漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「古コ」<祝詞の器を盾で守る> と「枯コ」「故コ」「姑コ」「詁コ」「沽コ」「估コ」「辜コ」「鈷コ」「罟コ」「蛄コ」「鴣コ」「苦ク」「做サ」

2024年12月09日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 コ・ふるい・ふるす・いにしえ  口部 gǔ

解字 甲骨文第一字は「盾たての形+口サイ(器物)」の会意。第二字は「中(盾の略体+口サイ(器物)」の形。甲骨文字の段階では、地名またはその長の意であり原義は明らかでない[甲骨文字辞典]。金文は「中の字の横四角が黒くなった形+口(器物)」および「十字型+口(器物)」の形。[簡明金文詞典]では「往昔オウセキ」(過ぎ去った昔)の意味がある。口サイは祖先祭祀(祖先を祭る)を象徴する器であり、口サイが描かれているのは、祖先祭祀の場であることを示している。この器(口サイ)に盾(たて)を置くことは祭祀が長く守られることであり、昔からの意味になり、転じて古い意味になったのではないかと思われる。篆文から盾の形が十になり現在の古の字になった。
意味 (1)ふるい(古い)。むかし。いにしえ(古)。「古代コダイ」「古人コジン」「懐古カイコ」(2)ふるい(古い)。ふるびた。「古参コサン」「古豪コゴウ」「古色コショク

イメージ 
 「ふるい」
(古・枯・姑・詁)
 「形声字」(沽・估・辜・苦・鈷・罟・蛄・鴣)
  原義の「祝詞の器を盾で守る」(故・做)
音の変化  コ:古・枯・姑・詁・故・沽・估・辜・鈷・罟・蛄・鴣  ク:苦  サ:做

ふるい
 コ・かれる・からす  木部 kū  
解字 「木(き)+古(ふるい)」の会意形声。年を経て古くなって衰えてきた木。最後にひからびて枯れる。[説文解字]は「槀コウ(かれる)也(なり)。木に従い古コの聲(声)」とする。
意味 (1)かれる(枯れる)。ひからびる。水がかわく。「枯渇コカツ」「枯山水カレサンスイ」(水を用いず石や砂で山や川を表現した庭園)(2)おとろえる。「栄枯盛衰エイコセイスイ
 コ・よみ  言部 gǔ
解字 「言(言葉)+古(ふるい)」の会意形声。古い言葉や文字の意で、その言葉を読み解くことを詁という。
意味 (1)よみ(詁み)。ときあかし。古い言葉を読み解くこと。古い言葉の意味やよみ方・解釈。「訓詁クンコ」(古言の字句の解釈=故訓)「解詁カイコ」(古い言葉の解釈)

形声字
 コ・しゅうとめ  女部 gū
解字 「女(おんな)+古(コ)」の形声。夫の母を姑という。[説文解字]は「夫の母也(なり)。女に従い古コの聲(声)」とする。
意味 (1)しゅうとめ(姑)。しゅうと(姑)。夫の母。また、妻の母。「舅姑キュウコ」(しゅうとと、しゅうとめ)「小姑こじゅうと」(夫または妻の姉妹)(2)(仮借カシャ・当て字の用法)しばらく(姑く)。とりあえず。「姑息コソク」(①しばらくの休息。②転じて、一時の間に合わせ、その場のがれ)
 コ  イ部 gū・gù
解字 「イ(ひと)+古(コ)」の形声。コは賈(売り買いする)に通じ、売り買いする商人をいう。
意味 (1)うる。あきない。あきんど。「估価コカ」(ねだん。売買の価格)「估客コカク」(商品を販売する人)(2)ねうち。あたい。「估券コケン」(沽券とも書く。①売り渡しの証文。売券(うりけん)。②売り値。③人の値打ち。体面。品位)
 コ  氵部 gū
解字 「氵(水)+古(コ)」の形声。コは賈(売り買いする)に通じる。水上交通での売り買いをいう。
意味 (1)うる。かう。売り買いする。「沽酒コシュ」(酒の売買。また、その酒)(2)あたい。ねうち。「沽券コケン」(估券とも書く。①売り渡しの証文。売券(うりけん)。②売り値。③人の値打ち。体面。品位)
 コ  辛部 gū
解字 「辛(刀)+古(コ)」の形声。コは固(固定する)に通じる。辛は針の意であるが、宰サイ(廟で刀を持ち犠牲獣の肉を切る人=主宰する)のように刀の意味にもなる。辜は人を固定し刀で切り裂く刑で、重い罪をいう。
意味 つみ(辜)。重い罪。はりつけや八つ裂きにされる重罪。「無辜ムコ」(罪のない)
 ク・くるしい・くるしむ・くるしめる・にがい・にがる  艸部 kǔ
解字 「艸(くさ)+古(ク)」の会意形声。クという名の草。食べるとにがいので、苦い意となる。また、苦いものを食べて苦しくなること。
意味 (1)にがな(苦菜)。キク科の多年草。食べられるが苦味がある。(2)にがい(苦い)。「苦汁クジュウ」(3)にがにがしい。「苦言クゲン」「苦笑クショウ」(4)くるしい(苦しい)。くるしむ。ほねおる。「苦境クキョウ」「苦労クロウ」「苦心クシン
 コ  金部 gǔ
解字 「金(金属)+古(コ)」の形声。コという名の金属製のインド仏具の名をいう。

