はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

飛べ、イプシロン!

2013-09-03 11:34:17 | ペン&ぺん
 
今夏、鹿児島から全国へ、世界へとニュースを発信した。先月18日に起きた桜島の爆発的噴火とドカ灰、27日のイプシロンロケットの打ち上げ延期。記事はインターネットでたちまち海外へ。支局の記者や私も国内外の友人、知人から「桜島の噴火は大丈夫か」と安否を尋ねるメールや電話が相次いで届いた。鹿児島市民、県民は過去にもっと大量の降灰を幾度も経験しており、落ち着いて対応していた。だが県外、国外の人には非常事態に映ったのかもしれない。
 「3、2、1……あれ?」イプシロン打ち上げ予定の午後1時45分前、私もテレビの前で童心に帰って秒読みをした。県外から夏休みを利用して肝付町まで見学に行った人は本当に残念だった。特に子供たちには、ごう音を上げて宇宙に向かうロケットを見せてあげたかった。
 私もかつて内之浦宇宙空間観測所から先代のM5などロケット打ち上げを取材したことがある。取材を重ねるうちに私もドキドキして打ち上げを待った。天に昇るロケットに「よし行け!」と手を振り、声援を送ったものだった。27日は県外ナンバーの車も多く、大勢の見学者でにぎわった。
 鹿児島には種子島、肝付町とロケットの射場がある。これは全国で鹿児島県だけ。江戸時代に天体観測をした天文館は有名だ。テレビがイプシロンの打ち上げ延期を報じてくれたおかげで全国の人が肝付町を知った。これを機に「宇宙に近い県」を更にPRし「宇宙を学ぶなら、体験するなら鹿児島へ」と盛り上げていきたい。
 全回、この欄で読書に触れたら「子供の頃に読んで心に残る本は?」と聞かれた。それは太宰治の「走れメロス」、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」、森鴎外の「高瀬舟」。さあ今度こそ我々に雄姿を見せてくれ「飛べ、イプシロン!」。
  鹿児島支局長 三嶋祐一郎 2013/9/3 毎日新聞鹿児島版掲載

カモのチャコ

2013-09-03 11:27:47 | はがき随筆
 小柄な茶色のカモは、堤防の上で立ち止まっている私の足元に怖がりもせず寄ってくる。その後を2羽が見守るようについてくる。これがカモたちとの最初の出会いだった。そのうち、私は茶色のカモに「チャコ」と名付け、呼びかけていた。眠る時も、泳ぐ時もいつでも2羽がチャコを守っていた。
 チャコは体も大きくなり、一人遊びをするようになったのか、突然いなくなってしまった。守るべき者を失った2羽のカモの寂しげな様子に胸が痛む。
 どこかで元気にしていればいいと思いながらも、私は今朝もチャコを呼び続けている。
  出水市 山室浩子 2013/9/3 毎日新聞鹿児島版掲載

母の魂

2013-09-03 11:20:52 | はがき随筆
 老人ホームの母の面会に、週2回は行こうと思っている。しかし、ついさぼってしまう。
 はやる思いで部屋に入ると、ベッドの母の顔は少しこわ張り、目はうつろである。いつものように必死で体をもみさする。すると和らいだ表情になり、じっと私を見る。そして「ありがとう」と言う。帰るまでさすり続けると「疲れるからやめなさい」。次に「忙しいから帰りなさい」と、か細い声で言う。
 名前も忘れているが、私のことは母の魂に届いていると確信し、ほっとうれしくなる。でもあと一言届けたい。「もう忙しくないよ。幸せだよ」と。
  出水市 塩田きぬ子 2013/9/1 毎日新聞鹿児島版掲載