はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ユーモア礼賛

2015-04-04 21:38:20 | はがき随筆
 子供の頃、近所に愉快なおじさんがいた。
 ある日、自転車に乗った青年が通りかかり、庭にいたおじさんに道を尋ねた。両足を地に付けた姿勢で。すると、くだんのおじさん「いっ時待て」と言うと、自分の自転車を持ち出してきた。その青年と同じポーズを取って、
「どこよ」。
 青年は慌てて自転車を降り、「駐在所はこん道を行けばよかとけな?」「真っ直ぐいけ」。
 今思い出しても楽しい話でクスリと笑ってしまう。青年はこの短い会話で、きっとエチケットを学んだに違いない。
  鹿屋市 門倉キヨ子 2015/4/4 毎日新聞鹿児島版掲載

内視鏡検査

2015-04-04 21:17:09 | はがき随筆
 お腹がグルグルいつもと何か変。そのうち下痢、一日に何回も。食欲は有るし、熱もなし。漢方薬をもらい、しっかりと効いた。けれども再び以前のような下痢じゃないけれど、何か変。内視鏡検査で観察のみ。「ポリープがあったら次にします」。検査食の味はどんなだったかな? そして、下剤前の時は最後の方はトイレの中で飲んだな~。「下剤は家で飲んでもいい」と言われた。8年前とは違った。心配ばかりしてたのがうれしい。ポリープでも、がんでも医師に任せる覚悟で「あんなに薬ものんでるのにきれいな腸です」。胃の時も合格、今度も。
  鹿屋市 三隅可那女 2015/4/3 間日新聞鹿児島版掲載

親の心子知らず

2015-04-04 21:08:00 | はがき随筆
 遠い昔、Gパンにリュックサックを背負って40日間の旅に出た。フランスからギリシャまで足を延ばし、リフレッシュして帰って来た。
 その夜、「枕カバーが洗濯してない」と母を責めた。母は朴の花のようにほほ笑んで言った。「もしもの時のために、あなたの匂いを残しておきたくて」と。海外旅行が日常時でなかった頃、戦場へでも送り出す覚悟をして娘を旅立たせた母。「親の心子知らず」。思いも及ばなかった深い親心に絶句した。
 今は亡き母と同じ愛を注いで子育てをしただろうか。自らに問う夜がある。
  鹿屋市 伊地知咲子 2015/4/2 毎日新聞鹿児島版掲載
 

ようこそ鹿児島へ

2015-04-04 20:40:39 | ペン&ぺん


 チュニジアの首都チュニスにある国立博物館が襲撃され、外国人観光客ら23人が凶弾でなくなったテロ事件。更に、フランス南部の山中で機体が粉々になって見つかったドイツ旅客機墜落事故。世界で悲惨な事件が相次いでいる。どちらも犠牲者の中に日本人が含まれていた。遺族の胸中を思うと「なぜだ」と強い憤りを隠せない。読者の皆さんも、いや私だって被害に遭っていたかもしれない。
 1995年3月20日、東京で起きた地下鉄サリン事件。猛毒の神経ガスを使った同時多発テロで13人が死亡、数千人が負傷。20年前、私は鹿屋通信部の記者だった。ニュースを見て、東京にいる親戚や知人らに片っ端から電話をかけ続けた。死者、重傷者に家族や知り合いがいたらどうしよう……。誰もが心を痛めた無差別テロ。宗教や主義、主張が異なるからといって、人を殺すなんて決して許されない。ドイツ機の事故も副操縦士について様々な報道があるが、徹底した真相の究明が待たれる。なんの関係もない他人を巻き込む行為はもうこりごりだ。
 死者57人、行方不明者6人を出した御嶽山(長野・岐阜県)の噴火から半年。これも昨年9月の行楽シーズンに起きた。まさかの惨劇だった。
 3月29日、鹿児島市の甲突川沿いで多くの人が桜を楽しんでいた。午後3時すぎ、桜島の噴煙が空高く上がった。今年に入り、桜島が活発になっている。過去の歴史を見れば分かるように、桜島のエネルギーはすさまじい。県民なら誰もが知っている。警戒や対策を怠らないようにしたい。
 4月だ。進学や就職などで心機一転、鹿児島で新生活をスタートさせる人も多いはず。桜島の降灰は時にやっかいだが、でもそこは「桜島あっての鹿児島」。明治という新時代を開いた先人や歴史。自然を学び、鹿児島を体感してほしい。
  鹿児島支局長 三嶋祐一郎 2015/4/2 毎日新聞鹿児島版掲載

初恋

2015-04-04 20:32:28 | はがき随筆
 僕の初恋は、中学2年の始業式の日に突然やって来た。
 当日、1人の若い女性教師に僕はくぎ付けになった。小顔で美人でスレンダー。名字は「入佐」。幸い、僕たちの音楽担当になったが、話すチャンスがない。そこで嫌がる友人を連れて職員室に行った。いろいろ楽典を質問していると、隣の先生が「高橋、先生が好きなんだろう」と言われた途端、体中の熱いものが一気に顔めがけて噴き上がってきた。後はどうやって部屋を出たか、今でも思い出せない。
 4月、始業式のニュースが報じられると、思わず口元がほころぶ僕がいる。
  日置市 高橋宏明 2015/4/1 毎日新聞鹿児島版掲載

無情

2015-04-04 20:14:01 | はがき随筆


 庭のハクモクレンは樹齢40年を超してかなりの大木である。毎年、3月になると、一面を白一色に包み、見事に咲く。ところが、これが我が家の「憂きごと」の一つになっている。
 庭には種々のツバキや梅があるが、モクレンは1本である。来訪者の誰もが見上げて賞賛してくれる。いつまで咲いているのだろうか。気になるのは、寒の戻り。明日の最低気温は何度になるのだろうか。全てが咲ききった記憶がない。モクレンの花びらほど霜に弱いものはない。
 「やっぱり!」、昨夜の遅霜で無情にも黒く……。あ―、春のこころはのどかではない。
  志布志市 一木法明 2015/3/31 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は一木さんのブログことだま日記より

記念写真

2015-04-04 20:05:38 | はがき随筆
 別れと出会いの季節。どれほど多くの方々と巡り合えた事でしょう。
 仰げば尊し、蛍の光は涙で歌えなかった。厳格な父は学校の欠席を嫌い、小学校6年間の皆勤賞を取った時は、殊の外喜んでくれた。苦労人の父の願いが今になってよく分かる。
 「短所より長所を」と、励ましてくださった慈愛あふれる恩師。忘れられない人ばかり。懐かしいアルバムに見入る。
 「写真を撮るよ」。賑やかな声に、笑顔で記念撮影に応じる。寒さも緩んだ春の日に、新生活をスタートさせる孫たち。傍らの菜の花も満開となった。
  出水市 伊尻清子 2015/3/30 毎日新聞鹿児島版掲載