京都製密教法具より
意味 インドの護身用の仏具の名。金剛杵コンゴウショ(煩悩を滅ぼすインド神話上の武器と総称されるものの一種。基本的な形は棒状で、中央に柄があり、その上下に槍状の刃が付いている。「独鈷トッコ・ドッコ」(独鈷杵ドッコショの略。両端の突き出た刃が一つ)「三鈷サンコ」(両端の刃が三本。三鈷杵)「五鈷ゴコ」(両端の刃が五本。五鈷杵)
 コ・ク・あみ  罒部 gǔ   
解字 「罒(=网あみ)+古(コ)」の形声。周囲を囲んで魚をとる網を罟コという。 
意味 (1)あみ(罟)。うおあみ。「罟師コシ」(網で魚をとる漁師)「数罟ソウコ・サクコ」(目の細かな網)「罟網コモウ」(あみ)「罟目コモク」(網の目) (2)法のあみ。おきて。「罪罟ザイコ」(法のおきてにより罪(つみ)となる)
 コ・ク  虫部 gū・gǔ
解字 「虫(むし)+古(コ)」の形声。コという名の昆虫や甲殻類に用いられる。
意味 (1)「蝦蛄シャコ」に用いられる字。「蝦蛄シャコ」とは、シャコ目の甲殻類の総称。「青竜蝦」(読みはシャコ)とも書く。体長は12~15cm前後。多くは、内湾や内海の泥底や砂泥底に生息し、海底の砂や泥にU字形の巣穴を掘って生活する。

シャコ(蝦蛄)ブログ「ふぃっしんぐっど!」より)
(2)「螻蛄ロウコ」に用いられる字。螻蛄ロウコとは昆虫の一種で、「けら・おけら」をいう。バッタ目ケラ科のコオロギに似た昆虫。前肢は大きく、土を掘るのに適している。(3)「蟪蛄ケイコ」に用いられる字。「蟪蛄ケイコ」とは、夏蝉なつぜみをいう。短命のたとえ。「蟪蛄は春秋を知らず」
 コ・ク  鳥部 gū
 コモンシャコ(「ウィキペディア」より)
解字 「鳥(とり)+古(コ)」の形声。コという名の鳥。「鷓鴣シャコ」に用いられる字。
意味 「鷓鴣シャコ」とは、キジ科の鳥のうち、ウズラとキジの中間の体形をもつ一群。中国ではこの中の一種コモンシャコをいう。「鷓鴣斑シャコハン」(陶釉の一つ。釉(うわぐすり)中に鷓鴣の羽毛の斑紋に似た模様が表れているもの)

祝詞の器を盾で守る
 コ・ゆえ  攵部 gù

解字 金文第一字は「古」で、むかしからの意。下の第二字および篆文は「攴ボク(=攵。手に棒をもってたたく)+古(祝詞の器を盾でまもる)」の会意形声。盾で守っている器を攴ボクでたたくこと。攴ボクで、たたいて仕掛けるので、「故意に・わざと」となり、仕掛ける理由である「なぜ」となり、しかけた結果、盾と攴で争いが始まるので、「事故・わるいできごと」の意となる。現代字は攴⇒攵に変化した故になった。
意味 (1)(古い・昔の意を強めて言う)昔から。もとから。「故事コジ」(①昔あった事柄。②昔から伝えられているいわれのある事柄)「故実コジツ」(昔の儀式・しきたりなど)(2)わざと。「故意コイ」(3)わけ。ゆえ(故)。「何故なぜ」(4)さしさわる。悪いできごと。「故障コショウ」「事故ジコ」(5)しぬ。「故人コジン」「物故ブッコ
 サ イ部 zuò
解字 「イ(ひと)+故(サ)」の形声。サは乍(つくる)に通じ、これにイ(ひと)がついた做は作る意。中国で近世になって作の俗語としてできた字。[字通]は「明の[字彙ジイ]に至って、この字を録している」とする。現代中国では作る意で広く使われている。日本ではあまり使われないが、なす意から「見做す」などと書かれる。
意味 (1)なす(做す)。作る。やる。する。(2)なる(做る)。成る。(3)なす意から、「見做す」「看做す」と書かれる。
<紫色は常用漢字>

