はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

プレゼント

2020-03-21 15:05:23 | はがき随筆
 デパートの各階で値引きの赤札が目に付く。娘の腕につかまり、横目で見ながら通り過ぎる。途中で椅子に掛けた。そこは3階のバッグ売り場。
 ぼんやり眺めていると、赤系だが深みのあるバッグに吸い寄せられる。手を伸ばし、思わず鏡の前に立っている。「ちょっと派手かな」。好みで買ってもと迷っていた。
 「ワンポイントですてきよ」。娘の助言で冒険してみようと決めた。「プレゼントするわ」と、娘はさっとカードを出す。「えっ」と思い切り感激。足取り軽く、帰りに食べたぜんざいの一段とおいしかったこと。
 鹿児島市 竹之内美知子(86) 2020/3/13 毎日新聞鹿児島版掲載

笠沙宮

2020-03-21 14:43:51 | はがき随筆

 野間岳に登るための登山口は舟ケ﨑という地名であり、そこまで車を走らす。笠沙の街は山々に囲まれ、海が取り囲んでおり、暮らしはどうしているんだろうと思料する。「杜氏の里」があり、なるほど町の人々が各地の杜氏になる地理環境があると理解する。宮ノ山登山口は笠沙宮跡といわれている。樹林の中、ドルメン式墳墓、ニニギノミコトゆかりと伝えられる史跡があり、古代人が生活できる山の幸、海の幸が捕れたのではと思う。それから約1時間半で山頂に立ったが、山頂からの絶景より、この山行はなぜか笠沙宮跡が印象深いと感じた。
 鹿児島市 下内幸一(70) 2020/3/12 毎日新聞鹿児島版掲載

じゃまたね!

2020-03-21 14:36:09 | はがき随筆
 通りに面した広場に石のベンチがある。誰でもが気楽に休めるスペースをあけて、端に一人の女性が頬に手を当て腰掛けている。いつも独りボッチで寂しそうだ。美人だが少し憂いの表情は、ちょっと気になるね。私は通る度に、声をかけがてらに一休みする。座像の彼女は何も話さない。 
 毎回別れ際に、せっかくだから2ショットを撮る。「じゃまたね!」と別れるのだが。会う回数を重ねているうちに、いつの間にか情が移った。
 もう「知らん顔」しては通り過ぎができなくなった。たまった2ショットがたのしみだよ! 
 宮崎市 貞原信義(81) 2020/3/12 毎日新聞鹿児島版掲載

共に白髪の・・・

2020-03-21 14:10:40 | はがき随筆
 昨年の今ごろだった、30代から欠かしたことのない毎月のヘアカラーをやめようと決めたのは。長年染め続けていた栗色が完全に白髪に替わるのに半年以上を要した。その間、帽子をかぶったり、時にはウイッグを使用したりして時をやり過ごした。
 1年たった今では毎朝、鏡に映る真っ白な髪に馴染み、軽やかささえ感じている。これまで無頓着だった髪形をチョット変えてみたり、明るい色合いの服を選んだりと少しお洒落に気を配るようにもなっただろうか。
 夫と二人、正真正銘、共に白髪の生えるまでとなった。お父さん、末永く、ヨロシク。
 熊本県菊池郡菊陽町 有村貴代子(73) 毎日新聞鹿児島版掲載

縁側で

2020-03-21 11:45:25 | はがき随筆


 暖冬が報じられる中、立春の音を聞いた途端に寒波が。慌ててしまい込んでいた綿入れ半纏を出す。エプロンの上にはおるとなんとも心地よい。
 一年中縁側に置いてある籐椅子に薄手の布団を敷き、日なたぼっこを決め込む。新聞を読みながら硝子戸越しのバードウオッチングも楽しい。センリョウやナンテンの実はとっくに食べ尽くされた庭。今イソツゲの実にメジロやヒヨドリなど、野鳥たちが代わる代わるやって来ては飛び立つ。メジロがツバキの花を吸う姿も可愛らしく、つい見とれてしまう。こんな気負いのない日もよいものです。
 鹿児島県鹿屋市 門倉キヨ子(83) 2020/3/12 毎日新聞鹿児島版掲載

漢字騒動

2020-03-21 11:38:45 | はがき随筆
 孫が塾で進級したと電話をしてきたので、頑張りの褒美にと、キンカン「たまたま」を送ってやる事にした。
 ところが、添え書きの段になってはたと困った。「塾」と「褒」の字が書けない。辞書の字も小さくて読めず、仕方なくパソコンで調べた。それも拡大文字で確認する始末。
 日ごろ、文章はパソコンで書いているので漢字も読める程度で間に合うし、しかも輪郭で納得する癖がついているので漢字を正しく書けない事も多い。
 結局、今回の添え書きも温かみ装う手書きは諦め、パソコンの事務的文章となった。
 宮崎市 日高達男(78) 2020/3/12 毎日新聞鹿児島版掲載

突然の事故

2020-03-21 11:28:28 | はがき随筆
  日曜日の夜、9時半過ぎ、妻は2階へ階段を上った。その瞬間、大きな音と妻の悲鳴が聞こえた。急いで現場に行くと妻がそこに気を失って倒れていた。階段の途中から転倒したのだ。
 次女の娘がいたので、大変なことが起こったと、とっさに救急車を呼び、救急病院に行くことができた。TCやМRIの検査の結果、血管と骨には異常はなかったが、大きなコブと外傷性クモ膜下出血を呈していた。
 大事には至らなかったが我が家に起こった激震であった。子供や孫たちに心配をかけたが新しいつながりも感じた。リハビリで早く良くなることを祈る。
 熊本県大津市 小堀徳廣(71) 2020/3/12 毎日新聞鹿児島版掲載 





悪い時期

2020-03-21 11:20:52 | はがき随筆
 「そんな場合じゃないだうろ」。私は言った。ほとんど毎年、娘の住む横浜に妻に居ない寂しさから訪れ時を費やす。
 行っても一人で名の知れた美術館を見て回るくらいなのだ。
 今日は久しぶりに孫の事やで娘と長電話に花が咲いた。
 心底行って気を晴らしたい衝動を抑えて会話している自分を覚える。しかしコロナウイルスが頭の中を渦巻いているのも引けを取らない。
 先が見えない感染拡大、感染ルートまでも見えなくなっているし、ましてや自分は高齢者。
 これ程割り切れない心情と娘の誘いに怒鳴った事はない。
 宮崎県延岡市 前田隆男(82) 2020/3/12 毎日新聞鹿児島版掲載