SBS 2 September 2024 5:35pm
先住民が代々受け継いできた伝統医療の知識を理解し尊重することは、現代の医療においてより包括的で文化に配慮したケアを提供する鍵となるかもしれません。
ファースト・ネーションズの人々にとって、「健康」とは単に病気や疾患がないことだけを指すものではありません。健康とは、身体的、感情的、社会的、そして精神的なウェルビーイングが複雑的に絡み合った、総合的な概念です。
そのため、先住民の伝統医療は、身体的な治療だけでなく、さまざまなウェルビーイングのバランスを取ることを目指しています。
ルトルウィタ北東海岸出身のトゥルウルウェイの女性、アラーナ・ゴール博士は、幼い頃から伝統医療に情熱をささげてきたと語ります。
「実家ではいつも、さまざまな自然薬などを使っていましたし、父はいつも狩猟に出かけ、いろいろな儀式やスピリチャルな習慣も生活の大きな一部でした。」
ゴール博士はサザンクロス大学で自然療法医学の博士研究員として活動するほか、Traditional, Complementary and Integrative Medicine(TCI)の先住民伝統医療担当ディレクターをなど、複数の公的擁護団体にも関わっています。
アボリジナルの伝統医療は「ブッシュ・メディシン」と呼ばれることがありますが、博士によるとそれは完全には正しい表現ではなく、逆に人々の理解を妨げる可能性があると説明します。
「伝統医療は、吸入薬や外用薬、摂取薬といった物理的なものだと考えられがちです。しかし、私たちの医療は、実際にはそれ以上のものです。」
「ヒーリングセレモニーやスピリチュアルな医療、伝統的なヒーラーもいます。」
私たちはカントリーを、土地を、ヒーラーと考えています。ですから、私たちにとって「カントリー」も医療なのです。そして、これらすべてを支えているのが、私たちがよく言う、ways of knowing, being and doingの概念です。
Dr Alana Gall
伝統的なヒーラー
デビー・ワトソンさんは、南オーストラリア州・アナング・ピッジョン・ジャーラ・ユングクウ・ジャーラ(APL)の、ピップアヤッタ・ジャーラ出身の伝統的なヒーラー、ヌンカリー・ヒーラーです。
ヌンカリー・ヒーラーは、人間の核となる精霊を整える手助けをします。
「私は自分の手を使って人々を癒します。人の内面を見ることで、その人のエネルギーを感じ、その人の内面にあるもの、痛みを知ることができます。そして精霊に働きかけます。」
ワトソンさんは精霊がずれたりブロックされたりすると、痛みや不安、その他の症状を引き起こすことがあると説明します。
「精霊は傷つけてはいけないのです。」
人を癒す能力は代々受け継がれており、ワトソンさんも代々続くヒーラーの家系に生まれ、父親からその技術を学んだと言います。
「父は私に強いヒーラーになる方法を教えてくれました。」」
ワトソンさんは、オーストラリア初のアボリジナルヒーラー協会である、アナング・ヌンカリー・チュタク・アボリジナル・コーポレーション(ANTAC)のディレクター兼共同創設者でもあります。
この非営利団体は、アボリジナルの人々はもちろん、そうでない人々にもこの伝統的なヒーリングを提供しながら、何世紀にもわたり伝承されてきた伝統を守り続けてきました。
フランチェスカ・パンジローニ博士は、ANTACの創設者兼CEOとしてワトソンさんとともに活動しています。
国際人権法や先住民の自己決定権を専門としていたパンジローニ博士ですが、アボリジナルの伝統医療に対する好奇心から「未知の世界に飛び込む」ことになったと説明します。
パンジローニ博士は地域のヌンカリー・ヒーラーやそのコミュニティと何度も話し合った結果、先住民が古くから伝わるヒーリングにアクセスする必要性に気づかされたと言います。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/6f/f90a5041d5fc043c883e68d33216a357.png)
From left, Dr Francesca Panzironi and Debbie Watson
人々は本当に必要としていました。単なる理論ではなく、実際に元気になっていったんです。
Dr Francesca Panzironi
現在、ANTACは伝統的なヒーリングを一般の人々にアクセスできるようにしており、健康サービスから矯正施設、さらには学びたいと考えているその他の機関にまで幅広く提供しています。
伝統的なヒーリングは生物学的モデルを置き換えるものではありませんが、協力し合うことがで、現代の医療をより文化に配慮したものにできると述べています。
伝統医療と現代医療の連携
ブンゴリーとマトラのヘリテージを持つ分析化学者、ブレット・ローリング氏は、伝統医療は一見、現代医療と正反対に見えるものの、互いに補い合うことができ、それぞれの独自の見解を持つことを可能にすると説明します。
ひとつは、私たちの口伝の物語、教えや道徳、そして秘密です。もうひとつは、データと分析に基づく西洋的なやり方です。このふたつは正反対に見えますが、互いに補完し合うものでもあります。
Brett Rowling
例えば、パラセタモールは現代科学のデータと分析に基づいていますが、口伝で伝えられてきた伝統医療も同じくらい効果的に作用することがあります。これにより、ひとつの問題に対して異なるが完全に成立する二つの見解が得られます。
「私たちは太古の昔から存在していました。すべてを持っていたのです。白人たちが来て、物事のやり方を教えてくれるのを待っていたわけではありません。すでにさまざまな薬や技術を持っていたのです。」
ローリング氏は、それを今、「世界に見せる時がやってきた」と話します。
またゴール博士もこれらの伝統的知識から多くを学ぶことができると話します。
「我々は地球上で最も古くから続いている文化を持っています。私たちには、地球を守る方法や昔から続けてきた医療のやり方に関する知恵があります。」
ゴール博士は、これらの知識を現代に活かすことができれば、抗生物質が効かない耐性菌など、今起きている問題に対して効果的な対応ができるようになると、説明します。
そして現代医療は、伝統的な医薬品の安全性を確認するために必要なデータと分析も提供できます。
知恵の保護
しかし、これら伝統的知識を適切に保護する仕組みが整っていないため、コミュニティーによっては知識を共有することを躊躇したり、最悪の場合、長老が亡くなり、その知識が失われてしまうこともあると、ゴール博士は説明します。
「現に私たちの知識は保護されていません。それは、知識を自由に提供することが安全でないことを意味します。」
大手製薬会社や化粧品会社、農業会社がその知識を利用し、商品化し、大儲けすることができるからであると、博士は付け加えます。
さらには適切な保護がないことで、この知識を持つ人々がその恩恵を受けられなくなる可能性があるとも説明します。
ゴール博士の長期的な目標は、その知識を地球全体の健康のため、共有できるシステムを作ることだと言います。
https://www.sbs.com.au/language/japanese/ja/podcast-episode/embracing-the-wisdom-of-traditional-indigenous-medicine/8sshvnrjy