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音符「王オウ」<おう・きみ>と「往オウ」「汪オウ」「枉オウ」「旺オウ」「狂キョウ」「誑キョウ」「逛キョウ」

2024年12月07日 | 漢字の音符
 音符「王オウ」の家族字は、王をのぞくと全てがもと「止+王」の形である。この字について字統は「王がでかける」意としているが、止(あし・あるく)が意符で、王は発音だけを表している。そして往オウ以外は「止+王」が楷書で止が省かれ、すべてが王に簡略化されている。  

 オウ・きみ  王部 wáng・wàng 

春秋期の青銅鉞エツ(中国オークションネットから)    

解字 大きな戉エツ(=鉞。まさかり)の刃部を下にして置く形の象形。王位を示す儀式の器として玉座の前におかれた。武器(武力)によって天下を征服した者のこと[字統]。
意味 (1)きみ(王)。君主。「王朝オウチョウ」「国王コクオウ」(2)最も力のある者。第一人者。「王者オウジャ」「王座オウザ

イメージ 
 「王」
(王)
 「ゆく・すすむ(止+王)」(往・旺・狂・誑・逛・汪・枉)
音の変化  オウ:王・往・旺・汪・枉  キョウ:狂・誑・逛

ゆく・すすむ
 オウ・ゆく  彳部 wǎng           


 上は往オウ、下は止
解字 往の甲骨文は王の上に止(足の形)が乗った形。止(あるく)が意符で王を声符(音符)とした形声字。意味は、ゆく・往路をゆくこと。発音はオウ(王)[甲骨文字辞典]。金文以降、彳(ゆく)が付き、出かけて行く意が明確になった。現代字は「止+王」が主オウに変化した往になった。この主オウは主シュ(ぬし)とは別の字である。
意味 (1)ゆく(往く)。すすむ。⇔復。「往診オウシン」(行って診察する)「往路オウロ」(行きの道)「往復オウフク」「往来オウライ」(①往き来する。往き来の道。②手紙のやりとり)(2)ゆき過ぎる。いにしえ。「往時オウジ」「往古オウコ
 オウ・さかん  日部 wàng

解字 篆文は「日(太陽)+往(ゆく・すすむ)」の会意形声。太陽がゆく意で、日がかがやく形。転じて、さかん・さかんなさまを表す。現代字は往⇒王に変化した旺となった。
意味 (1)さかん(旺ん)。さかんなさま。「旺盛オウセイ」「興旺キョウオウ」(さかんにおこる)「旺文社オウブンシャ」(出版社の名前)(2)美しい・光を放って美しく輝く。「旺旺オウオウ
 キョウ・くるう・くるおしい  犭部 kuáng     

解字 甲骨文~篆文とも「犭(いぬ)+「止+王」=往オウの略体(ゆく・すすむ)」の形。発音はオウ⇒キョウに変化した。犬がゆく、すすむこと。甲骨文は地名の用例しかないという。金文は人名の用例がある。この字が狂うという意味をもつのは篆文からのようである。後漢の[説文解字]は、噛み癖のある犬としているので、出歩いている凶暴な犬(狂犬)を人に移して「くるう」となった。現代字は右辺の「止+王」⇒王に変化した狂になった。
意味 (1)くるう(狂う)。気がちがう。くるおしい(狂おしい)。「狂乱キョウラン」(2)くるったように。「狂喜キョウキ」「狂信キョウシン」(3)こっけい。おどける。「狂言キョウゲン」「狂歌キョウカ
 キョウ・たぶらかす  言部 kuáng
解字 「言(いう)+狂(くるう)」の会意形声。おかしなことを言って相手をだますこと。
意味 たぶらかす(誑かす)。たらす(誑す)。だます。あざむく。「誑惑キョウワク」(人をあざむいてまどわす)
 キョウ  辶部 guàng
解字 「辶(ゆく)+狂(犬がゆく)」の会意形声。狂は甲骨文・篆文でわかるように犬がゆく・すすむ形で、犬がぶらぶら歩く意。その犬が噛みつくので狂う意となったので、さらに辶(ゆく)をつけて、もとのぶらぶら歩く意を表す。人に移して使う。
意味 (1)あてもなく歩きまわる。ぶらつく。「逛逛キョウキョウ」(ぶらつく)「逛蕩キョウトウ」(逛も蕩も、ぶらぶらする意)
 オウ  氵部 wāng

