はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

短足スーツ

2019-03-08 21:50:12 | はがき随筆
 若者の足が長くなったとつくづく感じる。衣料品店でカジュアルスラックスを試着するとつま先が出てこない。若者向けに作られているのだろう。私は同世代の平均身長に少し届かない程度の背丈はあるのだが、昔と比べて裾上げが大変。
 最近、新聞のチラシやテレビのコマーシャルでやけに「脚長スーツ」の宣伝が目立つ。これも若者向けだろう。そろそろ春夏用のスーッと喪服の買い替えを予定しているが、はたして私に合うサイズがあるだろうか。紳士服のチェーン店は数多くある。どこか「短足スーツ」を売り出してくれないだろうか。
 熊本県嘉島町 宮本登(67) 2019/3/8 毎日新聞鹿児島版掲載

ヒカンザクラ

2019-03-08 21:24:15 | はがき随筆
 


義妹が転勤先から一本の小さな苗木を送ってきた。妻がお礼の電話をすると、ヒカンザクラの苗木で、2月の誕生日ごろには花が見れるという。早速植樹するも、5年10年しても花は咲かない。妻は「来年咲かなければ切るぞ」と木に独り言。語り続けて更に10年。この1月にヒカンザクラが咲いた。私は内心やっと咲いたか、温暖化のせいか、でも2月の妻の誕生日の祝い花かなと思った。
 漢字で「緋寒桜」と書くように、寒の厳しさの中で濃紅色を蓄えて咲く桜だ。今日から毎年見られるスカーレットの桜花。妻の独り言も今年で終わった。
 鹿児島県出水市 宮路量温(72) 2019/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載

山嵐

2019-03-08 21:16:11 | はがき随筆
 空模様がおかしい。風も出てきた。今日のウオーキングは早目に切り上げよう。スティック持つ手に力を入れ、山沿いのくねった道を行く。パラパラと葉が落ちてきた。すると、ゴーッと何かが攻めてくる。思わず立ち止まると怒涛のようにそれは迫って来た。竹林が音をたててせめぎあい、木々は大きく揺れ遠くの山々が波のようにうねっている。やがて納得したかのようにそれは私の頭上を過ぎ去って行った。静寂が戻り、道には生々しい枝と落ち葉の残骸が。
 足早に道を引き返すとかすかに空は明るくなり、木漏れ日があたこちに。
 宮崎県美郷町 甲斐久子(65) 2019/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載

生放送を見る

2019-03-08 21:07:56 | はがき随筆
 珍しく抽選に当たり、のど自慢の生放送を見に出かけた。開場1時間前、すでにスペース半分が埋まっている。いやぁ、出遅れた。昨日の寄席といい、来場者のパワーに圧倒される。世の中そんなに甘くないのだ。気合いを入れて並ぶ。
 いざ、入場開始。テレビで見る光景がもうすぐ始まると思うと緊張してきた。進行係の元気なお兄さんが慣れた口調で説明される。会場の盛り上げ方のお上手なこと。
 いよいよ本番。小田切アナの元気な声。若い男性の歌声に息子の姿を思った。胸が熱くなる。私も母親だな。鐘三つ!
 熊本県八代市 鍬本恵子(73) 2019/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載

オスプレイ飛ぶ

2019-03-08 21:00:40 | はがき随筆
 昨年12月に垂直離着陸輸送機オスプレイのデモフライト(展示飛行)があった。我が家の上空近くを飛んだ。外に飛び出し、思わず音のする方を眺めた。爆音を響かせ周回飛行して飛び去った。
 沖縄の重荷を痛み分けとして受け入れなければならないのか、相次ぐ事故に悪いイメージの航空機だ。近隣国との緊張感も増す昨今、これから頻繁に飛来するのかと思うと不安材料は増すばかり。戦後派の私たちにはどんな影響を及ぼすのか想像すらできない。予期せぬでき事の序章にならなければいいが……。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(69) 2019/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載

満天星

2019-03-08 20:46:19 | はがき随筆


 「満天星」は同級生が還暦の時に自費出版した。記念に買い本棚にある。満天星をドウダンツツジとは読めなかった。花や星に心通わせたセンチな詩集に彼の意外な面を垣間見た。
 高校までの彼は物静かだった。卒業後再会した時は高校教師となり自信に満ちていた。彼が中学の同窓会会長を務め、基盤を作り絆を深めてくれた。
 昨秋、定年後は宮崎で闘病生活をしていた彼に会いに行った。それが最後となった。
 新年になり百箇日も過ぎた。今は満天星となり都井の夜空に輝いていることだろう。心からありがとうと冥福を祈る。
 宮崎県串間市 武田ゆきえ(64) 2019/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載

若い二人

2019-03-08 20:39:02 | はがき随筆
 60代から80代までの参加が週1回、地区の公民館で「ゆたっと体操」をしている。そこに近くで整骨院を営んでいる青年が、タオルやボールを使った体操の指導をしに来てくれる。
 ある日、たまに顔を見せる彼の奥さんも来た。「元気?」「おなかの赤ちゃんは順調?」「名前は考えてるの?」おばさんたちから声をかけられる。この5月、第2子の男の子が誕生する予定。それからお産のこと、子育てのことと話が弾む。いつもは野菜作りや病気の話が多いのに。二人が来ると雰囲気がより明るくなり、若やぐ。もちろん体操も元気よくできた。
 熊本県玉名市 立石史子(65) 2019/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載

名門校の同窓会

2019-03-08 20:32:34 | はがき随筆
 あの頃は、上品な〝お受験〟という言葉はなかった。頭がよかろうが、スポーツ万能であろうが、地域の中学校に行くのが、当たり前のことだった。
 我らは還暦。同窓会があった。今も昔も立派な名門校。卒業したら、どこの学校の門に入るのか迷うから迷門(めいもん)校。なぜかこの話題で盛り上がった。(今回で最後かも)。転校してここを卒業していないが……など各々の事情を抱えながらも多くの参加があった。
 送られてきたフォトブックには、今も残る校門の写真があり名門校を卒業した元青年や乙女の笑顔が満載だった。
 宮崎市 津曲久美(60) 2019/3/6 毎日新聞鹿児島版掲載