はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

され上手

2021-07-10 05:23:30 | はがき随筆
 「介護され上手」という言葉を知った。
 ラスト10年問題の勉強会に参加した。人はいつか旅立つ。その前に人さまのお世話になる。女で12年、男で8年がその平均という。
 介護現場のきびしいことは聞いていたが、その生の声を知るとグッと下腹に力が入る。特に心が折れるのは「イヤミ、コゴト、オゴリゴト」を言われる時。反対に仕事に自信と誇りを持つのは「ありがとう」の言葉と「笑顔」という。介護され上手な人はお互いに幸せなのだ。
 ありがとう、といつでも言えるよう今から早速練習練習。
 宮崎県延岡市 太田充(67) 2021/7/3 毎日新聞鹿児島版掲載

私と娘

2021-07-10 05:12:25 | はがき随筆
 「あー、やっぱりお家でお留守番しとけばよかったぁ」と言う5歳の娘。口が達者で怒らせると後が大変なのでなだめつつ歩く。「もう、疲れたあ。足が痛あい」。先ほどまで元気にクレーンゲームで遊んでいたのに自分に関係がないとすぐに疲れたと言う。「ばあばに頼まれていた物があったよ」と言うと「どこ!」と急に元気になり「これは私がばあばに渡すの」と良いとこ取り。私も母にこんなことを言ってたような気がしてきた。この子もいつか子どもができたら同じ思いをするのかな? とまだまだ先の未来が楽しみに思えた。
 熊本市中央区 大藪小春(27) 2021.7/3 毎日新聞鹿児島版掲載

ちいさな冒険

2021-07-10 05:03:43 | はがき随筆
 昔、農家では農耕用に牛や馬を飼っていた。小学生の頃、上級生の彦ちゃんの家によく牛を見に行った。彼の家は平地からおよそ100㍍、勾配は30度の坂の上にある。ここから牛を使って遊べたら面白そうだ。牛を連れだせないかと彼に相談する。困った顔をしていたが、家人が畑にいる間なら怒られないので、よいと言ってくれた。
 いよいよ実行の日。2人は木のソリにしがみついて、牛を先頭に一気に坂を駆け下りた。我ながら無茶なことをしたが、幸いに誰にも目撃されなかった。無理を聞いてくれた彦ちゃんは数年前になくなった。
 鹿児島市 田中健一郎(83) 2021/7/3 毎日新聞鹿児島版掲載

小さな家

2021-07-10 04:56:28 | はがき随筆
 庭先に、昔伯母のために父が建てた小さな家がある。伯母は目が不自由で小さな犬と寄り添って暮らしていた。大学在学中帰省したお盆に、伯母は父にみとられながら息を引き取った。
 父は定年後、ここを書斎とし、私の学生時代の机に向かい、日々書道に励んでいた。
 父の死後、ここは物置となった。最近、獣が入り込み、床も抜けて痛みがひどいので、中を片付けた。先に逝った父母や弟の思い出の品に手が止まる。名残の一部を残し、後は廃棄した。
 小さな家は解体すれば、そこの記憶と共に自然にかえり、やがて庭木に埋もれるだろう。
 宮崎県串間市 岩下龍吉(69) 2021/7/3 毎日新聞鹿児島版掲載

見つからん

2021-07-10 04:49:46 | はがき随筆
  外出の準備をしていると、バスカードが見つからない。ひも付きのケースに入れて、いつもリビングの壁に掛けているのに、それがない。
 他にもこんなことが。車に乗って、ETCカードを出そうと財布のポケットを見ると、入っていない。カメラのメモリーカードが行方不明になって出てこない。
 バスや列車から降りる時、チケットがどこかに紛れ込んで見つからない。先日などは、店のレジに財布を忘れた。
 今後も「見つからん」が続きそうである。でも、今のところ気にしないことにしている。
 熊本市北区岡田政雄(73) 2021/7/3 毎日新聞鹿児島版掲載

