ウン」

2024年01月08日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 ゲイ・セイ  土部

解字 甲骨文は両手で苗木をもってひざまずく人の形で、木を植え育てる様子を表す。金文は左辺が、木の下に土を加えた形。篆文は「坴(土の上に木がある形の変形字)+丮ケキ(人が両手を出した形)」の会意。ひざまずいた人が両手を出して土の上の木を手入れして育てている形。いずれも、「植物に手を加えて育てる」意となる。現代字は、篆文の右辺が、丮⇒丸に変化した。
※埶ゲイの左辺の「坴」は、陸の右辺と同じ形だが、成り立ちの違う字。 「陸リクを参照。
意味 (1)うえる。草木をうえる。 (2)いきおい。

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 「草木を植え育てる」
(芸・熱・勢・褻)
 「形声字」(囈)
 「同体異字」(芸) 
音の変化  ゲイ:芸・囈  セイ:勢  セツ:褻  ネツ:熱  ウン:芸

草木を植え育てる
[藝] ゲイ・わざ・うえる  艸部
解字 旧字は藝で「艸(くさ)+埶(草木を植え育てる)+云(=耘ウン。雑草を取り除く)」の会意形声。人が植物を植え、雑草を取り除いて草木を育てる意。のち、園芸の意味から転じて、人が身につけたさまざまな「わざ」の意になった。新字体は旧字から埶を省いた芸。これにより、この字の基本となる音符部分がすっぽり抜けてしまった。おまけに出来上がった新字体は、以前からある芸ウンと同じ字体になってしまった。出来のよくない新字体である。「文藝春秋」がいまだに旧字体を使う意味がよく理解できる。私が新字体をつくるなら、甲骨文字に里帰りして、埶の部分を⇒「木丸」にする。因(ちな)みに、中国の簡体字は「艺yì」である。
意味 (1)わざ(芸)。身につけたわざ。技能。学問。「芸術ゲイジュツ」「芸能ゲイノウ」「芸苑ゲイエン」(学芸の世界) (2)うえる(芸える)。草木を植え育てる。「園芸エンゲイ」「農芸ノウゲイ
 セイ・いきおい  力部
解字 「力(ちから)+埶(草木を植え育てる)」の会意形声。埶(草木を植え育てる)には、植物が成長する「いきおい」の意味があり、そこに力(ちから)を加え、植物の「いきおい」に加え、状況を支配する盛んな力の意味を表す。
意味 (1)いきおい(勢い)。さかんな力。「勢力セイリョク」「優勢ユウセイ」 (2)ようす。ありさま。「形勢ケイセイ」「情勢ジョウセイ」 (3)むれ。人の集まり。「軍勢グンゼイ
 ネツ・あつい  灬部
解字 「灬(火)+埶(草木を植え育てる⇒育てて大きくする)」の会意。火を大きくしてゆくこと。草木を植え育てるように、たきぎに火をつけて火をおおきくしてゆくこと。火が発するネツ(温かさやあつさ)をいう。初期の火は温かく、大きくなった火は熱い。
意味 (1)ねつ(熱)。ほてる(熱る)。人の体温およびそれを超える温かさ。「平熱ヘイネツ」「微熱ビネツ」「発熱ハツネツ」「熱病ネツビョウ」「熱帯ネッタイ」 (2)あつい(熱い)。高温で手を触れられない。「熱湯ネットウ」「灼熱シャクネツ」(焼けて熱い) (3)あつい(熱い)。夢中になる。心をうちこむ。「熱心ネッシン」「熱意ネツイ」「熱狂ネッキョウ
 セツ・け  衣部
解字 「衣(ころも)+埶(=熱。体の熱)」の会意。体の熱がこもる衣。体に直接ふれる肌着のこと。肌着の意から、ふだん・つねの意に、夜のねまきの意から、男女がみだらな意となった。
意味 (1)はだぎ。ふだんぎ。ねまき。「褻衣セツイ」 (2)け(褻)。ふだん。常日ごろ。「晴れと褻」(晴々しい時と日常の時) (3)なれる。なれなれしい。「褻言セツゲン」(なれなれしい言葉) (4)けがれる。みだらな。「猥褻ワイセツ」(男女の関係がみだらなこと)

