はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

グランプリ賞に若宮さん

2020-03-21 19:54:54 | はがき随筆
昨年掲載のはがき随筆

毎日ペンクラブ鹿児島の会員投票
グランプリ賞に若宮さん

 「毎日ペンクラブ鹿児島」は、昨年1年間に掲載された会員のはがき随筆作品を対象にした、ランプリ賞に若宮庸成さん(80)=鹿児島県志布志市の「川の流れのように」を選んだ。




お題ちょうだい

2020-03-21 17:47:08 | はがき随筆
 子供の頃同義語を綴る言葉遊びがあった。これはその一つ。
 いにしえの昔 武士の侍が 山の山中で 馬から落ちて落馬して 顔を真っ赤に赤面して 腹搔き切って 切腹した
 ところで先ごろ我らが総理の迷、いや名答弁「募りましたが募集はしていません」
 同義語を使って否定する荒技座布団2枚。折角お題を頂いたから私ももじりを考えた。「食べましたが食事はしてません」今イチ「隠したけれど隠蔽ではありません」あ、これはもう既に出回っているらしい。ふざけてるご時世じゃあないが。ではお後がよろしいようで……。
 熊本市中央区 増永陽(89) 2020/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

ワンコイン

2020-03-21 17:39:17 | はがき随筆
 グラウンドゴルフ球友のN氏の手のひらにピカピカのミニコイン。いわく「ま新しい一セントコインが神社のさい銭箱に入っていた」と。彼は地域の愛宕神社の保存会長さん。今年は何かいいことありそうとにこやか。
 令和の初日の出に多くの歓声。遠くに高千穂がそびえる。境内ではお神酒、焼酎、ぜんざいが振る舞われる。人々の暮らしや考え方が多様化されてきているが、心の安らぎやよりどころは変わらない。古里の鎮守の森はいつまでもそこにあってほしい。氏子制から保存会へと組織は変わっても、N氏方々の奉仕と温かい努力に感謝と期待。
 鹿児島県姶良市 宇都晃一(87) 2020/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載

祭りの朝

2020-03-21 17:30:58 | はがき随筆
 昨夜春の嵐のような風が吹いた。案の定、早朝の祭り会場の五ヶ瀬川堤防に林立して建てた風車の羽根がたくさん飛んでいた。拾い集めて付け直していると犬の散歩中の母子連れが通り掛かり、小学5.6年位の男の子が僕もやりたいと言っているのが聞こえる。
 「この子にも手伝わせてもらえませんか。こんなことが好きなんですよ」と母親。怪我をしないように付け方を教えると喜んで付けた。終わると「楽しかった」「よかったね。良い思い出になったね」と言いながら帰って行った。おばちゃんもいい一日の始まりになったよ。
 宮崎県延岡市 露木恵美子(68) 2020/3/19 毎日新聞鹿児島版掲載

島の人は温かい

2020-03-21 17:24:39 | はがき随筆
 種子島に移住して24年目になるのだが、不器用な私はいまだに種子島弁がしゃべれない。そのためよそ者の域から抜けきれないでいた。そんな折、体操教室のメンバーから誘いを受け、参加することにした。月1回の茶飲み会で、身の上話、養子縁組したことなどを説明したら、ほとんどの方が生前の義母を知っており急に打ち解けた。その中の一人に「私も武田です」という女性がいたので「ことによったらケナーかも」といったら「ケナーという言葉を知っているの?」とにっこり。周囲の人も口々に歓迎してくれ、改めて島の人の心の温かさに触れた。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(83) 2020/3/18 毎日新聞鹿児島版掲載

釣り客と早春

2020-03-21 17:14:49 | はがき随筆
 早朝、店を訪れた男性4人「ヤマメの年券をくれ」と言う。住所、氏名の聞き書きは不得手。耳も遠い。客に本券を書いてもらい控えを私が書く。北九州市の人たちで懐かしい。少し男っぽくさっぱりしている。一陣の風のように去った後、少し余韻に任せ亡き父や兄を思った。
 店の前に今ごろ咲く黄色の大きい水仙が咲き誇っている。
 冬の寒さの後小さなタンポポが芽を出し、春を待っている。かそけきものの気配にきづかずごめんなさいね。しばし目を閉じ、耳を澄ませば小さきものたちの、声なき声がほのかに聞こえてくるよう。
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(93) 2020/3/18 毎日新聞鹿児島版掲載

