はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

新堰

2013-01-19 15:50:17 | はがき随筆
 日差しの柔らかい正月に、昨年完成した新堰で釣り糸を垂れる。
 待つこと4時間。けたたましく鈴が鳴り、さお先が大きく曲がった。7分間の格闘の末に4㌔ほどのコイが揚がった。「うれしい。とにかくうれしい」
 米ノ津川は6年間の改修工事に加えて、新堰の工事でコイやフナが散り散りばらばらになった。元の漁場にかえるには、十数年を覚悟していた。早くも釣れたことは、太公望に大いなる希望が湧いた。
 新堰の好漁場は初釣りを祝って、コイをリリースした。
  出水市 道田通範 2013/1/19 毎日新聞鹿児島版掲載

ヨイトマケ

2013-01-19 15:44:34 | はがき随筆
 紅白歌合戦で三輪宏明さんの「ヨイトマケの唄」をしんみりと聞いた。ヨイトマケと聞けば終戦から3年。中学1年生だった私たちは当時教室が足りず、すしづめの学習。校舎建設にヨイトマケを高らかに歌うおじさんの越えにあわせて、ヨーイ、ヨーイと滑車の綱を引いた。炎天下に防止もかぶらず汗まみれ。自分たちの校舎造りの手伝いに力が入った。完成した真新しい教室での思い出はひとしお。進学、就職で故郷を離れ、しばらくして、まなびやを訪ねてみると跡形もなく市民の広場になっていた。ヨイトマケの歌も作業したのもあの時だけだった。
  出水市 年神貞子 2013/1/18 毎日新聞鹿児島版掲載

今年の夢

2013-01-19 15:39:12 | はがき随筆
 昨年の早春、大リーグの開幕2試合を東京ドームで見た。その醍醐味を知って以来、テレビ中継を欠かさず見ることになったが、それが高じてヤンキースタジアムでイチローと黒田が活躍する姿をこの目で見たいと夢は膨らむ一方。そんな気持ちを妻に話すと、待っていたように行こう!行こう!と一気に飛躍。今年の夢になった。となると、まず健康保持に努めなくてはならない。早朝10㌔の散歩はいいとして、肥満を食い止めるため晩酌を控えてと思うが、これは難しい。費用は葬儀資金を取り崩してと、気持ちは夢に向かって走っている。
  志布志市 若宮庸成 2013/1/17 毎日新聞鹿児島版掲載

慶応4年

2013-01-19 15:16:12 | はがき随筆


 父の母は80歳で私たち家族と同居。日課は山へ薪取り。背負える程になると、孫の土産にグミの実を、枝ごと薪の上に乗せ帰宅。ある日、祖母に誕生日を聞くと「慶応4年」と。当時は聞き流した。今になり慶応4年は9月7日終了、8日から明治元年と知る。父は末っ子で7歳まで乳を飲んだと。厳格な父にそんな一面も。思い出は山のふもとで芋作りに挑戦。肥料は各自持ち現場へ。祖母は誰よりも先に行き、山の崖から「オーイ」。その勇ましさ。その後、父が転勤で祖母を兄に預け赴任。楽しい老後の日々。自然と食欲が衰え96歳の生涯を閉じた。
  肝付町 鳥取部京子 2013/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆12月度の入賞者

2013-01-19 12:52:35 | 受賞作品
 はがき随筆12月度の入賞者は次のみなさんです。(敬称略)

