はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

よそいき

2019-03-25 22:47:01 | 岩国エッセイサロンより
2019年3月23日 (土)
岩国市  会 員   貝 良枝

 「28日に保健師さんが来てよ」と母に伝える。「28日?」。確認したって覚えていられないのに。
 当日、実家に行き「10時に保健師さんが来てよ」と言うと「ほうか」と初めて聞くような返答をする。やっぱり……。掃除するので寝室に促すと「これでええかのぉ」と今着ている服を心配する。「いいよ、それで」と返事しておいた。来られたので母を呼ぶ。歩行器を押し現れた母は「お出掛け服」に着替えている。話し方も「そうです」「おります」と、よそいき。
 90歳、できないことが増えたが、「よそいき」のできる母に拍手。
   (2019.03.23 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

いつでも夢を

2019-03-25 22:45:04 | 岩国エッセイサロンより
  岩国市  会 員   吉岡 賢一

 竹馬やお手玉、あやとり、コマ回しなど昔の遊びを通して、小学1年生と地域の大人が交流する会に呼ばれた。不慣れな子供たち相手に我を忘れて遊びを楽しんだ後、一緒に給食をいただく時間となった。
 始まって間もなく隣の男子が「おじさん、いくつですか」と間くので「77歳よ」答えた。間髪を入れず「将来の夢は何ですか」ときた。思わぬ質問に、さて何と答えよう。適当にお茶を濁したものの人に話せる将来の夢などなくしてしまった自分がちょっと恥ずかしい。改めて思う。「雀百まで踊り忘れず、人間百まで夢を忘れず」だなー。  
  (2019.03.23 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

亡き母の味思い出す

2019-03-25 22:43:42 | 岩国エッセイサロンより
   岩国市   会 員   横山恵子

 先日、近所の人に手作りこんにゃくを差し上げたら「あんたのお母さんによくいただきました。こんにゃくを見ると思い出すわ」と言ってくれた。
 叔母から毎年コンニャク芋をもらうので、母は生前手作りしては知人にあげていた。晩年の20年余り、私とは同居していた。母が作るのをそばで見て、覚えたのは幸せだった。
 始めて1人で作った時、少し硬かったが、「初めてにしては上出来よ」と言ってくれた。すし、シソジュース、かしわ餅なども教えてもらった。すしは亡くなった父の好物だったので、母はよく作っていた。その味には到底かなわない。
 親類に「おばさんの岩国ずしの味は忘れられんよ」と言われる。あの世で母も喜んでいるだろう。
 ノートに母のレシピを書き留めて居たのでそれを見て作り、「おふくろの味」を思い出している。私が働いていた時、両親には随分支えてもらった。母が亡くなって1年余り。思い出すと目頭が熱くなる。
   (2019.03.23  中国新聞「広場」掲載)

ジャカランダの花

2019-03-25 22:16:55 | はがき随筆


 宮崎市の平和台に20年あまり住んでいた。私たち家族には実り多い古里のようなものである。先日、雑誌に美しい花の写真を見て懐かしさに声を上げた。その思い出は淡い紫の花で、山肌に覆いかぶさるような大木で壮観としか言いようのない見事な景色だった。亡き夫に見せてやりたい一心で育ててみることにして、早速南郷町の道の駅に注文。枯れ木のような苗が届いた。「太陽と水が好きです」。優しい女性の声に励まされた。
 初夏には仏前に見せてやれる。昨日あわ粒ほどの淡い緑の芽を虫眼鏡で発見。老いの日々に楽しみが一つできた。 
 熊本市中央区 木村恵子(88) 2019/3/29 毎日新聞鹿児島版掲載

