はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

鰤王(ぶりおう)

2020-03-05 20:11:34 | はがき随筆
 叔父が昔、出世魚で縁起の良いブリの養殖業を営んでいた。ワカシ、イナダ、ワラサ、ブリ……と、成長する中で名称が変わる不思議な魚。餌のイワシの子は種子島、屋久島の近海へ捕りにいく。日々餌をやり、台風や赤潮のときは漁師が四六時中見守る。ゴムの合羽、長靴の装いで勇ましい海の男衆。漁師の叔父は手際良くブリをさばいた。まな板に乗らないほどの立派な出世魚は刺し身が一番。一切れ一切れ丁寧に包丁を入れた。目玉はレンズのように大きい。魚の王様と思って神々しくあがめた。壮大な桜島、自然と海の幸に恵まれた。感謝。
 鹿児島県姶良市 堀美代子(75) 2020/3/15 毎日新聞鹿児島版掲載

節分のお昼ごはん

2020-03-05 20:05:07 | はがき随筆
 母は90代。圧迫骨折で病院に入院中だが、先生や皆様のおかげで順調に回復しつつある。
 夕方、洗濯物を持っていくと母が「今日は節分でのり巻きと茶わん蒸しとうどんで全部食べたよ」と。いつも小食の母なので、スタッフの方がびっくりされたとのこと。
 母の人生は悲しみと痛みが多かった。今日の昼食をとてもおいしく頂いたとの話が、とてもうれしく、その喜びはずっと私の胸を満たした。
 本当に良かったね、お母さん。
 宮崎県西都市 福島律子(67) 2020/3/15 毎日新聞鹿児島版掲載

火山灰(ヨナ)の日々

2020-03-05 19:54:52 | はがき随筆
 冬のただ中、今年は山の根まで雪が積もるのがまだ一度きり。かわって火山灰の雲は毎日重く覆いかぶっている。裏阿蘇も表阿蘇も(北南どちらが表か裏か知らないが)風向きでは一喜一憂。はなはだしい迷惑に、お互いついあっちの方にいけと考える。が……自然はお構いなし(だから互いに如何しようもなく諦められるのだが)今日は我が家の真上に噴煙の帯。通る車でヨナが舞い上がり一帯は薄い灰煙害。幸い休みで外出しない。明日は雨だ、良かった。それで少しは流される。できれば多く降って(滅多になく)雨を願う。これも慈雨だなぁ……?
 熊本県阿蘇市 北窓和代(65) 2020/3/15 毎日新聞鹿児島版掲載

一期一会

2020-03-05 19:35:30 | はがき随筆
 出水駅近くの畑で草刈りの準備中、異国の夫婦らしき人が畑の石に座り込んだ。草刈りの邪魔である。苦手な英語の単語と手振りで説明する。話が通じたと思ったが、夫婦は近付いて来た。私は身構えた。
 夫婦は観光マップを出して麓武家屋敷群を指さした。ここから遠い旨を単語と手振りで熱演した。夫婦の落胆が気になり、遠路からの出水観光の縁だと思い私の車に乗るように促すと、喜んで乗り込んで来た。案内を終えたとき、名前と台湾の大学教授、「謝謝」とのメモ書きを渡された。握手した手に喜びの感触が伝わってきた。
 鹿児島県出水市 宮路量温(73) 2020/3/15 毎日新聞鹿児島版掲載


イリュージョン

2020-03-05 19:22:15 | はがき随筆
 イリュージョンを見に行った。スモッグが漂う舞台にミュージックオン。テレビでもよく見るマジックにたちまち引き込まれていく。
 そのうちに老夫婦が舞台に呼ばれた。奥様に「行ってみたいところは」と聞く。「シンガポール」。ご主人に「今食べたいものは」「油みそ」。皆の笑いを誘う。「ホテルは何階に」「予算は」等々、あちこちの客席から旅行をしている気分で回答をもらう。一通り聞き終わると、最初に鍵をかけて横に置いた宝箱を開ける。すると回答に全てが書かれた紙が出てきた。いつの間に? 何で? 不思議。
 宮崎市 高木真弓(65) 2020/3/15 毎日新聞鹿児島版掲載

たくさんのありがとう

2020-03-05 19:15:04 | はがき随筆
 「割れたおせんべいだけど」と近所の方が大きい箱のまま持ってきてくださった。割れたのは数えるほどで、できたてのパリパリとしたお醤油の風味が香るとってもおいしいおせんべい。田舎からの頂きものというピッカピカのはっさくがどっさり。ふっくらと炊けたお豆の入った手作りのきんとん。大好きなおいしいもののおすそ分けが一度に届いた。すごーい。
 5月には88歳。恥多いだけの人生最後の折り返し点の先に広がる景色は、不安だけれど明るい色を重ねたい。
 太陽よ、こっちも向いててくださいね。
 熊本市東区 黒田あや子(87) 2020/3/15 毎日新聞鹿児島版掲載

「だろう」と「思う」

2020-03-05 19:03:39 | はがき随筆
 6歳の孫娘が宿題を解くのを見ていた。「あれはキリンだ」の推定表現「あれはキリンだろう」という例題があり、「おみやげはミカンだ」に続いて「お土産はミカン□□□」の□を埋めなさいという設問。
 書き込んだのはなんと「ミカンと思う」。「ほうおじいちゃんは〇をあげるけど、テストを出した人は『ミカンだろう』に〇を付けるだろうね」。不思議そうに消しゴムを使い、「だろう」と書き換えた。幼児期の教育は画一的な答えより自由な発想こそ大切にすべきだろうと思うが、機械的な採点なら当然✖にされるケースだな。
 熊本市東区 中村弘之(83) 2020/3/5 毎日新聞鹿児島版掲載