解字 金文・篆文は「氵(みず)+「止+王」=往オウの略体(ゆく)」の会意形声。水が行きあふれる意で、水が広がってひろい意をあらわす。現代字は「氵+王」の汪になった。
意味 (1)ひろい。深くひろい。「汪汪オウオウ」(水の広く深いさま)「汪然オウゼン」(広く深いさま)「汪洋オウヨウ」(大海。広々と大きい)(2)姓。「汪兆銘オウチョウメイ」(中華民国の政治家)「汪洋オウヨウ」(中国の政治家。元中国共産党政治局員)
 オウ・まげる・まがる  木部 wǎng

解字 篆文は「木(き)+「止+王」=往オウの略体(ゆく)」の会意形声。曲がり角をゆく意味を木をつけて表した字で、道を曲がってゆく意。また、まっすぐな木を曲げる意から転じて、道理をおしまげる意ともなる。[説文解字]は「衺曲(=邪曲)ジャキョク(まがる。よこしまで道理にたがう)也(な)り」とする。
意味 (1)まげる(枉げる)。まがる(枉がる)。おしまげる。「枉道オウドウ」(道理をおしまげる)「枉法オウホウ」(法を無理にまげる)(2)無実の罪。「冤枉エンオウ」(冤も枉も、無実の罪の意)「枉死オウシ」(無実の罪で死ぬ。恨みを抱いて死ぬ)(3)まげて(枉げて)。寄り道をする。「枉駕オウガ」(わざわざ回り道をして立ち寄る。駕は馬車にのる意)
<紫色は常用漢字>

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音符「戸コ」<一枚とびら>と「雇コ」「顧コ」「扈コ」「滬コ」「肩ケン」「所ショ」

2024年12月05日 | 漢字の音符
 コ・と  戸部 hù          

 
 上は戸、下は門
解字 上は片開きのとびらの形の象形。両方のとびらを門という(下)。戸は家の入口や部屋の入口になる。また、家の入口から家の意味にもなる。日本では引戸の意味でよく使われる。戸は部首となる。 
 
建物の入口である戸(中国のネットから。奥の家は戸を開き布を垂らしている)
意味 (1)と(戸)。とびら。家や部屋の片開きの出入り口。「戸口とぐち」(家の出入り口)(2)家。民家。「戸主コシュ」「戸籍コセキ」(戸ごとに戸主や家族の状況を記載した公文書)(3)[国]「引戸ひきど」(鴨居かもいと敷居しきいの溝をすべらせて左右に動かす戸)「雨戸あまど」(風雨や夜の用心のため家の外まわりや、窓に設けた引戸)「戸板といた」(雨戸の板。これをはずして人や物を載せて運んだ)「戸棚とだな」(主に引戸の付いた棚)
 木製の雨戸(日本)
参考 戸は部首「戸と」になる。漢字の「たれ」や偏となり、戸や部屋の意味を表す。常用漢字は以下の6字がある。
 戸(部首):
ボウ・ふさ(戸+音符「方ホウ」)
ヒ・とびら(戸+音符「非ヒ」)
戻[戾]レイ・もどる(戸+犬の会意)
セン・おうぎ(戸+羽の会意)
ショ・ところ(戸+斤の会意)

イメージ 
 「一枚とびら」
(戸・肩・所・雇・顧)
 「形声字」(扈・滬)
音の変化  コ・戸・雇・顧・扈・滬  ケン:肩  ショ:所

一枚とびら
 ケン・かた  月部にく jiān
解字 「月(からだ)+戸(とびら)」の会意。とびらのような骨(肩甲骨)があり、そこに腕の骨がついて動く、身体(月)の部位である肩(かた)をいう。
肩甲骨ストレッチ」より
意味 かた(肩)。「肩甲骨ケンコウコツ」(両肩の上部をおおう平らな骨)「肩章ケンショウ」(制服の肩につけて階級を表すしるし)「双肩ソウケン」(①左右の肩。②責任・任務を負う者の例え)「比肩ヒケン」(肩をならべる。優劣がない)「肩車かたぐるま」(人を両肩にまたがらせてかつぐこと)
 ショ・ソ・ところ  戸部 suǒ

