北海道新聞08/25 22:28 更新
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イコロ(宝物)を渡す儀式で新婦の渡辺麻耶さん(中央右)にマキリを贈る新郎の恵士朗さん(中央左)
【平取】町二風谷で20日、アイヌ民族の伝統的な結婚式「ウトムヌカラ」が3年ぶりに行われた。平取アイヌ協会青年部が2008年に始め、既婚者を含め知人や観光客に挙式を呼び掛けていた。3年前には初めてカップルを一般公募し札幌の夫婦に決まったが、翌年からコロナ禍で2年連続中止となっていた。ようやく挙式にこぎつけた2人は、民族衣装に身を包んで伝統家屋のチセで式を挙げ、祝福を受けた。
ウトムヌカラは「互いを見つめ合う」の意味。1971年に町二風谷地区で行われた結婚式を基に、青年部がアイヌ民族の伝統的な舟下ろしの儀式「チプサンケ」に合わせた恒例行事として始めた。2011年からはチプサンケ前日に前夜祭として開催している。
2年の延期を経て20日、ウトムヌカラを行ったのは札幌のITコンサルタント渡辺恵士朗さん(38)と会社員の麻耶(まや)さん(37)。青年部が「活動を広く知らせよう」と19年に町ホームページで公募した、20年の挙式希望に申し込んでいた。
式は新型コロナ対策で参列者を家族や関係者計約30人に抑えた。2人は刺しゅうが施された民族衣装を着て、新郎はサパンペ(儀式用の冠)とエムシ(刀)、新婦はヘコカリプ(女性用の鉢巻き)とタマサイ(首飾り)を身に付ける正装で臨んだ。
いろり端に向かい合って座り、まず結納にあたるイコロ(宝物)を渡す儀式を行った。新郎はマキリ(小刀)、新婦はテクンペ(手甲)をそれぞれ互いに贈った。マキリとテクンペは、町二風谷の工芸家の高野繁広さん(72)と妻啓子さん(69)が作品を提供した。
その後、新婦がおわんによそった米を2人で半分ずつ食べ、ともに生活していくことを誓う「飯食いの儀」や、人間と神々との橋渡し役を担うアペフチカムイ(火の神)への結婚報告、新郎新婦の幸せを願うカムイノミ(神への祈りの儀式)などを行い、50分ほどかけて式を終えた。
2人は15年に旅行など共通の趣味をきっかけに知り合い、17年に結婚。すでに結婚式を挙げている。
旭川出身の恵士朗さんは早大時代の授業で故郷のアイヌ文化を学び「人と神と自然を一体に捉え、地域に根ざすアイヌ文化の面白さを知った」という。札幌出身の麻耶さんは約10年前に内閣官房アイヌ総合政策室北海道分室の臨時職員としてアイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」の開業準備に携わり、「和人の文化と違う視点で自然を敬うアイヌ文化に興味が湧いた」と振り返る。
ウトムヌカラの公募を偶然見つけた2人は「珍しくて面白そう」と応募。延期が続いただけに終了後、「待ち望んでいた式ができ、ほっとしました」と笑顔を見せた。恵士朗さんは「文献や写真、動画では得られないアイヌ文化の空気感を味わえました」と語った。
青年部の川奈野利也部長(41)は「伝統儀式を残していくとともに、青年部員が儀式の作法を身に付ける場にもなる。今後も続けたい」と話した。一般公募は来年にも再開する予定。(杉崎萌)
※「ウトムヌカラ」の「ム」と「ラ」、「チプサンケ」の「プ」、「エムシ」の「シ」、「ヘコカリプ」の「プ」、「イコロ」の「ロ」は小さい字
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/722046/

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イコロ(宝物)を渡す儀式で新婦の渡辺麻耶さん(中央右)にマキリを贈る新郎の恵士朗さん(中央左)
【平取】町二風谷で20日、アイヌ民族の伝統的な結婚式「ウトムヌカラ」が3年ぶりに行われた。平取アイヌ協会青年部が2008年に始め、既婚者を含め知人や観光客に挙式を呼び掛けていた。3年前には初めてカップルを一般公募し札幌の夫婦に決まったが、翌年からコロナ禍で2年連続中止となっていた。ようやく挙式にこぎつけた2人は、民族衣装に身を包んで伝統家屋のチセで式を挙げ、祝福を受けた。
ウトムヌカラは「互いを見つめ合う」の意味。1971年に町二風谷地区で行われた結婚式を基に、青年部がアイヌ民族の伝統的な舟下ろしの儀式「チプサンケ」に合わせた恒例行事として始めた。2011年からはチプサンケ前日に前夜祭として開催している。
2年の延期を経て20日、ウトムヌカラを行ったのは札幌のITコンサルタント渡辺恵士朗さん(38)と会社員の麻耶(まや)さん(37)。青年部が「活動を広く知らせよう」と19年に町ホームページで公募した、20年の挙式希望に申し込んでいた。
式は新型コロナ対策で参列者を家族や関係者計約30人に抑えた。2人は刺しゅうが施された民族衣装を着て、新郎はサパンペ(儀式用の冠)とエムシ(刀)、新婦はヘコカリプ(女性用の鉢巻き)とタマサイ(首飾り)を身に付ける正装で臨んだ。
いろり端に向かい合って座り、まず結納にあたるイコロ(宝物)を渡す儀式を行った。新郎はマキリ(小刀)、新婦はテクンペ(手甲)をそれぞれ互いに贈った。マキリとテクンペは、町二風谷の工芸家の高野繁広さん(72)と妻啓子さん(69)が作品を提供した。
その後、新婦がおわんによそった米を2人で半分ずつ食べ、ともに生活していくことを誓う「飯食いの儀」や、人間と神々との橋渡し役を担うアペフチカムイ(火の神)への結婚報告、新郎新婦の幸せを願うカムイノミ(神への祈りの儀式)などを行い、50分ほどかけて式を終えた。
2人は15年に旅行など共通の趣味をきっかけに知り合い、17年に結婚。すでに結婚式を挙げている。
旭川出身の恵士朗さんは早大時代の授業で故郷のアイヌ文化を学び「人と神と自然を一体に捉え、地域に根ざすアイヌ文化の面白さを知った」という。札幌出身の麻耶さんは約10年前に内閣官房アイヌ総合政策室北海道分室の臨時職員としてアイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」の開業準備に携わり、「和人の文化と違う視点で自然を敬うアイヌ文化に興味が湧いた」と振り返る。
ウトムヌカラの公募を偶然見つけた2人は「珍しくて面白そう」と応募。延期が続いただけに終了後、「待ち望んでいた式ができ、ほっとしました」と笑顔を見せた。恵士朗さんは「文献や写真、動画では得られないアイヌ文化の空気感を味わえました」と語った。
青年部の川奈野利也部長(41)は「伝統儀式を残していくとともに、青年部員が儀式の作法を身に付ける場にもなる。今後も続けたい」と話した。一般公募は来年にも再開する予定。(杉崎萌)
※「ウトムヌカラ」の「ム」と「ラ」、「チプサンケ」の「プ」、「エムシ」の「シ」、「ヘコカリプ」の「プ」、「イコロ」の「ロ」は小さい字
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/722046/