ふだんから大切な卵、めったに口にすることはできなかった。風邪で寝込んだとき「冬の卵はよくキッ(効く)どお~」と母ちゃんが生卵を飲ませ、本当に一晩で治ったことがあった。我が家では高い縁の下に鳥小屋があって鶏を飼っていた。卵を取りにゆくのはぼくの仕事だったが、昼間はほとんど放し飼いだった。夕暮れになると「トイトイトイ、トイトイトイ」と呼ぶと不思議と小屋に戻ってきた。そして静かな山里に「コケコッコー」と一番鶏が夜明けを知らせてくれていたが、この目覚まし時計も消えてしまった。
鹿児島県南さつま市 小向井一成(71) 2020/3/23 毎日新聞鹿児島版掲載