はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

3年たちました

2019-03-28 15:19:00 | はがき随筆
 新婚の息子がヨルダンに転勤になり、不安いっぱいで見送った。そして3年。4月に任期が終了し帰ってくる。2人が4人になって、と言っても1人はまだおなかの中。秋に生れるそうだ。中東情勢は落ち着かないが、老眼も進み世の中が見えづらい市井のばあ様には、息子の無事な帰国だけが関心事。
 「よく頑張ったね。引っ越しの準備は体に障らないようにするのよ。どうしても持って帰りたいものだけ荷造りして、あとは捨てておいでよ」と能天気なばあ様になる。荷物を担いで国境を越える人々のことを思えばと、自分に言い聞かせて。
 鹿児島県出水市 清水昌子(66) 2019/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

改元の夜

2019-03-28 15:11:36 | はがき随筆
 昭和最後の夜、夜勤だった。テレビ回線の中継の仕事をしていた。中央から流れてくる番組は歌やお笑いがなくなり、シリアスなものばかりだった。激動の昭和史や銀座からの中継。ビル7階の職場から見た宮崎の市街も、ネオンが消え暗かった。
 母は大正が昭和になって3日目に生れた。私は年賀状はずっと昭和の年号を書く。今年は昭和94年である。ジョークのつもりだったが、今は母へのオマージュであり、昭和への哀惜である。母は昭和91年に逝った。
 平成最後の夜はどんな夜だろう。新元号になっても私の中の「昭和」は消えない。
 宮崎市 柏木正樹(70) 2019/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

うれしい会話

2019-03-28 15:04:09 | はがき随筆
 冷たい風の中でバスを待つ。近くに来られた笑顔のおじいちゃんから声をかけられた。「涼しかですな」。思わず笑ってしまう。「わしの懐も一緒ですたい」。そう、こんな会話が大好き。傍らの奥さんも笑っていらっしゃる。いいな、こんなご夫婦って。家でも楽しい会話がいっぱいだろうな。聞けば私の家とは反対方向らしい。しばらくしたらバスが来たので先に乗り込む。バス停の2人に「さようなら、気を付けてね」と手を振ったら、笑顔のご夫婦も手を振ってくださっている。見知らぬ方との楽しい会話。あぁ、今日はうれしかったと頬がゆるむ。
 熊本県八代市 鍬本恵子(73) 2019/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載