解字 「戸(とびら)+斤(おの)」の会意。[新漢語林]は「金文の意味は、高い地位の人のいる場所の意味に用いる例が多く、斤(斧おの)を置いた入り口の戸の意味から(特別な人のいる)「ところ」の意味を表すようになったものであろう」とする。後に、住所・居所のように用いる。また、助詞、助動詞、接続詞、として用いられる。
意味 (1)ところ(所)。ありか。「場所バショ」「住所ジュウショ」(2)特定の仕事をする施設。「役所ヤクショ」「所長ショチョウ」(3)~するところの。~するもの。「所持ショジ」「所信ショシン」(4)ばかり(所り)。「長さ一寸所(ばか)り」(5)可能。べし(所し)。
 コ・やとう  隹部ふるどり gù

解字 甲骨文は、家の玄関の戸(とびら)に隹(とり)が飛来した形。後漢の[説文解字]は、「農業や養蚕における時期を知らせる渡り鳥である」としており、季節になると家の玄関にやってくるツバメのような渡り鳥であると思われる。現代字は、戸の下に隹が入った雇になった。しかし、この字は後に同音の賈(売り買いする、ここでは買う)に通じて仮借カシャ(当て字)され、人の労働を買う、すなわち賃金を支払って人に仕事をさせる意に用いられる。同字である異体字に「イ(ひと)+雇(=賈)」の僱(やとう)があり、この字が略された形。
意味 (1)やとう(雇う)。賃金を払って仕事をさせる。人をやとう。「雇兵コヘイ」(お金を払って雇った兵士)「雇用コヨウ」(やとうこと)「解雇カイコ」(2)賃金や代金を支払う。「雇直コチ」(代金を支払う)(3)鳥の名。
 コ・かえりみる  頁部 gù
解字 「頁(あたま)+雇(飛来した渡り鳥)」の会意形声。農事を知らせる大事な渡り鳥をいつも頭で気にかけること。また、隹(とり)が戸口にくると頭をそちらに向けることから、ふりかえる、転じて、かえりみる意となる。
意味 (1)気にする。心にかける。「顧客コキャク」(心にかけてくれる馴染みの客)「顧問コモン」(①気にかけて問う、②[国]相談役)(2)かえりみる(顧みる)。ふりかえる。「回顧カイコ」(過去をかえりみること)(3)「三顧サンコ」とは、(『三国志』で劉備が三たび諸葛亮の家を訪れ軍師に迎えた故事から)目上の人が礼を尽くして人に仕事を引き受けてくれるよう頼むこと。「三顧の礼」(4)姓。「顧野王コヤオウ」(南朝の訓詁学者。[玉篇]を編集)「顧炎武コエンブ」(明末清の学者)

形声字
 コ  戸部 hù


上は扈、下は邑ユウ
解字 「邑ユウ+戸(コ)」の形声。下の邑ユウは「囗(外囲い・城壁)+ひざまづく人」で、城壁の中で人々が暮らす「まち」の形で、都市・みやこ・くに(諸侯の領地)の意味がある。現代字は邑の形になり、そこに戸がついた扈は、コという名の領地で、現在の陝西省戸県にあった古代中国の国名。また、護ゴ・コ(まもる)に通じ、主人をまもって付き従う意ともなる。
意味 (1)古代中国の国名。今の陝西省戸県にあった。「有扈ユウコ」(①陝西省戸県にあった国名、②部族の長)(2)まち。城壁のあるまち。「跋扈バッコ」(跋はつよく踏む、扈は、まち。まちなかをつよく踏んで歩く。のさばること)「跳梁跋扈チョウリョウバッコ」(跳梁は、はねまわる、跋扈は、のさばる。悪人などが、我がもの顔にのさばること)(3)つきそう。「扈従コショウ・コジュウ」(付き従う。また、おとも)「扈遊コユウ」(天子に付き従って旅行する)
 コ  氵部 hù
解字 「氵(みず)+扈(コ)」の形声。コという名の川。蘇州近くの太湖から上海市内を流れる呉淞江ゴショウコウの古称。以前は海へ直接流れていた。現在は下流で黄浦江と合流する。下図の八世紀の点線(右から2番目。当時の海岸線)は黄浦江と合流する辺りの「外灘ワイタン」であり古代の上海は、この川のほとりで海と接する漁村だった。そこで、この川や海で行われた漁法である「えり」の意味もある。

