はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ニワトイ(鶏)

2020-03-24 13:46:36 | はがき随筆
 ふだんから大切な卵、めったに口にすることはできなかった。風邪で寝込んだとき「冬の卵はよくキッ(効く)どお~」と母ちゃんが生卵を飲ませ、本当に一晩で治ったことがあった。我が家では高い縁の下に鳥小屋があって鶏を飼っていた。卵を取りにゆくのはぼくの仕事だったが、昼間はほとんど放し飼いだった。夕暮れになると「トイトイトイ、トイトイトイ」と呼ぶと不思議と小屋に戻ってきた。そして静かな山里に「コケコッコー」と一番鶏が夜明けを知らせてくれていたが、この目覚まし時計も消えてしまった。
 鹿児島県南さつま市 小向井一成(71) 2020/3/23 毎日新聞鹿児島版掲載

同級生の誉れ

2020-03-24 13:40:00 | はがき随筆
 友人から短い動画と共にメールが来た。国会のワンシーン。
 「これ、〇〇君じゃない?」
 与党側の答弁に立った一人の官僚。同じクラスになったことがない私は卒業アルバムを引っ張り出して、丸顔の少年の姿を見つけた。運動部で難関大に現役合格、在学中に国家試験に通った秀才なのだという。目元に面影はあるが、頬がこけ、やつれて見えるのは本意ではないことを言わされているせいか。
 「同級生の誉になんということをさせてくれるの」。友人のメールには怒りを表す赤い顔の絵文字が添えられていた。私も小さくため息をついた。
 熊本市中央区 岩木康子(53) 2020/3/24 毎日新聞鹿児島版掲載

旅立つ綿毛たちへ

2020-03-24 13:31:43 | はがき随筆
 この春閉校する、とある村の小学校。最後となる行事には他区住人や卒業生まで呼び、名残惜しくも大いに賑わったそうだ。
 皆を未来へ送り出してきた学び舎がその役目を終える。朝霧立ちこめる通学路、子供姿の「飛び出し注意」の看板が寂しげに見えた。歩みを止めぬ川の流れは、無関心さ故か。それとも、空が悲しみから零した涙か。時代の流れを帯びた風は、意図せぬ方へ吹くばかり。
 新天地へと旅立つ、たんぽぽの綿毛のような子供たち。どこへ行こうと根を張って、また花を咲かせと欲しいと願う。
 宮崎県日向市 梅田浩之(27) 2020/3/22 毎日新聞鹿児島版掲載