はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「川の日」を

2019-08-15 21:09:05 | はがき随筆

 私は地元の「メダカの学校志布志分校」の会員です。某紙の投稿に「『川の日』を国民の祝日に」を見て、ひどく同感しました。国民の祝日に「海の日」「山の日」があるが、なぜ「川の日」がないのだろうという疑問が起きました。国土交通省は7月7日を「川の日」に制定していますが、この川の日をどれほどの人が知っているでしょうか。私たちは幼少の頃より「兎追いしかの山、小鮒釣りしかの川」と川は身近な存在で、恩恵も受けて来ました。ぜひ「川の日」を国民の祝日に加えて、川に対する感謝と災害に対する備えの機会にしたいものです。

 鹿児島県志布志市 一木法明(83) 2019/8/15 毎日新聞鹿児島版掲載


聖戦

2019-08-15 19:13:14 | はがき随筆

 私の少年時代、小学校3年生の頃である。

 私の兄はすでに陸軍衛生兵として兵役についていた。南方戦線で傷ついた兵士を、本国の陸軍病院に移送する病院船上の勤務であったようである。

 戦争も末期になると、赤十字マークの病院船でも、敵国の潜水艦の魚雷攻撃の的になったらしく、ぱらおの近海で撃沈されて戦死した。

 あのころ若者は国のために死ぬ命題を抱え、小学生も後継ぎ役の意識があった。「聖戦」という大義名分の名のもとに、な散り果てた若人たちの大切な命が惜しまれてならない。

 宮崎市 黒木正明(86) 2019/8/15 毎日新聞鹿児島版掲載


30代のおばさんが

2019-08-15 19:04:12 | はがき随筆

 「バシッ」

 「ナイスボール」

 休日の公園。子どもたちとひとしきり遊んだ後は、大人の時間だ。友人とマイグローブを取り出す。

 「へいへーい!」「ピッチャーしっかりー!」と30代のおばさん2人が、大きな声を出してのキャッチボールだ。遠くまで転がったボールを笑顔で追いかける。

 一汗かいた翌日の筋肉痛は、ちょっとやっかいだが、この疲労感がたまらない。友人とのキャッチボールでストレスを解消している。

  日曜日よ、早く来い。

 熊本市西区 上村咲姫(34) 2019/8/15 毎日新聞鹿児島版掲載 


命のローソク

2019-08-15 18:05:47 | はがき随筆

 この2か月余りに母の病状が急変し、いよいよ終末期の段階かと覚悟する。残る日々を悔いのないよう毎週、乗り物を乗り継ぎ通う。食の進まぬ母にスプーンでひとさじずつ口に運ぶ。口直しのゼリーを少しは食べてくれる。赤ん坊の頃、私もそうされて育ったんだと、今更ながら逆の立場の母と自分を重ねてみた。体力があればこその介護。倒れでもしたら元も子もない。老老介護の現実は厳しいものがある。いつまでという期限はなく、ただ精いっぱい母との残り少ない時間を過ごし、今にも消え入りそうな命の炎を吹き消さぬよう見守りたい。

 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(69) 2019/8/15 毎日新聞鹿児島版掲載


不思議な涙

2019-08-15 17:39:14 | はがき随筆

 久しぶりに電話が「姉ちゃん何しよる」「歌の練習。今月の歌きいてくれる」。ところがなぜか涙が出て歌えない。「もう朝から姉ちゃんに泣かされたわ」。二人で泣いた。思えば子どもの頃、商いから帰らぬ母を待って父さん星を探したものだ。

 妹が泣き出すと「泣くな! 泣くな」と言っていた兄も泣き出して、兄妹4人抱き合って泣いた。雨が降ると、塩売りに出ない母は、炭俵を編むので雨の日は好きだった。父は戦死、母は96歳で父の元へ。妹と泣いたのは母を見送ったあの日以来だ。

 それにしても、今朝の涙は、何だったのだろうか?

 日向市 津江保美(80) 2019/8/15 毎日新聞鹿児島版掲載


うどんが食べたい

2019-08-15 17:30:25 | はがき随筆

 日に日に体重は減り、薬も増えていく祖母が「うどんが食べたい」と言う。入院して3カ月がたったある日のことだった。

 元気な時、いとこたちも交えていきつけのうどん屋さんへよく行った。あのなごやかな楽しい情景が祖母の心の中にあるのではないか。何とか食べさせてあげたい。

 しかし、状態が悪化していく祖母に許可が出ることはなく、願いをかなえさせることができなかった。

 悔いが残るまま旅立った祖母に私は実家へ帰るたび仏前で手を合わせ、日々いかされていることに感謝の意を伝えている。

 熊本市中央区 上田利恵(28) 2019/8/15 毎日新聞鹿児島版掲載


運転免許証更新

2019-08-15 11:03:35 | はがき随筆

 

 お山のご機嫌が悪く近づけない霧島にどうしても行きたくなった。夫婦の共通の趣味は山歩き。高齢者の事故多発に、更新したばかりでためらったが気持ちを優先した。巣立った子どもたちの「気をつけて」を背に2時間半で高千穂河原に着いた。

 梅雨晴れの鹿が原へノリウツギの白い花と香りが道案内。高千穂を仰ぎ遅咲きのツツジと握手し可愛いカッコウやウグイスの声と緑の風の中を散策する。

 山は魔法のように心身の凝りを解きほぐし元気にしてくれる不思議な所。山歩きは生きがいの一つ、思いがかなった。

 運転できるっておりがたい。

 鹿児島県薩摩川内市 田中由利子(78) 2019/8/15 毎日新聞鹿児島版掲載


心残りの記事

2019-08-15 10:54:36 | はがき随筆

 20代の時、実家の棚にある包みを開けると、中から戦時中の大阪毎日新聞が出てきた。

 一面に通信記者だった父の署名記事が載っている。読んでみるが難解な文にてごずり棚に戻した。父に聞けば教えてくれたのに、当時の私はさほど関心がなかった。父はその後他界した。

 父は生前「軍に不都合な事を書いたので銃殺刑になるとこだった」と語った。あの記事と関連があるのかと数年前に従弟に話すと読みたいと言う。新聞記者の彼だったら解明できると期待。が、実家に聞くと新聞は不明と言う。知りたい気持ちは、時すでに遅しとなった。残念。

 宮崎県延岡市 源島啓子(71) 2019/8/14 毎日新聞鹿児島版掲載