はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「散歩道の友達」

2013-01-08 23:44:47 | 岩国エッセイサロンより


2013年1月 8日 (火)

   岩国市  会 員   沖 義照

夕方の散歩中、家の前でボールを蹴って遊んでいる兄弟と出会った。小学1年生と3年生の男の子だ。お兄ちゃんは黒い縞の入った、赤いサッカーユニホームを着ている。

半月後、この家の前に来たとき、弟が1人でコンクリートの壁に向かってボールを蹴っていた。

「お兄ちゃんはいないの? おじさんとやってみようか」

「うん、いくよっ!」。

離れて向き合い、左右に小走りしながら10回くらい蹴りあうと、すぐに息が上がった。

「よし、またやろう」

「うん、ありがとう」

それから数日後、弟がまた1人でボールを蹴っているのが、はるか手前から見えた。10㍍くらいまで近づいた時、突然ボールを私に向けて蹴ってきた。強い勢いでボールを蹴り返した。無言のまま、また蹴ってきた。今回も10回くらい蹴りあった。

「僕は上手だな」というと、得意げな顔をする。「またやろう」と言って立ち去ろうとすると「リフティングもできるよ」と言いながらボールを上に蹴りあげる。が、うまく出来ない。何度もやって、やっと2回続けることが出来た。「わかった、うまいよ」と言って散歩を続ける背中に「5回は出来るよ」の声。

1年生の子供に、サッカーの練習相手としてどうやら認められたようだ。年の離れたお友達と気分転換の出来る楽しい散歩道となった。

(2013.01.08 毎日新聞「男の気持ち」掲載)
岩国エッセイサロンより転載

悲しみ癒す人の情

2013-01-08 23:42:45 | 岩国エッセイサロンより
2013年1月 7日 (月)

    岩国市  会員  横山 恵子

 今年は年賀状がほとんどない正月で、父を亡くした寂しさが一層募った。
 昨年4月、身内や親しい近所の人たち30人余りで、父の家族葬を行った。
 人に迷惑を掛けたくない、という生前の希望で家族葬にした。時代と共に、葬儀の在り方も変わりつつあるのかなと思う。
 知人から、家族葬にすると当分、留守ができないよと言われた。そして、後に聞いたからと、お参りしてくださる人、電話や手紙、花も届いた。
 喪中はがきを出した後にも、わが家に下宿していたAさんたちが来て、父の思い出話をした。
 「はがきを読み、しばらく涙が止まりませんでした…」という父の元同僚の手紙も。悲しみを共有してくださることで、心が少しずつ癒やされた。
 多かれ少なかれ、人は悲しみや荷物を背負って生きているが、寄り添う人がいれば、励まされ元気が湧いてくる。あらためて人の情け、ぬくもりを感じることができた。 
  (2013.01.07 中国新聞「広場」掲載)岩国エッセイサロンより転載