はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

夢中

2021-07-10 03:20:55 | はがき随筆
 「お父さん、バスケットの絵が描いてある靴がある」。娘は何かにつけてバスケットにつながる物を欲しがる。部活でキャプテンを務めている6年生だ。いつも先頭で声を張り上げ部員を鼓舞し、頑張っているのを見ると我が子ながら感心させられる。今の自分にここまで夢中になる事があるかと思う。部活で野球していた頃は、優勝を目指し夢中になっていたのに。いつしかその情熱は失せてしまっている。子供は親の背中を見て育つというが、親もまた子供から学ぶことは多い。よし、今度の休日には娘のバスケットシューズを一緒に買いに行こう。
 熊本市西区 栗崎隆憲(38) 2021.6.26  毎日新聞鹿児島版掲載

片隅の記憶

2021-07-10 03:11:14 | はがき随筆
 午前5時前に散歩に出るのが日課で、8㌔歩いて1日が始まる。しかし、雨の日はなんともやるせない。ぼんやりと頭をよぎる記憶を追う楽しみを味わう。戦後まもなく小学校に入ったが、雨の日は番傘にげたで通学した。コウモリ傘に長靴の子もいたのかもしれないが、思い浮かばない。番傘は重かったし、げたの鼻緒はよく切れた。手拭いの端を割いてすげるが緩むし、すぐまた切れた。今思うと貧しいのだが、どっちを見ても大差なくあっけらかんとしていた。戦争の恐怖と不安を知る僕には、家族が片寄せ合って暮らしたあの時代が懐かしい。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(81) 2021.6.26 毎日新聞鹿児島版掲載

追憶

2021-07-10 03:02:58 | はがき随筆
 私には今でも脳裏から消えない情景があるのです。山の側面を切り開き横長い土地の数段に建ち並ぶ、作業員宿舎の情景。それは鉱山師の社宅でした。父の仕事も鉱山師でしたから幾つもの鉱山を見てきました。
 ほとんど山間部が仕事場であり生活の場なのでした。戦前の全盛期はお祭りや特設の野外映画も上映され、友達とさつま芋やみかんなどを食べながら見ました。まことに今思えば懐かしきレトロな気分になるのです。
 父は格段に優しかったですが、爆薬で石を砕く仕事が子供ながらに心配でした。
 宮崎県延岡市 前田隆男(83) 2021.6.26 毎日新聞鹿児島版掲載

暖簾に腕押し

2021-07-10 02:53:52 | はがき随筆
 「どうも暖簾に腕押しなんです」とY医師から電話が入る。久しぶりに聞く言葉、意味はなんとなくわかったが、ネットで調べて笑った。うちの人らしい。優等生患者の見本みたいな状況が浮かび、そうだろうなと妙に納得する。何事もいい方に考える楽天家、こんな人が長生きするかもしれないと少々羨ましい。ついつい悪い方に考える私だが、これは性格ゆえどうにもならぬ。内服薬の調整、採血結果で紹介状を書きますということで落ち着いた。「今日はどうだった?」「何もなかった、いつもんごったい」とすました表情。家内看護師出番の日々に。
 熊本県八代市 鍬本恵子(75) 2021.6.26 毎日新聞鹿児島版掲載

ギフト

2021-07-10 02:44:57 | はがき随筆
 ラジオより美空ひばりの「あの丘越えて」が流れてきた。「私はひとりただひとり」のところで泣けてきた。夫、子、孫もいるのに。この16年の間に父母、姉、弟を亡くし、自分が一人残されたことを改めて実感したのだ。近所の83歳の方に泣いた事を話し慰めていただいた。後日、その方が四つ葉のクローバーを見つけてしおりにして持ってきてくださった。「少女趣味だけど、幸せなあなたがもっと幸せになりますように」と。思えば彼女はご主人を亡くして20年近く一人暮らしを続けてこられた。一人の形はいろいろだ。思わぬギフトは玄関に飾った。
 鹿児島県いちき串木野市 奥吉志代子(72) 2021.6.25 毎日新聞鹿児島版掲載

増えた楽しみ

2021-07-10 02:35:39 | はがき随筆
 あいにくの天気で見ることができなかったスーパームーンの皆既月食。「残念だったね、次は12年後だって」と娘と話した3日後、娘の4歳になる次男が思い出したかのように「スーパームーンがどうしても見たい」と言い出した。
 駄々をこるね弟を見ていた6歳の兄が「また見られるよ。次は僕が高校生になった時、一緒にみられるよ」とやさしくなだめてくれた。
 的確な説明だが、漠然と12年後を待っていた私にとって、この孫らが高校生になった姿を想像することになるとは思ってもみなかった。楽しみが増えた。
 宮崎県延岡市 松尾雅敏(67) 2021.6.24 毎日新聞鹿児島版掲載

梅雨の晴れ間に

2021-07-10 02:27:24 | はがき随筆
 「あつーい」。昨日まで梅雨のひんやりとしたお天気だったのに今日は真夏の暑さ。
 垣根がちょっと伸びたのをみはからって少しずつ切れば、力なしでもと軽い思いだった。
 車もないし、携帯も持っていない。ないないずくしのわが家だけれど剪定バサミはがっしりとして、どこか愛らしいドイツ製。重みがあって年寄りにはきつい。張り切ってハサミを手に庭に出る。日差しの強さにあえなく降参。
 友からの贈り物のスイカを大切に届けてくだった宅配便のお兄さんの背中に、もう一度大きい声で「ありがとう」。
 熊本市東区 黒田あや子(89) 2021.6.23 毎日新聞鹿児島版掲載

罪作りコロナ

2021-07-10 02:18:55 | はがき随筆
 グラウンドゴルフに夢中のМさんとウオーキングを始めて何年になるだろう。そこに行動派のHさんが加わった。話題も病気や政治、経済まで幅広くなったが、今はご主人が療養中で落ち込んでいる。3人とも働き者の旦那だが、家事が一切出来ないため、先には死ねない女性陣。話は尽きない。
 Hさんのご主人が一時退院の許可が出て喜んだのもつかの間、家で熱が出た。Hさんと一緒に歩くのをやめた。新型コロナかと疑ったのだ。コロナが引き起こす微妙な感情。困ったものだ。早くマスクを外し、大空の下で思いっきり笑いたい。
 鹿児島県阿久根市 的場豊子(75) 2021.6.22 毎日新聞鹿児島版掲載

大陸からの贈り物

2021-07-10 01:50:09 | はがき随筆
 スギ花粉のアレルギーがあり今年も2月になると症状が出た。そんなにひどくはなかったが、3月が終わっても症状が治まらない。それどころか4月の終わりには一段と悪化し、目のかゆみで涙が止まらなくなった。 
 何が原因なんだと思案していたら、ドラッグストア勤務の息子の友人と話す機会があった。彼いわく「それ黄砂ですよ」。そう言えば、黄砂が飛び始めた時期と症状が悪化した時期が重なる。黄砂自体が原因ではなく、くっついてくる有害物質がアレルギーを引き起こすらしい。
 大陸からの贈り物、来年はご辞退申し上げたいのだが。
 宮崎市 福島洋一(66) 2021.6.21 毎日新聞鹿児島版掲載