形声字
 ゲイ・うわごと・たわごと  口部
解字 「口(くち)+藝(ゲイ)」の形声。ゲイという音を口から出すこと。六朝時代の字書[玉篇]に「笑囈ゲイするなり。また眠りて語るなり」とし、わらう・たわごと・ねごと・うわごと、をいう。ゲイは口からでる擬声語。
意味 (1)わらう。「笑ショウゲイ」(笑、囈とも、わらう意) (2)たわごと(囈)。ねごと。うわごと。「ゲイゴ」(たわごと。うわごと)「夢ムゲイ」(ねごと)

同体異字
 ウン  艸部
解字 「艸(くさ)+云(たちのぼる・ただよう)」の会意形声。草の立ちのぼるように生い茂るさま。また、草から香りがただよう香草の意味で用いる。正式な字は草かんむりが「十十」の形(ネットではうまく出ない)。※ 芸術の「芸」とは別の字。 
意味 (1)香草の名。ミカン科の多年草。香草で書物の虫除けに用いる。ヘンルーダ。「芸香ウンコウ」(香草の名。転じて、蔵書・書斎)。「芸閣ウンカク」(書庫。書斎) (2)草木の生い茂るさま。「芸芸ウンウン」(①草木が生い茂る。②もやもやして数がおおいさま) 
 音符「云ウン」を参照。
<紫色は常用漢字>

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音符「員イン」<まるい口の鼎(かなえ)>と「韻イン」「隕イン」「殞イン」「韻イン」「円(圓)エン」「損ソン」

2024年01月06日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 イン・エン・かず  口部           


口のまるい鼎(かなえ)(「鼎の物語・弦紋鼎」より)
解字 食物を煮炊きする祭器である鼎(かなえ)の上に口(くち)の円いことを示す〇形を加え、まるい鼎であることを示した象形。まるい意で使われた。また、鼎の数をかぞえるのに用いたことから、員数(人や物の数)の意となった。篆文以降、鼎の部分が貝に変化した。また、上の〇形は横長の口になった。員を音符に含む字は、「かなえ」「まるい」イメージを持つ。
意味 (1)かず(員)。人や物のかず。「員数インズウ」「員外インガイ」 (2)まるい(=円)。「方員ホウエン」(四角と、まる) (3)一定の枠のなかにはいる人。「職員ショクイン」「定員テイイン」「冗員ジョウイン」(余った人員) (3)はば。まわり。周囲。「幅員フクイン

イメージ 
 「かなえ」
(員・損) 
 かなえの口が「まるい」(円・磒・隕・殞) 
 「形声字」(韻)
音の変化  イン:員・磒・隕・殞・韻  エン:円[圓]  ソン:損

かなえ
 ソン・そこなう・そこねる  扌部
解字 「扌(て)+員(かなえ)」の会意。[説文解字]は「減る也(なり)。手に従い員(ソン)の聲(声)」とし減る意とする。手で員(かなえ)の中の水を減らすこと。[康熙コウキ字典]に「損は下(さが)り益は上(あが)る」(「易・損卦」)とあり、員(かなえ)の水が下がれば損となり、皿(上に開いた円いうつわ)の水があふれると益エキ(皿の水があふれる形)とする。当初は減らす意を言ったが、転じて、利益を失う⇒そこなう・そこねる意となった。現在は損なう意が主流となっている。
覚え方 (て)で(かなえ)の足を(そこ)なう。
意味 (1)そこなう(損なう)。そこねる(損ねる)。「破損ハソン」「損害ソンガイ」 (2)減らす。「減損ゲンソン」(へること。へらすこと。減も損も減る意) (3)利益を失う。「損得ソントク」「損益ソンエキ