胸のうち

2019-03-25 22:10:17 | はがき随筆
 某月某日。県県から息子が帰宅の予定。待てど待てどコールなし。電源は切られ通じず。「アアまたか」。私のつぶやき。それでも胸のモヤモヤ静まらない。なぜひと言、現在地を伝えない。待つこと数時間。私の心配性が頭をもちあげ、悪い流れに心は支配される。アア、なんでこんな大人になった。
 親の心知らず、本人は友人とドライブ。今日はしゃべりすぎてつい遅くなったとの弁。
 安心感と人を気遣う気持ちの欠けた息子に複雑。こんな気いつまで続くのかと不安。自分勝手な男にどのように言葉をかけらたいいのかと。
 鹿児島県鹿屋市 春野フキ子(69) 2019/3/22 毎日新聞鹿児島版掲載

思い出残り

2019-03-25 22:02:46 | はがき随筆
 終戦時玄米を一升瓶で、姉が棒で突き精米していた。小学生の自分も手伝い、突いたら瓶の底が割れてしまった。慌てて家を飛びだし谷川を挟んだ山で農作業をしている母に自分は大声で伝えた。「馬鹿もん、村の人に聞こえるじゃないか」。すごい剣幕だ。知らんぷりの姉さんを羨ましく思った懐かしい昔。母は農家出の働き者で朝早くから畑山を駆け回る。父は鉱員で石が相手の掘って砕いてまた掘って、ルーペで見ては頭をひねる。だから静かな父だった。私も特に贅沢も出来ず言わずの昭和生れ。平成の次も平和を。
 宮崎県延岡市 前田陸男(80) 2019/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

春風の誘惑

2019-03-25 21:54:10 | はがき随筆
 映画解説者、リリコさんの笑顔がテレビ画面に踊った。
 70歳を過ぎて娘たちに連れられていく映画のとりこになった。今は体力が落ちてDVDの映画を楽しんでいる。サウンド・オブ・ミュージックや駅馬車などは映画館で余韻までも感じたい。
 前回の東京オリンピックの頃はいなせなカウボーイで、今は大監督のクリント・イーストウッド。監督と主演の映画が3月に公開されるとのこと。すごーい。御年88歳。脱帽です。
 春浅い日の昼下がり、吉田兄弟の豪華な津軽三味線のバチさばきが聞こえたような。
 熊本市東区 黒田あや子(86) 2019/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

朝ドラ効果かな?

2019-03-25 21:41:52 | はがき随筆
 朝、新聞を読んでいた主人が「今、チキンラーメンが最高に売れているんだと」と言った。毎朝、朝ドラを見るのが日課の我家。今はラーメン開発話の「まんぷく」だ。「ヘェーすごいね」と返した私。その日の買い物に行った店先に偶然か即席麺が山積みにされ売られていた。私はためらいなくチキンラーメンを手に、もちろん昼食はそれにした。卵を落とし、熱湯を注ぎ、ふたをする。3分待つと芳ばしい香りが食をさそう。
 即席麺は、朝ドラ効果もさることながら、手堅く悩める主婦の助けになる。よね。
 宮崎県西都市 河野満子(68) 2019/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

ぬくもりの手を

2019-03-25 21:34:45 | はがき随筆
 病院のロビーで薄汚れた服に、伸びた髪がいささか匂う。老人の男性が車いすに掛けて、なんだかもたついている。傍らからそっと声をかけると、降りたいが足が地に着かない。困った様子だ。
 私が手を添えるから私の合図に合わせてね、準備はいいよ、せーの、はい。私の肩につかまってと老人の腰にも手を回した。要領をつかんだのだろう。足は地に着き成功した。老人は「ああ、よかった」と喜びの表情。ほほ笑みのヒゲづらはまぶしかった。幸せなる達成感に浸った。私の心の中にぬくもりの泉が湧き出づる。

 鹿児島県姶良市 堀美代子(74) 2019/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

あかり

2019-03-25 21:28:28 | はがき随筆
 近所の人に「あなたの家に夜遅くまであかりがついているのを見ると、ほっとした気持ちになる」と言われた。うちのあかりは、夫が早く寝ると何回もトイレに起きるとか言って、ついているあかりである。そのあかりに慰められている人がいるとは何とありがたいことかと思った。
 私にも覚えがある。
 父母の介護に通っていた頃の事である。真っ暗な山道の峠を越え遠くに家のあかりがポツリポツリと見えた時のあの安堵感。心細かった私にとって、あのあかりはほんとうにうれしいあかりだった。
 宮崎県日南市 黒木節子(71) 2019/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