明代以前の呉淞江(上の川)。蘇州河ともいう。太湖からまっすぐ東へ流れていた。

明代以後は下(南)の黄浦江が途中で枝分かれし呉淞江に合流した(水運の便のため)。
(「吴淞口的演变」より)
意味 (1)川の名。太湖から上海市内を流れる川、現在は下流で黄浦江に合流する。蘇州河とも。「滬瀆コトク」(呉淞江の古名)(2)上海市の別称。現在は上海の車のナンバープレートになっている。「滬城コジョウ」(上海の別称)「京滬線ケイコセン」(北京と上海を結ぶ鉄道路線)(3)えり。あじろ。海辺や川辺に竹の冊を並べ立てて魚をとらえる仕掛け。「魚滬ギョコ」(魚をとるえり)
<紫色は常用漢字>

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音符「旡キ」<後ろ向きのあくび>と「既キ」「曁キ」「概ガイ」「慨ガイ」「厩キュウ」 

2024年12月03日 | 漢字の音符

 増訂しました。
 キ  旡部すでのつくり jì

解字 ひざまずく人が後ろを向いて口を開いている形の象形。後ろ向きのあくび、後ろを振り返る意を表すが、単独で用いられることはない。欠ケン(前をむいて口をひらいた形)の逆のかたち。
意味 後ろ向きのあくび。後ろを振り返る。
参考 は、部首「旡すでのつくり」になる。この部首の主な字は既しかない。

   キ <いっぱいになる>
[旣] キ・すでに  旡部すでのつくり jì       

解字 甲骨文は、ご馳走を盛った食器の傍らに、後ろ向きに口をひらく人を配したかたちで、ご馳走を食べ終わり、満腹して後ろを向いてあくびをする形。旧字は旣で、「皀キュウ(ご馳走を盛った食器)+旡(後ろ向きのあくび)」の会意。食べることが「すでに終わる」意となる。新字体は、旣⇒既に変化。
意味 (1)すでに(既に)。もはや。「既刊キカン」(すでに発行された)「既成キセイ」(すでに出来上がっている)(2)つくす。つきる。「皆既カイキ」(すべてつきる)「皆既日食カイキニッショク」(日光がすべて尽き真っ暗になる日食)

イメージ 
 ご馳走を食べ終わって「すでにおわる」(既)
 食べ終わってお腹が「いっぱいになる」(概・慨・漑)
 「形声字」曁・厩) 

音の変化  キ:既・  キュウ:厩  ガイ:概・慨・漑

いっぱいになる
 ガイ・おおむね  木部 gài
 
石垣島のトーカキゥ
解字 「木(とかきの棒)+既(いっぱいにする)」の会意形声。枡の中に米を山盛りにいれ、とかき棒(斗桝とますの上をならす丸棒)で枡の表面を平らにすること(枡の容量だけの米を入れるため)。全体をならす意味を表わす。
意味 (1)とかき(概)。一斗ますを掻くことから「とかき」という。ますかき。ますかき棒。(2)全体をならす。「概括ガイカツ」(ひっくるめて)「概観ガイカン」(全体をざっと見る)「概念ガイネン」(全体への受けとめ方)(3)おおむね(概)。「大概タイガイ」(4)(全体を強制的にならすことから)強いちから。「気概キガイ」(向かってゆく強い意気。気骨。やる気)
 ガイ・なげく  忄部 kǎi
解字 「忄(心)+既(いっぱいになる)」の会意形声。心がいっぱいになり嘆いたり、深く感動したりする。嘆く意と、深く感じる意の二種類がある。
意味 (1)なげく(慨く)。いきどおる。なげき。「慨嘆ガイタン」(いきどおってなげく)「慨然ガイゼン」(いきどおるさま。心を奮い起こすさま)「慨世ガイセイ」(世の有り様をなげく)(2)心に深く感じる。「感慨カンガイ」「感慨無量カンガイムリョウ
 ガイ・そそぐ  氵部 gài
解字 「氵(みず)+既(既の異体字・いっぱいになる)」の会意形声。水をいっぱいになるまで入れること。
意味 (1)そそぐ(漑ぐ)。そそぎこむ。「灌漑カンガイ」(田畑に水をそそぎ土地をうるおす)(2)すすぐ。洗う。