まるい
[圓] エン・まるい・つぶら・まどか  冂部けいがまえ

解字 旧字は圓で「囗(かこい)+員(まるい)」 の会意形声。まるい囲いの意で、まるい意。新字体の円は、平安時代に僧侶のあいだで使われた、囗(かこい)の中の員をタテ棒で表す略字第一字に起源をもつ。中のタテ棒が時代とともに短くなり、それにつれて下の横線も上がってきた。明治になって通貨の単位に圓エンが採用されたことから略字の需要が増大し、大正・昭和初期には、下の横線が半分近くまで上がった第二字が簡易字体として認められ、第二次大戦後に当用漢字として正式に現在の円の字体が公認された。[笹原宏之『日本の漢字』]
意味 (1)まるい(円い)。つぶら(円ら)。「円陣エンジン」「円卓エンタク」「円(つぶ)らな瞳」(2)えん(図形)。「円心エンシン」(3)まどか(円か)。まろやか(円やか)。「円満エンマン」(4)あたり。一帯。「一円イチエン」(5)通貨の単位。えん。「円高えんだか
※円は平面的にまるい「円いテーブル」。丸は立体的にまるい「丸い屋根」。
 イン  石部
解字 「石(いし)+員(まるい)」の会意形声。この員は丸い意で、まるい石をいう。
意味 (1)まるい石。 (2)おちる。
 イン・おちる  阝部こざと
解字 「阝(おか)+員(=磒。まるい石)」の会意形声。丘から落ちてくる丸い石。石に限らずおちる意となる。
意味 (1)おちる(隕ちる)。ころがりおちる。おとす。「隕墜インツイ」(おちる。隕も墜も、おちる意)「隕星インセイ」(地上におちてきた流星。隕石)「隕石インセキ」(地上におちた流星。大きな流星の燃え残りの石)「隕石孔インセキコウ」(隕石の落下でできた孔) (2)死ぬ(=殞)。
 イン・しぬ  歹部
解字 「歹(しぬ)+員(=隕。おちる)」の会意形声。死におちること。
意味 (1)しぬ(殞ぬ)。命をおとす。「殞命インメイ」(死ぬ)「殞身インシン」(死ぬ) (2)おちる(=隕)。

形声字
 イン・ひびき  音部
解字 「音(おと)+員(イン)」の形声。インは匀イン(ゆきわたる・ひとしい)に通じ、音がひびいてゆきわたること。また、発音がひとしい(同じ)字の意。「音+匀イン」の韵インは、韻と同字。音符「匀イン」を参照。
意味 (1)ひびき(韻き)。ねいろ。「余韻ヨイン」 (2)詩歌で、句や行に一定の間隔で置く同じ種類の発音の字。また、その音。「韻文インブン」(一定の韻字を句末に用いて調子を整えた文章)「押韻オウイン」(韻をふむこと) (3)おもむき。ようす。「風韻フウイン
<紫色は常用漢字>

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音符「舛セン」<左右の足が外に開いた形>「桝ます」と「桀ケツ」「傑ケツ」「磔タク」 

2024年01月04日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 セン・そむく  舛部まいあし

解字 左右の足が外に向かって開く形。互いの足がそっぽを向く形なので、そむく・くいちがう・みだれる意がある。現代字は、左足が夕、右足がヰに変化した舛になった。日本では「ます」と読み、升の俗字として用いられる。
意味 (1)くいちがう。いきちがう。「舛互センゴ」(たがいにいりまじる) (2)そむく(舛く)。たがう。「舛午センゴ」(そむきたがう) (3)[国]ます(舛)。升の俗字。「舛添ますぞえ」(姓)
参考 舛は部首「舛まいあし・ます」になる。左右の足が外にむかってひらく形で、足の動作を表す。舛部の主な字には、舞(舛+無の略体)・舜シュン(舛を含む会意)がある。舜は音符になる。
<国字> ます  木部
解字 「木(き)+舛(ます)」の会意。木の舛(ます)を表す国字。
意味 ます(桝)。「一升桝イッショウます」(1升の量をいれる桝)「桝田ますだ」(姓)


