「本の間から見つかった、亡き妻宛ての古いハガキ。
妻の知られざる過去を追い、男は灯台を巡る旅に出る――。
地方紙で連載されていた人気作、待望の書籍化!
板橋の商店街で、父の代から続く中華そば店を営む康平は、一緒に店を切り盛りしてきた妻を急病で失って、長い間休業していた。ある日、分厚い本の間から、妻宛ての古いはがきを見つける。30年前の日付が記されたはがきには、海辺の地図らしい線画と数行の文章が添えられていた。差出人は大学生の小坂真砂雄。記憶をたどるうちに、当時30歳だった妻が「見知らぬ人からはがきが届いた」と言っていたことを思い出す。なぜ妻はこれを大事にとっていたのか、そしてなぜ康平の蔵書に挟んでおいたのか。妻の知られざる過去を探して、康平は旅に出る――。
市井の人々の姿を通じて、人生の尊さを伝える傑作長編。」
連載されていた頃は新聞を購読していて連載を知っていましたが・・、記憶力が怪しげになりだした頃から前の話を忘れてしまうので、新聞連載を読むのは止めていました。
そして今は、新聞購読自体を止めました。
ある人々の生き方を疑似体験する事によって、自分はどうなのだろうと思わせてくれる本でした。
余談ながら、6/21の「武内陶子のごごカフェ」に出演した宮本輝は、
「作家を目指す人たちに、「説明」と「描写」は違うということを教えています。」と答えていた。
文中からの抜粋
「六十二歳の引きこもりのおっさんになってしまうと、若くないだけに立ち直るのは難しいという恐れも感じるようになっていた。」
「『渋江抽斎』(森 鴎外)・・・仏典では、百千万億那由他阿僧祇劫という表現で無限の時間を示している。那由他は十の六十乗、阿僧祇は十の五十六乗。つまり百×千×万×億×那由他×阿僧祇×劫ということになる。・・劫は循環宇宙論では、ひとつの宇宙が誕生して消滅するまでの期間なのだが、・・一瞬の中に永遠があると見れば、三日で死んだ子もなにかを残して生涯を終えたことになるのだ。だが本当に終えたのだろうか。・・」
「――「交尾ノ後ニハ、スベテノ動物ハ悲シ」は、今でもなお共通の経験を表現している。つまり、緊張したそして熱烈に待望した瞬間が過ぎた後には、われわれはしばしば、端的にわれわれの把握を超えた何か偉大なものを失ってしまったと感じるのだ。――」
(21/07/04画像借りました。)