はがき随筆12月度の入賞者は次のみなさんです。(敬称略)
【月間賞】27日「一切れのカステラ」塩田きぬ子(62)出水市
【佳作】3日「散歩」中鶴裕子(63)鹿屋市
9日「頑張ってほしい」鵜家育男(67)鹿児島市
一切れのカステラ 老人ホームへ母親の面会に行った時に見かけた、無言でカステラ間を渡す老夫婦の光景です。それが度分の母と子の状況と対比されていて、効果的です。仏教では、生老病死、生きることは業苦だといいます。その避けられない難題にどう対処するか、その対処の仕方を考えさせる文章です。
散歩 ご夫婦での日課になっている、夕方の散歩で見かける情景の描写です。特別のこともない、といってしまえばそれまでですが、そのありふれた情景に、新しい発見をしていく楽しさが、静かに心地よくつづられています。読んでいて、ふと、ミレーの名画「晩鐘」を思い出しました。
頑張ってほしい 大型店の進出に圧倒されながらも、町内で頑張っている八百屋さんへの、励ましの言葉です。買い物難民という言葉があるようですが、数年前の政府の進めた規制緩和策が、国内のいろいろのところで、新しい問題を発生させているようです。町内の野歴史でもある、このにうな店舗はどうなるのでしょうか。
他に3編を紹介します。田中京子さんの「3Lから2Lへ」は、せめて2Lの服が着られるように、原料作戦中の涙ぐましい奮闘記です。自分を戯画化して書くのも文章の一つの手法ですが、これはいやみに陥る場合もあります。ご自分への距離の置き方が適度で、成功しました。若宮庸成さんの「静寂と歓声と」は、ゴルフ観戦の時のグリーンでの、せき一つできない静寂と、近接の子供ランドのにぎわいとか、対比的に描かれています。どちらの良い悪いではなく、どれもこれも「別世界の風」が吹くという楽しみ方には、交換がもてました。
清田文雄さんの「アイロン」は、娘さんへの電話で、アイロンの具合の悪いことまを話すと、いきなり電話を切ってしまった。ご皆出したアイロンを回収車がくる前に、あわてて取り戻しに行ったらしい。送ってもらって重宝しているという内容です。文章に流れる速度がいいですね。
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)
20131/15 毎日新聞鹿児島版掲載