    ケツ <木の上で脚をひらいた人>
 ケツ  木部


 上は桀、下は乗る
解字 「木(き)+舛(両足をそとに開く)」の会意。人が木の上で両方の脚を外に開いた形。人が描かれておらず、両足だけ強調した形。篆文の桀は乗ジョウ(乗る)の篆文から亠を除いた形であるが、[説文解字]は「磔タク(はりつけ)也。舛に従い木の上に在(あ)る也(なり)」とし、この形で人を木の柱に「はりつけ」する意味とした。しかし、本来の「はりつけ」はタクの音を表す音符「石セキ⇒タク」をつけた磔タクが表すので、桀の字は「はりつけにする罪人」が、荒々しく悪賢い意や、その意の人名を表す。また、乗る意味である「人が高い所にいる」意から傑の原字ともなる。
意味 (1)かかげる。罪人をしばって木の上にはりつけにする。 (2)(はりつけにする罪人から)荒々しく悪賢い。「桀悪ケツアク」(荒々しく悪い) (3)夏王朝の最後の王の名。「夏桀カケツ」(逆悪な王の代表として知られる) (4)高い所にいる。すぐれて目立つ。(=傑ケツ

イメージ 
 「はりつけにする」
(桀・磔) 
  木の上にいるので「高い所にいる」(傑)
音の変化  ケツ:桀・傑  タク:磔

はりつけにする
 タク・はりつけ  石部
解字 「石(セキ⇒タク)+桀(はりつけにする)」の会意形声。桀は、はりつけにする意、その発音がタク。石セキに拓タクの音がある。ここで石は部首になるとともに音符となっているが、いし(石)の意味はない。
意味 はりつけ(磔)。張りつけ柱に罪人をしばりつけ、槍で突いて殺す刑罰。「磔刑タッケイ」(はりつけの刑)「磔殺タクサツ」(はりつけの刑で殺す) (2)さく(磔く)。引き裂く。「磔鶏タクケイ」(鶏を磔いて不詳をはらう)「磔攘タクジョウ」(牲いけにえを磔いて攘(はら)う) (3)①物の音。「爆竹鳴磔磔」(爆竹の音が磔磔タクタクと鳴る」②鳥の鳴き声。「栖鶻(はやぶさ)の声磔磔タクタク」③ 人の笑い声。「笑声磔磔タクタク」(4)書法のひとつ。字画の右下を斜めに払う書き方。永字八法の5画目。捺ナツとも書く。

高い所にいる
 ケツ・すぐれる イ部
解字 「イ(人)+桀(高い所にいる)」の会意形声。高く抜きん出て目立つ人。
意味 (1)すぐれる(傑れる)。まさる。「傑作ケッサク」「傑出ケッシュツ」 (2)すぐれた人。「英傑エイケツ」「女傑ジョケツ」「豪傑ゴウケツ
<紫色は常用漢字>

<舛を含む音符>
 リン  米部

解字 金文は「大(ひと)+小点四つ+舛(両足)」の会意。大は手をひろげた人の正面形で人を表す。舛センは、両足を外に向かって開いた形。小点は火を示す。粦は、大の字になって倒れた屍(しかばね)から、鬼火(闇夜に死体の骨から発する光り)が立ちのぼるさま。篆文は「火+火+舛」に変化 し、現代字は、さらに篆文の炎 ⇒ 米になった。
意味 おにび。ほたるび。
イメージ 
 「鬼火」
(燐・憐)
  鬼火が点々と「つらなる」(隣・鱗・麟)
音の変化  リン:燐・隣・鱗・麟  レン:憐
音符「粦リン」へ

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音符 「子シ」 <こども> 「仔シ」「孜シ」「字ジ」「好コウ」「孔コウ」 と 「孨セン」「孱セン」

2024年01月02日 | 漢字の音符
 シ・ス・こ  子部         

解字 甲骨文字は四角い頭に両手がついた小さい子の象形。金文と篆文は頭が丸くなった形。隷書(漢代)は頭がマ、両手が一になり現在の子へとつづく。子は部首となるが、子どもの意で音符ともなる。
意味 (1)こ(子)。こども。「子息シソク」「妻子サイシ」 (2)たね。み。たまご。「種子シュシ」「卵子ランシ」「子房シボウ」 (3)男子の敬称。「君子クンシ」 (4)小さい。こまかい。「子細シサイ」「原子ゲンシ」 (5)物の名の下に添える語。「扇子センス」「椅子イス」 (6)ね(子)。十二支の第一。子は甲骨文字の段階から十二支の1番目の子(ね・ねずみ)に仮借カシャ(当て字)された。

