北海道新聞 07/23 22:16
【平取】アイヌ民族の衣装などに使われる優れた伝統工芸品アットゥシ(樹皮の布)。中でも日高管内平取町の「二風谷アットゥシ」は評価が高いが、技術を受け継ぐ職人は年々減って今は5、6人となり、高齢化も進む。そんな中、本州で調理師をしていた柴田幸宏さん(32)が修業を積み、今月、新米職人としての一歩を踏み出した。「道は険しいが技術を伝えてほしい」。先輩職人たちに期待の声が広がっている。
6月、上川管内南富良野町の国有林。広葉樹オヒョウの皮を剥ぐ二風谷民芸組合員ら約30人の中に柴田さんの姿があった。木を切り倒し、ナタで皮を剥ぐ。オヒョウ30本からアットゥシの原料を採る年に1度の作業は4時間続いた。
皮の質で糸の出来が決まり、柴田さんは「今年のは、しっかりしていて良い」と話す。樹皮は煮て洗って薄く剥がし、2ミリほどに細かく割くなど、多数の工程を経て糸を作り始めるまでに約2週間。糸の量が着物1着を織れる約1キロに達するには2~3カ月必要だ。
二風谷アットゥシは、アイヌ文様の木彫りを施した盆「二風谷イタ」とともに2013年に道内で初めて経済産業省の伝統的工芸品に指定され、今も道内の同工芸品はこの二つだけだ。
樹皮の色や煮る方法で生まれる色の違う糸を組み合わせてきめ細かく織り、しま模様などを浮き上がらせる。さらに、布に刺しゅうするアイヌ文様がアクセントとなり魅力が引き立つ。
「柔らかく、木から作られているとは思えない」。初めて触れた時の感動をそう語る柴田さんは十勝管内音更町出身。調理師学校を出て横浜などの中華店で10年間働いたが「決まった調理をこなす毎日だった」。
子供の頃から作務衣(さむえ)や工芸品など手作りのものを「かっこいい」と感じ、中学の時に授業で知ったアットゥシにも興味があった。16年夏に2カ月休暇を取って二風谷を訪れ「作ってみたい」と決意。18年2月に町が募集した地域おこし協力隊員に応募し、その5カ月後に修行を始めた。二風谷の町民芸品共同作業場「ウレシパ」で週5日、民芸組合講師から糸作りや機織りの指導を受けた。講師の一人、貝沢雪子さん(80)は「何にでも関心があり、学ぶ姿勢が意欲的」と話す。
一人で反物を織れるまでになり、今年4月には初の作品のスーツが完成。「現代的で普段使える物を作ってみたかった」と言う柴田さんが2月から1カ月かけて布を織り、3月に帯広の仕立屋に頼んで仕上げてもらった。「かっこよくできました」と笑顔を見せる。
6月で協力隊員を卒業し、今後2年間は町の支援を受けながらウレシパで働き、職人として独り立ちを目指す。「他人とかぶらないようなものを作りたい」と話す柴田さんは、カメラやギターのストラップなどの製作も考えている。
アットゥシ職人の先輩は全員女性で50~80代。二風谷民芸組合の貝沢守代表理事(56)は「若手が育ってくれるのはうれしい。職人として食べていくのは大変だが、いろいろ挑戦してほしい」と目を細めた。(静内支局 杉崎萌)
※「アットゥシ」と「ウレシパ」のシは小さい字
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/570413
【平取】アイヌ民族の衣装などに使われる優れた伝統工芸品アットゥシ(樹皮の布)。中でも日高管内平取町の「二風谷アットゥシ」は評価が高いが、技術を受け継ぐ職人は年々減って今は5、6人となり、高齢化も進む。そんな中、本州で調理師をしていた柴田幸宏さん(32)が修業を積み、今月、新米職人としての一歩を踏み出した。「道は険しいが技術を伝えてほしい」。先輩職人たちに期待の声が広がっている。
6月、上川管内南富良野町の国有林。広葉樹オヒョウの皮を剥ぐ二風谷民芸組合員ら約30人の中に柴田さんの姿があった。木を切り倒し、ナタで皮を剥ぐ。オヒョウ30本からアットゥシの原料を採る年に1度の作業は4時間続いた。
皮の質で糸の出来が決まり、柴田さんは「今年のは、しっかりしていて良い」と話す。樹皮は煮て洗って薄く剥がし、2ミリほどに細かく割くなど、多数の工程を経て糸を作り始めるまでに約2週間。糸の量が着物1着を織れる約1キロに達するには2~3カ月必要だ。
二風谷アットゥシは、アイヌ文様の木彫りを施した盆「二風谷イタ」とともに2013年に道内で初めて経済産業省の伝統的工芸品に指定され、今も道内の同工芸品はこの二つだけだ。
樹皮の色や煮る方法で生まれる色の違う糸を組み合わせてきめ細かく織り、しま模様などを浮き上がらせる。さらに、布に刺しゅうするアイヌ文様がアクセントとなり魅力が引き立つ。
「柔らかく、木から作られているとは思えない」。初めて触れた時の感動をそう語る柴田さんは十勝管内音更町出身。調理師学校を出て横浜などの中華店で10年間働いたが「決まった調理をこなす毎日だった」。
子供の頃から作務衣(さむえ)や工芸品など手作りのものを「かっこいい」と感じ、中学の時に授業で知ったアットゥシにも興味があった。16年夏に2カ月休暇を取って二風谷を訪れ「作ってみたい」と決意。18年2月に町が募集した地域おこし協力隊員に応募し、その5カ月後に修行を始めた。二風谷の町民芸品共同作業場「ウレシパ」で週5日、民芸組合講師から糸作りや機織りの指導を受けた。講師の一人、貝沢雪子さん(80)は「何にでも関心があり、学ぶ姿勢が意欲的」と話す。
一人で反物を織れるまでになり、今年4月には初の作品のスーツが完成。「現代的で普段使える物を作ってみたかった」と言う柴田さんが2月から1カ月かけて布を織り、3月に帯広の仕立屋に頼んで仕上げてもらった。「かっこよくできました」と笑顔を見せる。
6月で協力隊員を卒業し、今後2年間は町の支援を受けながらウレシパで働き、職人として独り立ちを目指す。「他人とかぶらないようなものを作りたい」と話す柴田さんは、カメラやギターのストラップなどの製作も考えている。
アットゥシ職人の先輩は全員女性で50~80代。二風谷民芸組合の貝沢守代表理事(56)は「若手が育ってくれるのはうれしい。職人として食べていくのは大変だが、いろいろ挑戦してほしい」と目を細めた。(静内支局 杉崎萌)
※「アットゥシ」と「ウレシパ」のシは小さい字
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/570413