腎臓病予備軍

2020-03-21 17:06:16 | はがき随筆
 2か月おきに内科医の検診を受けている。従来は異常なしだったが、1月の時には主治医が臨床検査報告書を手にして「腎臓が悪くなっていますよ。たんぱく質と塩分を控えてください」と注意した。
 えっ? まさか、と思いながら「糖尿病ですか」ときくと「予備軍です」と応じられた。人工透析をしなければならなくなったら大変だ。主治医は腎臓病の方のための食事Q&Aと書いたパンフレットをくれた。
 制限に注意して食事をしなければならないとは大変だ。でも健康体になるために、努めて実行しようと思う。
 熊本市東区 竹本伸二(91) 2020/3/18 毎日新聞鹿児島版掲載

ホトケノザ

2020-03-21 16:45:59 | はがき随筆


 裏道を通ると、田の畔辺りから一面に赤紫の花。鮮やかな美しさに足を止めた。一茎折って持ち帰った。上部の葉の形が仏の座る蓮華状なので「ホトケノザ」と名が付く。老眼には繊細な花が確かめられず虫眼鏡で見た。形と色合いの美しさに感嘆の声を上げた。花は唇形花、花冠には細長い筒があり、下唇は3裂し、白い面に紫の縁取り、中心に赤紫の点、なんと繊細な模様、自然の造形に驚くばかり。春の七草と同じ命名だが、はれはコオニタビラコのことだと本にあった。暖冬で早く咲いた野の花にひかれた。
 鹿児島県出水市 年神貞子(83) 2020/3/18 毎日新聞鹿児島版掲載

インフルエンザと予防

2020-03-21 16:37:53 | はがき随筆
 宮崎に住む長女から「ごめん、娘がインフルエンザにかかった」と電話がきた。
 前日に遊びに行ったばかりだったので、つい「えっ」と声が出た。一緒に遊びに行った次女は「今まで注射を受けてなくてもかかったことないし、体力には自信があるから大丈夫だが」と自慢げに言っていた。内心「本当に?」と疑っていた。
 案の定、翌々日には孫と次女は、40度の熱を出しダウンした。夫と私も咳と喉の痛みが出て体温計とにらめっこ。嗽、手洗い、アルコール消毒、マスクと徹底した。功を奏してかからず、予防の大切さを実感した。
 宮崎県串間市 林和江(63) 2020/3/18 毎日新聞鹿児島版掲載

男の子

2020-03-21 16:30:43 | はがき随筆
 「おはよう」。黄色い帽子の男の子に声をかける。一人で登校中だ。「近くにお友達がいるといいね」。色白のあどけない顔が少しだけ変化したように見えた。「犬は怖くない?」。うなずく。私はちょっと安心。今時の子供は用心深く、見知らぬ人から話かけられても知らぬふりが多いと思っていたので、うれしい。しばらく歩調を合わせる。速い時間なので登校中の子供は見えない。寒い朝、半ズボンってさすが強いな。
 「私たちその先で曲がって帰るね、気をつけて行っておいで」。男の子がうなずいたような。
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2020/3/18 毎日新聞鹿児島版掲載


調理定年

2020-03-21 16:23:53 | はがき随筆
 数年前から、好きだったはずの料理がおいしくできなくなった。つい、息子の「ごはんだよー」の声に甘えてテーブルにつく。
 悪くはないが料理は長年の楽しみだっただけに、守備範囲を侵されそうでさみしい気持ちになる。
 そんな時、おかずの小冊子が目に止まった。「手羽の親子煮」。10分間でできる。材料はトリの手羽と卵、ウスターソースで煮込む。同時進行で洗い物も終わる。食いしん坊の息子はニンマリ。「あした弁当のおかずに」と。新しい楽しみができた。
 熊本市中央区 木村恵子(89) 2020/3/18 毎日新聞鹿児島版掲載

虫つき野菜

2020-03-21 16:15:52 | はがき随筆


 夫が畑からとってきたキャベツに虫食いの穴。葉をはいだらなめくじが2匹。勢いよく水をかけ、排水溝に流して熱湯をかけた。とってきたまま置いておくと虫が壁を伝ったり器にくっついたりして気色が悪い。「無農薬野菜を食べる虫は元気が良い。何も汚くない」。平然としている夫に腹が立ち「虫のついた野菜はもういらない」とわめいて度々けんかをした。
 畑作りを楽しんできた夫も肩を痛めてから体を動かすのがおっくうになった様子。畑に行く回数も時間も少なくなった。虫つき野菜がとれないと、けんかの種が一つ減る。
 鹿児島市 馬渡浩子(72) 2020/3/17 毎日新聞鹿児島版掲載