センバツに祈る

2019-03-25 21:22:40 | はがき随筆
 13日付新聞にセンバツ特集が入ってました。熊本西高校が初出場することになりました。選手の皆さんの笑顔、先生方の思い、背筋をピシ
ッと伸ばした皆さんのポーズ。決意が伝わってきます。
 初陣の若武者そのものに見えてうれしさで胸いっぱいになりました。どうぞ今までの力を残さず発揮できますようお祈りしています。
 校長先生の言葉のように勇気と感動のプレーを甲子園に残してください。青空に大きくはばたく若鷲のように、二度とない青春を描いてください。心から応援しています。
 熊本県八代市 相場和子(92) 2019/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

豆まきすんで

2019-03-25 21:07:14 | はがき随筆
 夫婦2人の節分は10年余りたち、掃除を考えて殻つき落花生を3個ずつ放つ。
 今年は朝カーテンを開けてたまげた。左隣の家の庭に2個落ちているではないか。夫の投げ方が勢い余っていたか。20歳くらい年下の家族。他人様にすればゴミと同じだ。8時になるのを待って電話する。「あのう何かありましたか」。事情を話すと「こちらも厄払いになりました」と喜ばれた。「豆を拾いにおじやましようか」と夫に聞くと「そのうちカラスが持っていくよ」と。そういえば朝からいやにカラスの鳴き声や羽音が近く、本当になった。
 鹿児島県いちき串木野市 奥吉志代子(70) 2019/3/25 毎日新聞鹿児島版掲載

忘れてはいけない

2019-03-25 20:36:50 | はがき随筆
 東日本大震災から8年。新聞記事を読みながら、一昨年秋の三陸旅行を思い出していた。
 気仙沼。新しくなった道路や建物に「津波到達点」の表示。「この辺も水に浸かったんですね」とタクシーの運転手に何気なく問うと、「そんなもんじゃない!」と強い口調で一蹴され、後の言葉が続かなかった。
 地元の震災展示館で、渦巻く濁流をビデオで見た時、自分の無神経さを思い知った。何度もテレビで放映され衝撃を受けたのに、歳月はいとも簡単に記憶をはぎ取っていた。
 タクシーの中の気まずい空気を戒めのように今も思い出す。
 宮崎県日南市 矢野博子(69) 2019/3/24 毎日新聞鹿児島版掲載

お下がり

2019-03-25 20:28:58 | はがき随筆
 最初に出るのはため息だ。私には隔年のいとこと姉がいる。そこから私までたどり着くのが「お下がり」。制服は一番ひどい。光沢を帯びたスカート。幾度も付け替えたボタン。粗い織りが透けて見える冬物のオーバー。よくぞここまで持ちこたたえたと驚く。1学年はそれでも良しだが、急成長の私には「ちゅんちゅくりん」になった丈の短さをさらす恥ずかしさ。さすがに親も新調してくれたが、それなら最初から新品をくれと我慢の1年が無駄に思えた。
 今ではその辛抱が懐かしい。昔はもったいないの心。どこもそうしたものだった。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(64) 2019/4/20 毎日新聞
 

居場所

2019-03-25 20:21:58 | はがき随筆
 花を買って水につけておきながら、生けるのを忘れていて、夜遅くに包みを開けた。たった数本のラナンキュラスだったが、花瓶のせいかバランスを取るのに苦労した。花留を使って何とかまとめ、台所に飾った。
 翌朝起きると、何と白が1本抜かれてトイレの一輪挿しに居るではないか。家内の仕業だ。面白くなかったが、悔しい事に花瓶はその方がすっきりした感じてあったのでそのままにした。数日たつと花瓶の花たちは大きく膨らんで白が戻るスペースは無くなってしまった。
 白の花は一輪挿しが良かったのだ。
 宮崎市 中村薫(53) 2019/3/18 毎日新聞