十二支(「暮らし歳時記 十二支と方位」より)

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 「こども」
(子・字・好・孔・仔・孜・李)
 「コウの音」(吼)
音の変化  シ:子・仔・孜  ジ:字  コウ:好・孔・吼  リ:李

こども
 ジ・シ・あざ  子部
解字 「宀(家)+子(こども)」の会意形声。家の中に子どものいる様子を表し、甲骨文字では子どもが生まれることや子孫繁栄を意味して用いられた[漢字字形史字典]。従って、やしなう意味がある。のち、文ブン(文身[いれずみ]の文様)と結びついて文字(letter, character)という概念が生まれた。これは、文身の文様の変化から家の中の子どもが繁殖するように、いろんな文字が発生したことからできた意味で、字単独でも文字の意味となった。なお、あざな(字)というのは、中国で姓・名以外につけた別名・通称のことで、男女が成年儀礼を終えると別名を名乗り、それまでの幼名は親しい者以外は使われなくなった。
意味 (1)やしなう。乳をのませる。いつくしみ育てる。「字育ジイク」(はぐくみ育てる)「字乳ジニュウ」(乳でそだてる) (2)もじ。かんじ。「文字モジ」「漢字カンジ」「字典ジテン」 (3)あざな(字)。男子が元服してつける名。女子は婚約してからつける。のち、実名の他につける呼び名。「綽名・渾名あだな」は字(あざな)の訛った言葉。 (4)[国]あざ(字)。町・村の中の小区分の名。「大字おおあざ」「小字こあざ」※小字(こあざ)は、もともと村の中の小さな集落や農地(畑・田)を特定するために使われてきたもの。大字(おおあざ)は明治時代からのもので市町村合併に伴い、新しい自治体が旧村名を引き継いで残したもの。
 コウ・すく・このむ  女部
解字 「女(おんな)+子(こども)」の会意。女性が子どもをかわいがるさま。
意味 (1)このむ(好む)。愛する。すく(好く)。「愛好アイコウ」「好意コウイ」 (2)よい。このましい(好ましい)。「好調コウチョウ」「好機コウキ」 (3)したしい。よしみ。「友好ユウコウ」「好誼コウギ」(したしい交わり)
 コウ・ク・あな  子部

解字 金文は赤子が乳房を吸う形で篆文はその変形。現代字は孔に変化した。中国古代・商(殷)時代の王家の家族が、本家の子であることから創始した「子」姓の末裔が、のちに「孔」姓を創始したが、これは本家の「子」姓に対し、子が乳房を吸う形の「孔」を姓としたと思われ、もともと孔姓を表す字。また、子が乳房をすうとき乳腺をとおり乳が沁みでる小さな穴をいう。
意味 (1)姓のひとつ。「孔子コウシ」(中国・春秋時代の思想家)「孔孟コウモウ」(孔子と孟子) (2)あな(孔)。小さなあな。とおる。「乳孔ニュウコウ」(乳腺から乳がでる小さな穴)「気孔キコウ」(葉の表皮にある外部と気体の交換をする孔)「瞳孔ドウコウ」(目の黒目の部分が穴にみえるから言う)「鼻孔ビコウ」(鼻のあな)「孔版コウハン」(小さな孔の集合によってできる文字などを刷ること。ガリ版) (3)クの音。「孔雀クジャク」(キジ科の鳥。オスは美しい羽をひろげる)
 シ・こ  イ部
解字 「イ(ひと)+子(こども)」の会意形声。幼い子を人が負う形で、幼い子の意。現在は動物の子に使われる。また子の意味(4)の、こまかいと同じく「仔細シサイ」として使われる。
意味 (1)こ(仔)。動物の子。「仔牛こうし」「仔魚シギョ」(魚類の成長過程の発育段階の一つ。幼生ともいう。仔魚の次は稚魚となる) (2)こまかい。「仔細シサイ」(=子細)
 シ・つとめる  攵部
解字 「攵ボク(=攴。打つ)+子(子ども)」 の会意形声。子どもを愛のムチで打ち、きたえるのが原義。子どもが自分ではげむ意に変わった。
意味 つとめる(孜める)。はげむ。「孜孜シシ」(熱心にはげむさま。あきらめずに努力するさま)「孜孜汲汲シシキュウキュウ」(飽きたり怠けたりせず熱心に励み努力をする。孜孜も汲汲も熱心に続ける意)
 リ・すもも  木部
解字 「木(き)+子(こども⇒実)」の会意。リという名の木の果実。すももを指す。