【月間賞】27日「一切れのカステラ」塩田きぬ子(62)出水市
【佳作】3日「散歩」中鶴裕子(63)鹿屋市
9日「頑張ってほしい」鵜家育男(67)鹿児島市

 一切れのカステラ 老人ホームへ母親の面会に行った時に見かけた、無言でカステラ間を渡す老夫婦の光景です。それが度分の母と子の状況と対比されていて、効果的です。仏教では、生老病死、生きることは業苦だといいます。その避けられない難題にどう対処するか、その対処の仕方を考えさせる文章です。
 散歩 ご夫婦での日課になっている、夕方の散歩で見かける情景の描写です。特別のこともない、といってしまえばそれまでですが、そのありふれた情景に、新しい発見をしていく楽しさが、静かに心地よくつづられています。読んでいて、ふと、ミレーの名画「晩鐘」を思い出しました。
 頑張ってほしい 大型店の進出に圧倒されながらも、町内で頑張っている八百屋さんへの、励ましの言葉です。買い物難民という言葉があるようですが、数年前の政府の進めた規制緩和策が、国内のいろいろのところで、新しい問題を発生させているようです。町内の野歴史でもある、このにうな店舗はどうなるのでしょうか。
 他に3編を紹介します。田中京子さんの「3Lから2Lへ」は、せめて2Lの服が着られるように、原料作戦中の涙ぐましい奮闘記です。自分を戯画化して書くのも文章の一つの手法ですが、これはいやみに陥る場合もあります。ご自分への距離の置き方が適度で、成功しました。若宮庸成さんの「静寂と歓声と」は、ゴルフ観戦の時のグリーンでの、せき一つできない静寂と、近接の子供ランドのにぎわいとか、対比的に描かれています。どちらの良い悪いではなく、どれもこれも「別世界の風」が吹くという楽しみ方には、交換がもてました。 
 清田文雄さんの「アイロン」は、娘さんへの電話で、アイロンの具合の悪いことまを話すと、いきなり電話を切ってしまった。ご皆出したアイロンを回収車がくる前に、あわてて取り戻しに行ったらしい。送ってもらって重宝しているという内容です。文章に流れる速度がいいですね。
 (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)



 20131/15 毎日新聞鹿児島版掲載


健気なひかり

2013-01-19 12:43:48 | はがき随筆
 月日のたつのは早い。「ひかり」(雌・シーズー)と暮らして9年余りになる。偶然出合ったひかりに私たち夫婦は癒されてきた。利口な犬で自分の仕事を心得ている姿は健気である。テレビのピンポーンというチャイムが鳴ると、あっ、お客さんだと玄関の方へ走っていく。4年前、主人が留守中の時、倒れた私を3時間も見守った。
 ひかりの特技は、ぬいぐるみと遊ぶこと、浴槽の中で泳ぐこと。昼間、眠っていることが多いのは、仕事を全うするために疲れるから。気分転換に、十分あそんだらゆっくり眠りなさいと私は、つぶやく。
  鹿屋市 田中京子 2013/1/15 毎日新聞鹿児島版掲載

書き続ける喜び

2013-01-19 12:21:17 | はがき随筆
 妻たちの熱気に満ちた会話に耳をそばだて聴き入った。話は韓流ドラマ「冬のソナタ」に始まり「春のワルツ」「タンポポ三姉妹」「緑の馬車」「秋の童話」など好奇心に駆られる魅了的なタイトルに誘われ夢中になったと言い、若い頃の思い出や郷愁、身にしみる家族愛を思い起こさせてくれ感動したと満足げに話す。私はこの話にヒントを得てグッとこぶしを握った。「読んでみたい」と思ってもらえる表題、大きな感動など自分の思いを読者へうまく伝えられるよう文章を練り、推敲を重ね、そして書き続けていこうとつよく思ったのです。
  鹿児島市 鵜家育男 2013/1/14 毎日新聞鹿児島版掲載

お宮参り

2013-01-19 12:15:39 | はがき随筆
 お宮参りの日の天気は、1週間前の予報では曇りのち雨で、心配していたが、当日は小春日和になり安堵した。孫が「晴れ男」と呼ばれることは、祖父にとってうれしいことだ。
 まず、写真館にて、長崎から来られた婿殿の両親とのあいさつもそこそこに、記念撮影をしてから、照國神社でのお参りである。
 大安という日は、何人をも動かす力があるものだと思うほど大勢の人出であった。近くのレストランで祝宴も大いに盛り上がった。子供が2人いる。こんな体験をあと5回ほどしたいものだと願うが……。
  鹿児島市 下内幸一 2013/1/13 毎日新聞鹿児島版掲載

ワッハッハ

2013-01-19 11:54:27 | はがき随筆
 「すわ、黒船の砲撃か?」。就寝中、突然の物音。「お母さん起きて! 誰か戸をたたいているよ」。3度目の呼びかけに妻が目覚める。恐る恐る玄関を開けてみる。満天の星。誰もいない。「おかしいなあ。隣の奥さんじゃない?」一瞬、お隣に急病人が出たかとか、怪しい男が襲って来たかとか疑ったが、どちらも違うようだ。「雨戸をたたく音がしたけど、ウチ雨戸はないし……。幻聴?」。あれこれ思い悩むのはやめて眠りについた。翌朝のテレビニュース。昨夜11時54分、桜島が空振を伴う爆発的噴火――。笑うしかない。「ワッハッハ」
  霧島市 久野茂樹 2013/1/12毎日新聞鹿児島版掲載