形声字 
曁[暨] キ・ギ・およぶ  日部
解字 「旦(日の出)+旣(既の旧字・キ)」の形声。日の出が地平線から昇りはじめるさまをキという。[説文解字]は「日が頗(すこ)し見ゆる也(なり)。旦に従い旣の聲(声)」とする。転じて、およぶ・および、の意味となる。は異体字。
意味 (1)太陽が地平線から昇りはじめる。(2)およぶ(ぶ)。至る。「上が求むるも(およ)ば不(ず)」(お上が求めても参上しない。国語・周中)(3)[接続詞]および(び)「東は海、(およ)び朝鮮に至る」(史記・始皇紀)(4)「曁曁キキ」(強く勇ましいさま)※例文は「漢字海」(三省堂)より
厩[廐・廏] キュウ・うまや  厂部 jiù
解字 「厂・广(片屋根)+既=既の異体字(キ⇒キュウ)」の形声。キュウという片屋根の建物。馬を飼う片屋根の小屋を厩キュウという。廐キュウ・廏キュウは異体字。なお、[説文解字]は現在異体字となっている廏キュウの字を「馬舍也(なり)」とする。

漢代のミニチュア陶製厩舎(中国ネット「漢代陶厩」より)

字の変遷<参考> 金文は「广(片屋根)+食(たべもの)+攴ボク」の形。攴は手に棒などをもち相手を打つ形だが、ここでは手に匙(さじ)などの道具をもつ形とされ、全体で片屋根の下で食べ物をとる形。続く楚(戦国)の字形は攴ボクの上部がクの形になり、篆文で「广(片屋根)+皀キュウ(ご馳走を盛った器。これに蓋ふたがついたのが食)+殳(るまた)」になった。ここで殳は匙をもつ手の変化形である。[説文解字]は「馬舎なり」とし馬の飼育舎としている。つまり、馬の字は出てこないが、广(片屋根)の下で食事をしているのは馬であった。この字形が楷書の廏になり、これが正字である。しかし、殳⇒旡に変化した異体字「廐キュウ」が出現したが、これは字形どおり解釈すると食事を既に終わる意である。食事をしている形でも、終わった形でも馬小屋の意味には関係がないということか。さらに广⇒厂に変えた厩キュウという俗字があるが、日本ではこの字が標準字体となった。
 厩の古文字は「漢典の厩」(出た画面の字源・字形をクリック)による。
意味 うまや(厩)。馬小屋。馬などの家畜を飼う小屋のこと。「厩舎キュウシャ」(①馬を飼う小屋。②競馬において、調教師が管理する施設・組織の総称)「厩閑キュウカン」(うまや)「厩人キュウジン」(馬の飼育係)「厩肥キュウヒ」(厩舎から出た糞尿をもとに藁をまぜて作った肥料)
<紫色は常用漢字>

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音符「倉ソウ」<くら> と「刱ソウ」「艙ソウ」「創ソウ」「瘡ソウ」「槍ソウ」「蒼ソウ」「愴ソウ」「滄ソウ」

2024年12月01日 | 漢字の音符
 倉は「くら」の形を表した象形文字の音符だが、「くら」のイメージで使われるのは艙のみで、残りはすべて、ソウの発音からくる形声字である。
 ソウ・ショウ・くら  人部ひとがしら cāng      
 
解字 穀物などを納めておく「くら」の形の象形。甲骨文・金文は上にA字形の屋根があり、その下に戸を描く。一番下の口は、くらの土台である[甲骨文字小字典]。篆文と現代字は、戸の柱が口の横まで伸びたかたち。また、怱ソウ(あわただしい)に通じ、あわてる意もある。
意味 (1)くら(倉)。物を入れておく建物。「倉庫ソウコ」「船倉センソウ」「穀倉コクソウ」(穀物を納める倉)(2)にわかに。あわてる。「倉卒ソウソツ」(あわただしいこと)(3)あおい(=滄)。「倉海ソウカイ

イメージ 
 「くら」
(倉・艙) 
 「ソウの発音」(刱)
 「形声字」(創・瘡・愴・槍・蒼・滄)
音の変化  ソウ:倉・艙・刱・創・瘡・愴・槍・蒼・滄

く ら
 ソウ  舟部 cāng
解字 「舟(ふね)+倉(くら)」 の会意形声。船の内部のくらになっている部分。船の中央部で貨物を積む所。
意味 ふなぐら。中央部の船室。「船艙センソウ」「艙底ソウテイ」(ふなぞこ)「艙間ソウカン」(船室)

ソウの発音
 ソウ・ショウ・はじめる  刀部 chuàng

解字 「井(わく)+刅ソウ(両刃の刀)」 の会意形声。井は井戸枠の形で、ここでは鋳物の型枠の意。型枠の注ぎ口に溶けた金属を流し込み、固まったら型枠をはずし刅ソウ(両刃刀)で鋳物砂を突き崩して中の鋳物を取り出すこと。新しい鋳物が出来上がるので、はじめる・つくる意となる。また、鋳物砂を突くので、傷つける意ともなる。
意味 (1)はじめる(刱める)。「刱業ソウギョウ」(事業を新しく始める)(2)つくる。「刱造ソウゾウ」(新たに造ること)(3)そこなう。きずつける。
※この字を同音の倉ソウに置き換えたのが創ソウである。

