「日本は、原発という植民地をつくって、生活しているのではないか」
そんな趣旨の問いかけをノンフィクション作家、佐野真一氏がニュース番組で語っていた(23日、報道ステーション)。
確かに原発で働く労働者の作業環境の過酷さは一般の人々には見えにくい。一方で原発が生み出す電力が、24時間営業のレストランやコンビニに象徴される生活を支えている。コンビニの商品棚の照明から、原発を想像するのは困難だ。華やかさが何かを隠しているのか。
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英国・リバプール。ビートルズを生んだこの港町が、もともと奴隷貿易で栄えたことは余り知られていない。
18世紀半ば、リバプールは奴隷貿易の拠点だった。しかし、リバプールに奴隷の姿はなかった。
英国を出る船は、日用品などを西アフリカ沿岸部へ運ぶ。そこで、積み荷とアフリカ人奴隷を交換する。船は中米・西インド諸島へ行き、奴隷を降ろす。現地でサトウキビやタバコなどを栽培する労働力として奴隷が使われる。船は砂糖やタバコを積んで母港リバプールに戻る。いわゆる三角貿易だ。
植民地から入ってくる農作物は見える。だが、それが奴隷によって生産されたことは消費者の目には隠されている。見えざる植民地だ。
そのリバプールに奴隷貿易を反省する資料を展示した博物館がオープンしたのは2007年。奴隷貿易廃止から約200年が経過していた(井野瀬久美恵著「大英帝国という経験」など参照)
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福島第1原発の事故が終息しない。もし、佐野氏が言う通り原発が「見えざる植民地」だとするならば、それをどうするか判断するのに200年も時間をかける訳にはいかない。
見えないものを想像し議論していくことが求められている。
鹿児島支局長・馬原浩 2011/8/29 毎日新聞掲載