検査の結果は

2020-03-21 16:09:11 | はがき随筆
 75歳の誕生日の前に、運転免許の更新と、認知症検査の通知が届いた。検査の必要はないとはがきは無視する。しかし、免許更新には認知症検査が必要とのことだ。
 当日、検査を受ける人は3人。少し緊張気味で待っていると、教官がボードを取りだす。そこに描いてある16枚の絵を指し、復唱させる。終わって解答用紙に絵の名前を書き込む。
 さっき見た絵なのに、ペンがもう止まる。口の中から言葉が出てこない。75点以下は後日受け直すと聞いていたが、それだけは避けたい。教官が見せた結果は及第点だった。
 宮崎県延岡市 川並ハツ子(75) 2020/3/15 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆2月度

2020-03-21 15:34:08 | はがき随筆
月間賞に岡田さん(熊本)
佳作は中村さん(宮崎)、宇都さん(鹿児島)、増永さん(熊本)

 「はがき随筆」の2月度受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
 【月間賞】3日「草取り」岡田政雄=熊本市北区
 【佳作】20日「東京一泊4000円」中村薫=宮崎市
   ▽12日「閑話休題」宇都晃一=鹿児島県姶良市
   ▽13日「侍」増永陽=熊本市中央区

 「草取り」は、短い文章の中になんともいえない雰囲気が漂っていて、読後の印象はさわやかな気分になりました。「時は春、日は朝、朝は七時」で始まり「全て世は事もなし」で終わる、ブラウニングの詩に漂っている雰囲気を感じました。静謐という言葉がありますが、私たちの生活している騒々しくて猥雑な日常に、こういう静かで落ち着いた瞬間を持ちたいものです。
 「東京一泊4000円」は、東京のホテルのフロントで、カードを忘れて困っている青年に、支配人の示した好意に安堵したという内容です。その場に行き合わせて、助力しようかと逡巡する筆者の心理もよく表れています。安堵と共に、支配人の粋なはからいに、同じ年ごろの子を持つ筆者が親心を感じたという心理がうまく描かれています。
 「閑話休題」は、理容院での床屋さんとの何気ない会話ですが、後頭部にわずかに残っている白髪の様子で、人生を語ったところに感心しました。それを「波瀾万丈米粒みたいな人生の歴史」と、斜めに構えて言いきったところは、長年を生きた人の、大きくいえば、悟りでしょうか。気持ちのいい文章です。
 「侍」は、スポーツナショナリズムに対する批判の意見発表です。何もかにも「侍」をつけて美化するのは、一考した方がよい。侍がいかに窮屈なものであるかは、新渡戸稲造の著を読めば分かる。東京五輪も国家から離れてスポーツ自体を楽しめばよい。このように、世間とくに政府の行き過ぎた風潮に異議を申し立てできるのも、文章の力です。
 この他に、展覧会場から好きな絵を持ち帰って自宅で楽しむことを空想するという、自分なりの絵画鑑賞法を示す佐藤恵美子さんの「美術展」、再任用で小学2年生を担任し、トマトを育てた喜びが内容の白坂昭典さんの「ミニトマト」、絵手紙教室の画材に提供した蕗のとうを、娘婿にてんぷらにしてあげると持ち帰られたことへの嬉しさを表した岩本俊子さんの「いい話」を、楽しく読ませていただきました。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦 2020/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載




雨の熊本城マラソン

2020-03-21 15:12:21 | はがき随筆


 今年も娘一家が長男のマラソン出場を応援にと神奈川県から親子4人で帰ってきた。雨の予報で心配だが、本人の希望で雑煮に野菜をいっぱい入れて前夜から用意する。
 開会時間になっても雨はやんではくれない。老いた私は我が家でテレビを前に「頑張って」と祈るばかり。2時過ぎ頃、親子4人、雨に濡れた服、靴で帰ってきた。「完走できたよ。思った時間内で……」と本人は満足そうだった。お勤めがあるので、空の最終便で帰る。足の痛みは残っているようだ。「ばあちゃん。来年も元気でいてね!」の言葉にほろりと涙が出た。
 熊本市中央区 川口紋子(92) 2002/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載