はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

思うがままに

2019-03-25 20:15:04 | はがき随筆
 県立高校で理科の地学を担当していた私は60歳で定年退職を迎えた。心身は健全だったし、塾長の所望に応じて大学予備校に職場を変えて指導に専念してきた。
 「もう体外でやめた方がなくはないかな」と家内が忠告した。いつの間にか80歳の高齢に達していた。「そうだな」と応じて依願退職を申し出た。
 別に何もすることがない。毎日新聞を愛読していてはがき随筆に関心があったし「川魚」という題で投稿したところ早速掲載された。思うがままの文章を書いて毎月投稿しているが、これが今では私の趣味である。
 熊本市東区 竹本伸二(90) 2019/3/17 毎日新聞

長寿の源

2019-03-25 20:08:15 | はがき随筆
 午後6時過ぎ、夕食を急いで食べる夫。その後、学習指導員の仕事に出向くため。素早く通勤用ブレザーコートとズボンに着替える。特にブレザーは大変気に入り、連日制服のように着用する。他に背広やネクタイも数々あるのに出番がない。夫いわく「生徒も制服だしね」と。
 このブレザーは数年前、デパートでマネキンが着ていたから私の目に留まり「すてき」と即買った茶色の上着。これほど重宝がられ活躍するとは、想像してない。86歳の老体ながら、世間に求められ仕事ができることに感謝し、自分を磨くための努力は健康長寿の源となる。
 鹿児島県肝付町 鳥取部京子(79) 2019/3/16 毎日新聞鹿児島版掲載

書き続けること

2019-03-25 20:01:16 | はがき随筆
 宮崎には「みやざき文学賞」という文学賞がある。今年度で21回目を迎え、これまでで最多の千点以上の応募があったとのこと。その賞に私も選ばれ表彰式の案内状が届いた。この年での受賞は素直にうれしかった。
 自分の事とは別にもう一つうれしい事が重なった。私ははがき随筆の投稿者グループのお世話を清武で25年続け4年前に退会したのだが受賞者の中に当時の仲間が2人居たのである。1月28日式が終わると2人ともすぐ駆け寄ってきた。書くことを大切に育んできたからこその受賞である。老いの日々にこんな晴れやかな日があったとは。
 宮崎市 松尾順子(87) 2019/3/15 毎日新聞鹿児島版掲載

86歳突然闘病

2019-03-25 19:52:16 | はがき随筆
 目が回る、初体験。年明け早々、突然激しい震えと高熱に襲われる。家族も留守。やっとの思いで主治医と通じ、総合病院へ緊急入院。不明熱とインフルA型。インフルはすぐ治ったものの、つらい日夜を過ごす。病室の天井がぐるぐる。意識もうろう。39度強。点滴一日中、おしめの苦しみ。大汗の末に熱が下がり、やっと人心地。かゆものどを通る。大腸ポリープ切除も無事終了。16日ぶりに生還できた。86歳を意識しつつ健康に留意が油断大敵、むなしくもダウン。昼夜を問わぬ献身的な看護に感謝甚大。男性看護師増加に期待大。
 鹿児島県姶良市 宇都晃一(86) 2019/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載

一輪の椿

2019-03-25 19:40:00 | はがき随筆
 去年、グラスで愛でた椿の一輪挿し。15㌢程の細い枝に大きな花と2枚の葉っぱ。花か散るも残った2枚の葉っぱは、なお瑞々しい。生命の強さを信じて庭の花壇に小枝を挿した。「頑張れ」と声をかけながら見守った。根づいてくれて一安心。だが季節は移りゆくも小枝はいっこうに成長しない。立春が過ぎた。その朝、息をのんだ。椿の小枝に一輪の花が咲いていた。
 枝丈も2枚の葉っぱも去年のままに、花だけが小さくなって小枝に似合っている。感きわまり、かすんで見える小枝を両手で包み込んだ。「よく頑張ったね」。愛しくてたまらない。
 宮崎県延岡市 橋本京子(75) 2019/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載