モドキ

2021-07-10 04:42:11 | はがき随筆
 「ジャガイモの葉が穴だらけ。そばにテントウムシがいたのに」。「あ、それ、テントウムシモドキ、害虫ですよ」。無農薬栽培農家の夫婦が教えてくれた。
 帰宅して昆虫図鑑を開くとテントウムシの仲間として載っていた。ナス、ジャガイモの害虫とある。夫の小さな畑で育っているのはナス、トマト、ジャガイモ。どれもナス科だ。
 益虫とばかり思っていたテントウムシモドキ。害虫と知った今、見る目は変わった。
 今朝畑にトマトを採りに行ってモドキ発見。いるわ、いるわ。すばやく押し潰していった。
 これ以上畑を荒らさんで!
 宮崎県高鍋町 井手口あけみ(72) 2021/7/3 毎日新聞鹿児島版掲載

友へ

2021-07-10 04:33:02 | はがき随筆
 久しぶりに女学校の旧友Nさんに会ったら突然「沖縄からの転校生だったOさんを覚えてる? 彼女は当時私たちの態度をあまり良くは思っていなかったもんね」と言った。卒業してから何十年もたって初めて聞く話に「え、どうして?」と私は驚いた。「親御さんはやがて沖縄が戦争になるからせめて下の娘だけでもと疎開させなさったのに、私たち、彼女の気持ちを全然理解してなかった。終戦で卒業せずに沖縄に帰られたけど、お姉さんはひめゆりだったもんね」。6月23日は沖縄慰霊の日、彼女は存命だろうか。「ごめんね」と心で詫びた。
 熊本市中央区 増永陽(90) 2021/7/2 毎日新聞鹿児島版掲載

スーパームーン

2021-07-10 04:26:04 | はがき随筆
 5月26日のスーパームーン。皆既月食を楽しみにしていたが、あいにくの梅雨空に雲が広がり見られなかった。観測できた地域では赤黒く映し出されていた。偶然、その日は母の命日でもあった。満月は母の面影と重なり、見守ってくれる存在でもある。最近、何かにつけとみに似てきたと感じ思わず頬が緩んでしまう。母は48歳で松葉づえのお世話になっても不自由さをものともせず、いつも持ち前のプラス思考で乗り越えてきた。父亡き後、私たち4人を後ろ姿に導いてくれた。そんな母に感謝したい。これからも私のスーパームーンであり続けるだろう。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(71) 2021/7/4/1 毎日新聞鹿児島版掲載

老々介護

2021-07-10 04:17:27 | はがき随筆
 朝ベッドを上げ「おはようございます」と私。「うん、どうも」と85歳の夫。意識のはっきりした時は「おはよう」。うれしくて涙がポロポロ出ます。
 脳こうそく、血圧低下、肺炎と3回も入退院。入院中はコロナ禍で面会もできませんので認知症が進むばかり。今はデイケアサービスを受けて日々リハビリの効果が表れてます。朝のコーヒー1杯自力で飲める幸せ。
 70歳の退職記念に植えた3本の桜を見に行きました。今年が最後かもと小さな声でつぶやくので「お父さん大丈夫。来年も見られますよ」娘と大きな声で叫びました。
 宮崎県えびの市 真方芳子(81) 2021.6.30 毎日新聞鹿児島版掲載

睡蓮ウォーク

2021-07-10 04:07:49 | はがき随筆
 同年配(失礼!)の女性十数人で毎週火曜日の午前中、ウォーキングを楽しんでいる。スティックを両手に、楽に身体機能を働かす歩き方の講習も受けた。先週、「今日のコースは決まりね」と近くの睡蓮池を回ることにした。数日前の地元紙に穴場スポットとして紹介されていたのだ。大通りの喧騒をよそに、クリーム色の花が清楚な姿で水面を覆っている光景に息をのんだ。群生しているさまを撮ったり、一花をアップで撮ったり、皆感動の面持ち。梅雨の晴れ間の満ち足りたウオークとなった。「睡蓮の一花一花の真昼かな」(上村占魚)
 熊本市中央区 渡邊布威(83) 2021/6/29 毎日新聞鹿児島版掲載

