ルイジ・ボッケリーニ(1743〜1805)は、同時代のハイドンやモーツァルト比べると現在では作曲家として隠れた存在に甘んじていますが存命中はチェロ演奏家として名高く、チェロ協奏曲やチェロソナタに加えて弦楽四重奏曲を90曲以上、そこにチェロ一本を加えた弦楽五重奏曲を100曲以上作曲して、自身でも演奏を行いました。その中でも弦楽五重奏曲ホ長調G275の第3楽章は『ボッケリーニのメヌエット』として単独で有名になっています。
ボッケリーニの作風はハイドンに似ていながらも、独特な優美さと憂いを含んだものとなっているものが多く見受けられます。そのスタイルから、当時の音楽家からはハイドン夫人(Signora Haydn)などとも呼ばれていたようです。
優れた演奏技術をもって、それまで通奏低音楽器として用いられてきたチェロを一気にソロ楽器に昇華させたボッケリーニですが、スペインに渡ってからギターのための作品も遺しています。それを代表するのが、ギターと弦楽四重奏を組み合わせた13曲のギター五重奏曲です。
ボッケリーニはスペインのドン・ルイス王子の招きにより1749年からスペイン宮廷に仕えて以来、終生マドリードに住んでいました。ギター五重奏曲群はアマチュアのギタリストであり、1796年からボッケリーニのパトロンであったブナバント侯フランシスコ・ボルハ・デ・リケル・イ・デ・ロスのために1798年に作曲されたものです。
13曲のギター五重奏曲の中でもとりわけユニークなのがギター五重奏曲第4番ニ長調G448、通称『ファンダンゴ』です。これはボッケリーニが作曲したギター五重奏曲の中で最も人気のあるものの一つで、特に第3楽章と第4楽章は『序奏とファンダンゴ』の別タイトルでギター・アンサンブルやピアノとギターの二重奏など様々な編曲でクラシックギター奏者に親しまれています。