はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

転校生

2015-12-24 16:04:20 | はがき随筆
 タガ君のことを友人たちは覚えていないという。私はフルネームで覚えている。小学5年の頃、早朝から校庭に大きな田の字を書き、それぞれのマスに陣取って、ドッジボールの球で相手をやっつける庭球という遊びに夢中だった。タガ君は強かった。多賀と書いたか。
 気がついたときにはもう彼はいなかった。どこから転校してきてどこへ転出したのか。ほんのしばらくの間だったような。
 人生の中で、ある一時期だけ出会って親しくなり、分かれて再び会うことのない人たち、どんな人生を歩いたのかと、それらの人たちを思うときがある。
  霧島市 秋峯いくよ 2015/12/7 毎日新聞鹿児島版掲載

趣味

2015-12-24 15:58:03 | はがき随筆
 文筆とは無縁の私が、随筆に投稿するのが恒例となった。何を書こうかと思案するも、書き終えた後の達成感は自己満足ながら張り合いになっている。加えて、本紙により世界の動向、政治、経済、暮らしに関する情報などを得られ、話題には事欠かないつもり。食いしん坊のため、料理欄は見逃せない。食卓にはアレンジして試作を重ねたメニューも並ぶ。レパートリーも広がった。家族の反応も気になるところ。うまくできた暁には、すぐに娘や友人にも教えたくなる。ひろば欄に、私と同様、新聞が趣味となった方もおられ、とてもうれしくなった。
  鹿屋市 中鶴裕子 2015/12/6 毎日新聞鹿児島版掲載

詩がうまれた

2015-12-24 15:52:38 | はがき随筆
 息子のお嫁さんは生まれも育ちも県外だが、息子の郷里串木野がお気に入り、魚が大好きだから。今夏、家族で帰省して、外出先から帰って車から降りたとたん、彼女が叫んだ。
 「ウワーッお星様がきれい! いいなあ、ここに住む人は」見上げると、ダイヤがびっしり並んできらめいているかのような満天の星。30年以上住んできて、気づかなかったなあ。
 折しも市制10周年記の「ふるさと三行詩」の募集があり、私は彼女の言葉を念頭に創作し応募した。うれしいことに入賞した。彼女に伝えたらなんと答えるだろう。聞くのが楽しみ。
  いちき串木野市 奥吉志代子 2015/12/5 毎日新聞鹿児島版掲載

初冠雪

2015-12-24 15:45:57 | はがき随筆
 1階から桜島の北岳の辺りに白いものが見える。雪? 11月27日、2階へ上がり、雪と確認した。お隣の奥さんに「おはよう」を交わし「雪です。桜島に……」と弾んだ声でごあいさつ。「ゆうべ寒かったですね」。やがて日が出て桜島は山ひだを隠し、シルエットとなった。
 昨夜、すべてのものを冬物に入れかえたので、今朝は早速暖かいソックスでスタートした。あと3日でもう師走。今年は元日早々から9月の入院まで思わぬ災いにつかまってしまったけれど、何とか挽回。今日、初冠雪を見た。
  鹿児島市 東郷久子 2015/12/3 毎日新聞鹿児島版掲載

逃げ道

2015-12-24 13:22:28 | はがき随筆
 川内原発がメルトダウンしたら集落ごとにかの地のそこに車で避難しなさい、という色刷りの分厚い冊子が全戸に配布されました。はて、どうしたものか。誰でもできるのか。まずは逃げる所まで行ってみようと思いました。立冬を過ぎたその日は、夏日の温かい一日でした。
 薩摩山地の頴娃街道に入ると、目の前に薩摩富士の滑らかな山肌が、右に左にと目の前を彩りました。黒い大地に白く輝く開聞岳。70年前も今以上に人々の心をつかみ、離さなかったことでしょう。はたしてここも安全、安心な場所なのか、そう思う一日でした。
  いちき串木野市 新川宣史  2015/12/2 毎日新聞鹿児島版掲載

