2013年9月21日 (土)
岩国市 会 員 吉岡 賢一
笑顔のすてきな看護師さんに言われるまま舌を出した。途端にガーゼでつかまれ力任せに引っ張られる。その痛いこと痛いこと。涙と脂汗が顔をぬらす。地団太踏んでも離してはくれない。子どもの頃に聞かされた閻魔大王と看護師さんの顔が重なる。喉に刺さった異物。「これが犯人です」。医師の持つピンセットの先に5㍉に満たない魚の小骨。舌を抜かれるまでには至らなかったが、その苦痛の大きさは容易に想像できた。
そのはずみで「今後はうそをつきません」と誓った。数十年を経た今、その時の痛みを忘れ、方便を使いこなす自分がいる。
(2013.09.21 毎日新聞「はがき随筆 文学賞特集『うそ』」掲載)
岩国エッセイサロンより転載