すもも(李)の実(「デジタル大辞泉・李」より)
意味 (1)すもも(李)。バラ科の落葉小高木。桃より小さく酸っぱい果実をつけるので「すもも(酸桃)」とよばれる。「李下リカ」(すももの木の下)「李下不正冠」(李下に冠を正(ただ)さ不 (ず)」(スモモの木の下で冠がずれても直さない。冠を直すとスモモを盗んだと思われるので、人から疑いをかけられるような行いは避けるべきであるという例え) (2)「行李コウリ」(使者。行き治める者)に使われる字。行李とは、古代中国で同音の行理と書かれ、外国へって自国の事を管する外交官の意。外交官はよく旅行し荷物を運ぶので、旅行の荷物、また荷物入れの意となり、同音の「行李」となった。「柳行李やなぎごうり」(コリヤナギの枝で編んだ荷物入れ) (3)姓のひとつ。「李白リハク」(中国・唐代の詩人)

コウの音
 コウ・ク・ほえる  口部
解字 「口(くち)+孔(コウ)」の形声。コウは吽コウ・哮コウなどと同じく、けもののほえる声をいう。
意味 ほえる(吼える)。獣などが大声でほえる。人が大声を出す。「獅子吼シシク」(獅子が吼える。仏が説法する)「吼号コウゴウ」(大声でさけぶ)
<紫色は常用漢字>

参考 は、部首「子こ・こども・こどもへん」になる。漢字の上部・左辺・下部に付いて、こどもの意を表す。子部には常用漢字が9字、約14,600字を収録する『新漢語林』では、36字を含む。子部の主な字は以下のとおり。
常用漢字 9字
 子シ・こ  (部首) 
 孔 コウ・あな(子を含む会意)
 字ジ・あざ (子+宀の会意形声)
 存ゾン(子+音符「才サイ」)
 孝コウ(耂+子の会意)
 学ガク・まなぶ(子+音符「學の略体」)
 季(禾+子の会意)
 孫ソン・まご(子+系の会意)
 孤コ・みなしご(子+音符「瓜カ」)
その他
 孟モウ・はじめ(皿+子の会意)
 孚(爫+子の会意)ほか
このうち、孚・季・孝コウ、孟モウ、は音符となる。


     セン <よわい・ちいさい>
 セン・よわい 子部

解字 赤子を三人あわせた形。小さく、か弱い子を三人描いた形で、よわい意。
意味 (1)よわい。 (2)つつしむ。

イメージ 「よわい・ちいさい」
音の分布 セン:孱・潺

よわい・ちいさい
 セン・サン・よわい・おとる
解字 「尸(からだ)+孨(よわい・ちいさい)」の会意形声。身体がよわく小さいこと。
意味 (1)よわい(孱い)。おとる。ちいさい。 「孱弱センジャク」(小さくかよわいこと。ひよわなこと)「孱質センシツ」(よわい体質)「孱瑣センサ」(ちいさく細かい) (2)おとる。「孱愚セング」 (3)「孱顔センガン・サンガン」とは、①ふぞろいなさま。②山が高くけわしいさま。
 セン・サン  氵部
解字 「氵(みず)+孱(よわい・ちいさい)」の会意形声。よわく小さい水の流れ。小川がさらさらと流れるさま。
意味 水がさらさら流れるさま、またその音。「潺潺センセン」(小川などのさらさらとよどみなく流れるさま)「潺湲センカン・センエン」(潺は、水がさらさら流れるさま。湲は水がゆっくりとめぐるさま。①水が清くさらさら流れる様子。また、その音。 ②涙がはらはらと流れつづける様子)

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