
2015年12月28日 (月)
岩国市 会 員 山本 一
今年も妻が2羽の鶏を丸焼きにした。―羽は京都府に住む長女へ宅配便で送った。もう1羽は近くに住む次女の一家がわが家に来て一緒に食べる。わが家のクリスマスの恒例行事だ。
私がこのローストチキンを初めて食べたのは婚約中の頃で、妻の家だった。腹に詰めたパンと砂肝が、とてもうまかった。
以来、妻は毎年この時期にローストチキンを作る。材料は、なじみの肉店があらかじめ準備してくれる。
嫁いでいる娘たちも妻に期待するが、いずれも夫が食べたかっていることを口実にし、なぜか直接「作ってくれ」とは言わない。
妻の弱いところをくすぐってやらせている。妻もぶつぶつ言いながら、毎年、楽しそうに焼いている。妻と娘たちの、あうんの呼吸が面白い。
妻の母はハワイ暮らしが長く、この料理は、母から受け継いだものだ。そして今、妻のローストチキンは娘たちにとって母の味なのだ。ふと、父親は娘たちに何を残せるのだろうと自問した。
(2015.12.28 中国新聞「広場」掲載)岩国エッセイサロン より転載