まさこちゃん

2021-07-10 04:01:29 | はがき随筆
 まさこちゃんは、村に一軒しかない鍛冶屋の娘でした。夏、男の子たちは半ズボンにゴムサンダルというスタイルで、真黒くなるまで田畑や小川での遊びに興じたものです。そんな時のまさこちゃんは、白のワンピースからゴボウのような手足をのぞかせ、僕たちにくっついてきました。
 そのまさこちゃんがいないのに気づいたのは小1の時です。ランドセルを背負うこともなく病気で亡くなったと聞かされました。今でも夏になると、青白く揺れる和炭の炎と、まさこちゃんの真っ白い歯が脳裏に浮かんで離れません。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(71) 2021/6/28 毎日新聞鹿児島版掲載

ついうっかり

2021-07-10 03:54:08 | はがき随筆
 朝の食事時。食べかけ途中に、妻がすくっと立ち上がると、急ぎ風呂場へ向かう。が、すぐに含み笑いを浮かべながら戻って来た。
 「ははあー」。何が起きたのかはおおむね察しはつくがしいて触れずにいると彼女の方から「入れ歯をはめるのを忘れてると慌てたけど、はめていたわ」ときまり悪そうに述懐する。
 メガネをかけ忘れて気付かずにいる事は私だってある。共に今年が傘寿の我が家では「ついうっかり」は驚くことではないのだが、そんな時はいつも「しっかりしないか」と、ボケ防止を意識したげきを飛ばす。
 宮崎市 日高達男(79) 2021.6.27 毎日新聞鹿児島版掲載

勉強する姿

2021-07-10 03:45:56 | はがき随筆
 ある朝、慌ただしく出かけようとしていると、「ママ、今日、工作でラップの芯がいる」「どうしてもっと前にいわないの!」。また怒鳴ってしまった。
 4年勤めた会社を辞め、再び学生になった。家事を終え、自分の部屋で勉強していると、ドアをノックする音。開けると、筆箱と宿題のプリントを持った息子が立っている。「ママと宿題する」。息子と同じテーブルで勉強するのも悪くない。しかもあの勉強嫌いな息子が自ら進んで宿題するとは。
 親の勉強する姿を見せるのが、どんな言葉よりも効果的だな、と一人にんまり。
 熊本市東区 神田沙樹(30) 2021/6/26 毎日新聞鹿児島版掲載

ホトトギス

2021-07-10 03:38:02 | はがき随筆
 庭のヤマボウシもアジサイも既に満開なのに、今年は揚げヒバリを聞かない。それにホトトギスの声も! 自然界に異変が? と心配になり10年日記を繰ってみる。2020年は5月23日に初鳴きを。19年は25日早朝、さらに27日夕方に、とある。
 テラスに折りたたみ椅子を出してくつろいでいた。すると一瞬「チョンチョンチョンゲサ……」。空耳? 目をあげると梅雨晴れの続く空高く伸びたハルニレの真上を甲高く鳴きながら、あちらの林を目指して飛んでいくホトトギス!
 たちまち不安は消えて心からくつろげた一時でした。
 鹿児島県鹿屋市 門倉キヨ子(85) 2021/6/26 毎日新聞鹿児島版掲載

夫の変わり身

2021-07-10 03:31:18 | はがき随筆
 以前、私は韓流ドラマにはまっていた。夫はあきれ顔してチャンネルを変えたり消したりして嫌がっていた。そんな夫が「イ・サン」というドラマに興味をもち見ている。何度か再放送されているが、今も録画して3度目をみている。
 今度は娘が「おとうさん何回見ればいいと」と、夫は「よかっちゃもん」と現金なものだ。私が見ていた頃はあんなに嫌がったのに、変われば変わるものだと笑ってしまう。
 私は徴用工問題が深刻になった時期に興ざめし、今は中国ドラマを夫の顔色をうかがいつつ楽しんでいる。
 宮崎県串間市 林和江(64) 2021/6/26 毎日新聞鹿児島版掲載