形声字
 ソウ・つくる  刂部 chuàng・chuāng
解字 「刂(刀)+倉(ソウ)」 の形声。ソウは刱ソウ(はじめる・つくる・きずつける)に通じ、刱ソウの意味を同音の創ソウで表した。
意味 (1)はじめる(創める)。「創始ソウシ」「創業ソウギョウ」「創立ソウリツ」「創刊ソウカン」(2)つくる(創る)。つくりだす。「創造ソウゾウ」「独創ドクソウ」「創作ソウサク」(3)きず(創)。きずつける。「創傷ソウショウ」(きずつく)「創痕ソウコン」(きずあと)
 ソウ・ショウ・かさ  疒部 chuāng
解字 「疒(やまい)+倉(ソウ=創。きず)」 の形声。傷を負うこと。および、傷あとの「かさ」をいう。また、かさのできる腫れものをいう。
意味 (1)きず。きりきず。「刀瘡トウソウ」(2)かさ(瘡)。くさ。はれもの。「瘡蓋かさぶた」「疱瘡ホウソウ」(天然痘の俗称=痘瘡トウソウ
 ソウ・いたむ  忄部 chuàng
解字 「忄(こころ)+倉(ソウ=創。きず)」 の形声。心がきずつくこと。かなしむ・いたむ意となる。
意味 (1)かなしむ。いたむ(愴む)。「悲愴ヒソウ」(悲しみいたむ)「悲愴交響曲ヒソウコウキョウキョク」(チャイコフスキー作曲の交響曲)「愴然ソウゼン」(いたみかなしむさま)(2)いたましい。「凄愴セイソウ」(すさまじくいたましい)
 ソウ・やり  木部 qiāng
解字 「木(き)+倉(ソウ=創。きず)」 の形声。長い木の柄に「穂」と呼ばれる先の尖った刃を付け、突き刺して使用する長柄武器(ながえぶき)を槍ソウという。

槍の構造(「名古屋刀剣博物館・槍とは」)
意味 やり(槍)。長い柄の先に尖った刃のついた武器。「槍術ソウジュツ」「槍衾やりぶすま」(槍を前に突き出して隙間なくならぶ)「槍鉋やりがんな」(穂先が反った形の刃に柄をつけた槍に似た古代の鉋)

槍鉋やりがんな(「半布里工房「槍鉋」より)
 ソウ・ショウ・つく  扌部 qiāng・qiǎng・chēng
解字 「扌(て)+倉(ソウ=槍。やり)」の形声。槍を手でつくこと。また、槍を持ってさわぐこと。
意味 (1)つく(搶く)。つきあてる。「風を搶く」(風に逆らって進む)(2)あらそう。みだれる。奪い取る。「搶攘ソウジョウ」(さわぎみだれる)「搶奪ソウダツ」(うばいとる)「搶掠ソウリャク」(かすめとる)
 ソウ・あおい  艸部 cāng
解字 「艸(くさ)+倉(ソウ)」の形声。[説文解字]は「艸(草)の色(いろ)也(なり)。艸(草)に従い倉ソウの聲(声)」とするが、[詩経・王風]は「悠悠たる蒼天ソウテン」と空の青さの意で用いており、深い青色を蒼ソウと言う。
意味 (1)あおい(蒼い)。あお(蒼)。こい青色。「蒼穹ソウキュウ」(あおぞら)「蒼白ソウハク」(顔色が青ざめて血色のわるいこと)(2)しげる。草木がしげる。「蒼蒼ソウソウ」(あおあおしている)「蒼茫ソウボウ」(青々とひろいさま)「蒼海ソウカイ」(=滄海)(3)草木があおあおと茂る意から、多くの人民にたとえる。「蒼氓ソウボウ」(人民。たみくさ。=蒼生)
 ソウ  氵部 cāng
解字 「氵(水)+倉(=蒼。あおい)」の形声。水や海のあおさをいう。
意味 あおい。あおうなばら。うみ。「滄海ソウカイ」(ひろびろとしたあおい海=蒼海)「滄海変じて桑田となる」(大海原が桑畑に変わる。時勢の大きな変遷のたとえ=滄桑ソウソウの変)
<紫色は常用漢字>

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