はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

我が家の日食観察会

2019-03-02 12:29:30 | はがき随筆
 1月6日の8時半から10時頃にかけて、宮崎でも部分日食が観られると言う。息子が10年前に使った日食メガネがあるはずと、あちこち引っかき回してやっと見つけた。
 朝から雲が多く、なかなかまともに観察できなかったのだが10時過ぎにようやく雲が遠のき、東南東の空に太陽がその姿をはっきとり現してくれた。
 日食メガネ越しの太陽はオレンジ色で、その左斜め上がかなり欠けている。妻と、交代で観たり写真を撮ったりした。写真はうまく撮れなかったが、心のアルバムにしっかりと納めることができて大満足だった。
 宮崎市 福島洋一(63) 2019/3/2 毎日新聞鹿児版掲載

出展に挑戦

2019-03-02 12:22:13 | はがき随筆
 今年は亥年。年賀はがきに「猪突猛進」の加筆を多くいただきました。町内ふれあい新年号で老人会の会長あいさつに「我々はその勢いはありません。じっくり考えゆっくり行動を起こすことで足りると思います」と書かれました。同感です。
 さて、私、100歳圏入りして98歳になりました。足腰が弱くなりましたが幸い、デイケアサービスで頭の体操、大人のぬり絵を習い熱中し、昨年は市老蓮文化祭にも出品しました。今年も参加することに意義があると思い、賞は棚上げして「海の楽園」をテーマに人魚とタツノオトシゴを描き出展に挑戦します。
 熊本市中央区 田尻五助(98) 2019/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載

おいの年賀状

2019-03-02 12:14:14 | はがき随筆
 高校の物理の教師だったおいの年賀状に「杜甫の〝人生七十古来稀なり〟の年齢になりましたが気概を持って生きたいものです。生きているうちに一般相対性理論を理解したいと思い立ちました」とある。現役時代も読んだ本とのこと。生物も教えることになり勉強していること。文化祭で自身が設計した気球が浮揚したときの感動など。勉学の楽しさを生徒に伝えたいが時間が足りないと。出世欲がなく、現場がよいと気概を持って取り組んだ教師生活だった。
 どうか彼の願いがかないますように。私は家族の食事作りに更なる心を込めましょう。
 鹿児島市 内山陽子(81) 2019/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載

ポケモン探し

2019-03-02 12:05:29 | はがき随筆
 ポカポカ陽気の日曜の午後、コンサートホールに行くため隣接の公園を歩いていると、来る人来る人、スマホを見ながら歩いて来る。その数が多く団体行動に見えたので、何かのイベントでスマホを使ったゲームをやっているのかと思った。
 スマホを手にした一人に何をしているのかと聞くと、ポケモンを探しているという。
団体行動ですかと聞くと、皆それぞれ勝手に行動しているのだそうだ。
 そういえば、以前テレビでこういう光景を見たことがある。あんなに多くの人が夢中になるのだから面白いのでしょうね。
 宮崎市 森山浩生(71) 2019/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載

楽しい会話

2019-03-02 11:41:08 | はがき随筆
 会話が得意ではない私が介護施設に勤めいてる。不安を抱える利用者の方にうまく返事ができず、更に不安にさせてしまったのではないかと後悔する。
 ところが、何の気遣いもなく再び同じことを尋ねられる。初めて尋ねる顔をして。そんな認知症の方に救われている。何度も同じことを尋ねられ、私も何度でもその人が安心する返答を探して応える。そしてお互いに笑顔になる。
 「私はなんでここに来たとかい?」「私と出会うためですたい!」 
 会話をして笑い合う幸せを感じている。
 熊本市東区 栞原響子(25) 2019/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載  

真心

2019-03-02 11:34:40 | はがき随筆
 炊事や洗濯に加えて、半認知となった母の世話が重くのしかかる。朝は大小便のお漏らしを処理して母の服を着替えさせる、洗濯機を回す、食事の用意、と戦争さながらの忙しさだ。
 しかし、世話を掛けるねとかありがとうの言葉を母から聞いたことがない。母親が困ったら子がする。当然のことと受け止めて、感謝の言葉など期待もしなかった。「道範あって、私は生きていられる」。母の言葉を帰省した姉から伝え聞いた。木石のような母にも、真心は通じていたのか。母の言葉は、介護する私を勇気づけて余りある。母よ頑張れ、私も頑張る。
 鹿児島県出水市 道田道範(69) 2019/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載

義母は強し

2019-03-02 11:24:40 | はがき随筆
 雨上がりの朝のこと。「ハツ子さあん」と、義母の異常な声に裸足で飛び出す。
 止んだばかりの雨が残した水たまりは、血で赤く染まっていた。義母は仏壇の花の水を替えようとしていて、滑って頭を打ったようだ。押さえていた手から、血が幾筋も流れている。慌てて在宅医を探す。「傷が深いから縫合しますね」医師の言葉を聞いていた96歳の義母は、無言で私の顔を見上げた。
 一言も痛いと口に出さない気丈さに、昔気質の女の強さを思う。毛糸の帽子を目深らかぶり何事もなかったように、ふるまう義母の後姿を見る。
 宮崎県延岡市 川並ハツ子(74) 2019/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載

記念樹の成長

2019-03-02 11:16:35 | はがき随筆
 今、植木市開催中。10年前のこと、改築記念樹を植えようと子どもたちと出かけた。久しぶりにその活気を楽しみ、植樹する苗木を選ぶことに。「実の成る木がいいね」とスイートスプリング、レモンの2本の苗木を購入して早速庭に植えた。
 小さかった木もグングン成長し、5年目のころ、甘い香りのかれんな花に蜂やチョウがとまり、秋には数個の実をつけてくれた。特に昨年は見事なレモンが50個ほど収穫できた。我が家の蜂蜜漬けになり、関東に住む次女にも送った。2本の植木に「今年もよろしく」と話しかけながら寒肥をあげる。
 熊本市中央区 原田初枝(88) 2019/3/1 毎日新聞鹿児島版掲載

兄キ

2019-03-02 11:08:39 | はがき随筆
 二つ違いの兄がいる。共に終戦後の困難な時代に生れた。出生時、体も小さく病弱だったそうだ。病院通いもしばしばで、大きく育つかと随分心配したと母から聞かされた。
 その兄が、中学、高校とぐんぐん背が伸び、やんちゃで親を困らせた。水産高校に進んだが、あるとき父とけんかになり家を飛び出した。親の心配をよそに遠くの親戚の家に行き「海洋訓練で船で来た」とほらを吹き、その場を沸かせ、歓待をうけたという逸話がある。
 今年は、年男の兄だ。話が及ぶと「俺の武勇伝か」と、威勢のよさは健在である。
 鹿児島県 出水市 伊尻清子(69) 2019/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載

健康のありがたさ

2019-03-02 11:00:21 | はがき随筆
 「健康な人は、自分の健康に気が付かない。病人だけが、健康を知っている」とは言い得て妙だ。これまで「そうよね」と笑い飛ばしてきたが、しみじみこの言葉をかみしめている。
 ひょいと物を抱え、腰を痛めた。立ったり座ったりすると、ピリピリする。居ても立っても居られない不安に「治るかなあ」と妻に弱音を吐く始末だ。主治医に聞くと「老化現象だから気長に治して」といら立ちを慰める。家にこもったりしないで出歩くよう勧めてくれた。
 早速、杖に頼って、近くのコンビニまで散歩に出かけた。妻が「杖を置き忘れないでね」。
 宮崎市 原田靖(78) 2019/2/27 毎日新聞鹿児島版掲載