高齢運転者です

2015-12-24 13:08:19 | はがき随筆
 私の運転免許証は平成28年の誕生日(81歳)まで有効である。先日、関東に住む息子が突然やってきた。3泊4日の滞在で、種子島の温泉に入ってみたいと言い出したので、私の運転で中種子の町営温泉に連れて行った。比較的長い直線コースを走っているとき、後部席の息子が突然叫んだ。「お父さん、スピード出し過ぎ」。メーターは80㌔。すぐ60㌔に戻したが息子はさらに言った。「高齢運転者なんだから、制限時速の50㌔で走らなければだめ」。そして「運転には気をつけてよ」。まるでそれを言いに来たかのように言い残して帰って行った。
  西之表市 武田静瞭 2015/12/1 毎日新聞鹿児島版掲載

気になる木

2015-12-24 13:05:51 | はがき随筆


 この秋母校を訪れ課外授業をした。校庭の大木センダンが「気になる木」との話を耳にしたからだった。懐かしい記憶が心の底からよみがえってセンダンが呼びかけてきた。「時間がゆっくり流れ、ハナズンダレのあなたたちがクッサカと言いながら5年生のときにコエをまき大きく育てと植えてくれたね」。この回想を紙芝居に作り、同級生と植樹した思い出などを語った。子供たちには「この木のように一歩ずつ成長してほしい、そしてつらくなったら会いに来て」と言葉を掛けた。すると栴檀の枝からモズがキーキーッと鋭い声で元気よく鳴いた。
  さつま町 小向井一成 2015/11/30 毎日新聞鹿児島版掲載

読書熱再び?

2015-12-24 12:57:51 | はがき随筆
 40年前の春、就職先も決まらず実家に戻った。公務員や教職を目指して受験勉強をする傍ら、ひそかに読書に精出していた。文学史に名を残し、教科書に取り上げられた作品群を読んだり、横溝正史やアガサ・クリスティにはまったりもした。
 就職してからは、通勤列車の中や昼休みに読んでいた。
 40代になると少し熱が冷め、「照柿」や「少年H」などを次々買い込むも、最後までたどり着けず「積ん読」状態に。
 昨年あたりから、新刊に手を出したり、文庫本をまとめ買いして、真面目に読んでいる。
 秋の夜長は本と過ごそう。
  鹿児島市 本山るみ子 2015/11/29 毎日新聞鹿児島版掲載

ごっつ

2015-12-24 12:48:10 | はがき随筆
 数を覚え始めた息子は「いち、にい、さん」は言えるのだが「ひとつ、二つ、みっつ」が苦手だ。コンビニで空揚げを買おうとしたら「ごっつ欲しい」と言う。この年で大人買いかと驚いたら「いつつ」欲しかっただけらしい。
 数の数え方は面白い。中国は日本と同じで十進法だ。中国の知り合いは、英語の『eleven.twelve』が納得できず、『oneteen,twoteen』じゃないのか、と話していた。それを言うなら『ten.-one,ten-two』ではないかと思うのだが。ともあれ、息子はごっつの空揚げで満腹になった。
  鹿児島市 堀之内泉 2015/11/28 毎日新聞鹿児島版掲載

つなぐツリー

2015-12-24 12:24:55 | はがき随筆


 夫が逝ってしまってから1年10か月が過ぎた。浦島太郎のような63歳の私と18歳の一人娘の2人暮らし。たくさん泣いたり、笑ったりしてここまできた。
 「アミュの広場にツリーが飾られる頃になったら、お父ちゃんのことを思うよねえ」「うん、元気な頃、私たちにきれいなツリーを見せたくて、よく車で走ってくれたよね。あの頃は銀色のツリーだった。……懐かしいなあ。私は子供だったし」と娘。そろそろアミュ広場にツリーが飾られるだろう。なくなった人と生きてる私たちをツナグ役目を持っているとは知らない美しいツリーが……。
  鹿児島市 萩原裕子 2015/11/27 毎日新聞鹿児島版掲載