はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

夜汽車の窓

2011-08-20 14:50:20 | はがき随筆
 蒸し暑い夏の夜。「今日も何もしなかったなあ」。私はアパートの窓を開けて外を見た。
 星はまたたき、雲はゆっくりと流れている。私はいつしか子供のころの夢を見ていた。
 僕は小学1年生、70年も前の僕です。ゴトン、ゴトンと揺れる夜汽車の窓から田んぼの向こうに、ちらほらと家の明かりが見えて来た。
 「母ちゃん、あれだよね、ばあちゃんっ家、だね?」
 「違うよ、まだ着かないわ。もっとデンキが増えてからよ」
 目を覚ました私はフッとため息をもらしていた。この70年で何を得て何を失ったのか。
   鹿児島市 高野幸祐 2011/8/18 毎日新聞鹿児島版掲載

「水やりをお願いして」

2011-08-20 09:34:17 | 岩国エッセイサロンより
2011年8月19日 (金)

       岩国市  会員  山下治子

 半月ほど家を留守にすることになり庭の植物の世話に困った。特にプランターや鉢の花たちは手が抜けない。

 「忙しい」と主張する息子たちでは心もとない。「朝夕の水やり、10日間お願いできる?」。知り合いの近所の小学生と交渉が成立した。

 帰宅すと、グリーカーテンのアサガヲやゴーヤ、庭の花々が生き生きと咲いていた。草まできれいに引き抜いてあった。。

 夕方、最後の水やりに来た彼を「大変だったね」とねぎらい、約束のお金を入れた封筒を手渡した。「あと少しで、ほしかったサッカーシューズが買える」。表情を輝かせながら、貯金していることをうれしそうに話した。

 私はとっさに「そうだ、これは草引き文ね」と封筒に心ばかりの「ボーナス」をいれた。「草は……お母さんが……」。困った顔をする彼に「大丈夫。お母さんにもあるのよ」とお土産を持たせると、「ありがとう」と大きくお辞儀をして急ぎ足で帰って行った。

 あす咲くだろう朝顔のつぼみをながめながら、息子たちの幼いころを、ふと思い浮かべた。

          (2011,08,19 朝日新聞「ひととき」掲載)岩國エッセイサロンより転載