連勤パン

2019-03-25 19:05:53 | はがき随筆
 目を閉じると、生れ育った三池港務所社宅の暮らしが浮かんでくる。父は3交代勤務で、時折、連続して勤務することがあった。そのときは、会社から「連勤パン」が支給された。
 父は支給された連勤パンを持ち帰って子供に食べさせてくれた。あんパン、ジャムパン、クリームパン。私はクリームパンが一番好きだった。甘いものを口にすることが少なかったあの時代、3人兄弟で食べた連勤パンのおいしかったこと。
 今はどんなぜいたくなパンも口にすることができるが、連勤パンを越えるパンはない。
 熊本市北区 岡田政雄(71) 2019/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載

落とし物

2019-03-25 18:58:54 | はがき随筆
 日曜日の無人の郵便局で、私は奈落の底へ落ちた。68万円が入ったキャッシュカードをなくしたのだ。慣れないATMをなんとか操作した後、局を出たところで紛失に気づいた。青くなってATMにもどる。無い! どうしよう。園間も4台あるATMには次々と人が行き来する。誰かに持ち去られたかもしれない。その場にいた人にやみくもに窮状を訴えた。駄目だ! 
 途方にくれた。
 と、そのとき。「これ違いますか?」。ドア付近を見る。「ありがとうございます」。何度も何度も、私は頭を下げた。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(69) 2019/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載

家族

2019-03-25 18:51:37 | はがき随筆
 同居の妹が「ヘイ、お待ち」と居酒屋ふうに手作りの料理を次々に出してくれる「熱い物は熱いうち、冷たい物は冷たいうちに食べてね」とうるさい。手を付けないと不機嫌だ。そんな妹は、明るく几帳面な性格で、友達も多い。
 難病だと診断されて9年目の自分だが、日々症状は進んで今まで出来たことがだんだん難しくなってきた。もし、一人だけの生活だったら、落ち込んで、うつになったかもしれない。しんどいけれど、友の会にも参加し、外出にも心がけている。口げんかしながらも毎日が楽しい。家族に感謝している。
 宮崎市 藤田綾子(73) 2019/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載

沖縄(ウチナー)への心

2019-03-25 17:29:26 | はがき随筆
 戦後の沖縄を描いた直木賞の「宝島」を読んだ。壮大な長編に私はたじろぐばかりだった。
 1960年代まで米軍政下の沖縄に本土の基地が次々と移転して私の心は痛んだが、やがてそれに慣れていつの間にか無関心になっていた。この作中、過酷に生きる若者たちは私より少し年下になる。同じ世代の者として引き比べながら読んだ。
 皇后陛下はそれを作曲された。折しも辺野古移転についての沖縄県民投票は移設ノーの民意が示された。私たちはむしろ本土人(ヤマトンチュウ)自体の問題として深く思いを致すべきだと思う。
 熊本市中央区 増永陽(88) 2019/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載

エンディングノート

2019-03-25 17:21:02 | はがき随筆
 私は今84歳。ここまで生きようとは思いもしなかったがありがたいことです。
先日机の整理をしていたらエンディングノートが出てきた。随分前に買ったと思うけど、まだまだと思いしまい込んでいたのだろう。最近テレビ等で終活の話題を耳にするので、書いてみようとページをめくるといろいろ書くことがあって大変!
 財産など私にはないが、今から終りまでのプロセス、希望、願い、頼みごとなど一気に書けるものではない。
 いっそこんなものを書く前にピンコロでさようならしたいと願うのみである。
 熊本市南区 馬場菊代(84) 2019/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載

もう一度見たい

2019-03-25 16:51:55 | はがき随筆
 早朝、法華院の宿を後にして5人で久住山頂を目指して歩いた。しばらくして先頭が、休憩というので道脇に腰を下ろし、アルミに深緑のカバーのついた水筒を口にした。
 積雪の静かな辺りの風景、ふと眼前のミヤマキリシマツツジの小枝が霧氷に包まれ、光るサンゴのようで美しい。折から吹いてきた風に小枝が触れ合い「サラサラ、カラカラ」ささやくようなやさしい美しい音にうっとりとした。
 60年前に登山した冬山の素晴らしかったことが脳裏にある。もう一度あの樹氷がみたい。
 鹿児島県出水市 年神貞子(82) 2019/3/13 毎日新聞鹿児島版掲載