はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

緑いろいろ

2022-07-25 12:31:04 | はがき随筆
 ああ美しい、そして優しい人の心にしみる色。そして心を醸成し、平和を醸す。
 窓辺のマユミの新芽を朝な見ながら思う。ウクライナをあんな目にあわせているロシアには、こんな思いを生む自然はないのだろうか。今朝、日の昇る兆しを、東に建った家の、ほの白い壁で感じている。
 緑の発芽から浅緑の幼い美しさ、かわいさ、次は緑の力強さ。ながてつぼみがつき、とうとう開花……。
 なんと美しい命の色。こんな美しい命の色。こんな美しい緑の中の日本平準。日本の四季が育てる心は世界で一番美しいのでは。
 鹿児島市 東郷久子(87)

柿の花

2022-07-25 12:22:39 | はがき随筆
 ♪春には柿の花が咲き秋には柿の実が熟れる……と流行歌に歌われる柿の花だが、咲き方に趣があって興味をそそられる。
 果物の花は、一般的に赤や白などの色をしているので、花芽を見つけるのも容易だが、柿の花芽は葉っぱと同じ薄い緑色で、しかも葉の付け根にぴたりくっついて咲くので、よほど目を凝らさないと見つけられない代物だ。実が色づくまで気づかない事だってある。
 我が家の柿の木にも花芽がついているのに、今もその数が幾つか分からないでいる。その数を把握しようと、毎日夫婦で必死に頑張ってはいる、が。
 宮崎市 日高達男(80) 2022.5.14 毎日新聞鹿児島版掲載

交差点で

2022-07-25 12:16:33 | はがき随筆
 私が60歳くらいの頃、信号機のある交差点で自転車に乗った若い外国人男性の二人組に出会った。
 「失礼ですが、どちらに行かれるんですか」と英語で話しかけてみた。「友達のところへ行くところだけど、英語はどこで学んだの」と英語で尋ねられた。「学校でだけれど」と英語で答えた。若い二人組は驚いた様子だった。
 これくらいの易しい英会話は、あたって砕けろである。何事も考えているだけでなく、実行してみることが、自信になり、次のステップへとつながると思う。
 熊本市東区 角田俊昭(89) 2022.5.14 毎日新聞鹿児島版掲載

電子図書館

2022-07-25 12:04:17 | はがき随筆
 鹿児島市電子図書館がこの春からスタートした。パソコンやスマホで電子書籍を借り、返却できる。事前に図書館利用者カードの番号とパスワードを登録し、「オープン」日を待った。
 午前中にネットを操作したがログインできず。電話も掛けたがずっと話し中。障害が起きているなと思い、夕方再度アクセスすると「入館」できた。
 100冊をざっと見た。ほとんど借りられていなかった。翌日、目星をつけていたエッセー集を借りようとすると、ほぼ全冊が貸し出し中に。24時間「営業」を忘れていた。仕方なく希望の本の「予約する」を押した。
 鹿児島市 高橋誠(71) 2022.5.14 毎日新聞鹿児島版掲載

フキノトウ

2022-07-25 11:56:40 | はがき随筆
 私がフキノトウを初めてたべたのは結婚してからだ。夫が北方の道路でたくさん出ているのを採ってきた。天プラがうまいらしいというので早速食べた。まだ若かったのであの苦みがそうおいしいとは思えなかったが、夫は「こりゃあ、うまい」。それから春先になると我が家のフキが生える場所を1月ごろからまだかなあと歩いては、フキノトウを待つのが楽しみになった。日当たりの良い土手で見つけた時は宝石に出会ったようにうれしくて、今年もご近所や子供たちにお裾分け。「初物よ!」と喜んでくれる。これは私の春一番のイベントだ。
 宮崎県延岡市 和田康子(71) 2020.5.14 毎日新聞鹿児島版掲載

バネ指

2022-07-25 11:32:18 | はがき随筆
 疲れたから今日一日は休もう、と思うのだが、朝日を浴び、晴れ渡る空を見て、日々刻刻変わる木々や草花の光を見ると、「ああっ、今日は何をしよう」と考え始め、やっぱり外仕事へと走ってしまう。春が深まり、夏本番が近づく頃の、私の日々は畑仕事と庭仕事が忙しい。そしてワクワクと喜び溢れるのだが。肩はもりもり、足腰はがたがた。久々に雨でも降らなければ体力は限界だ。バネ指。弾発指とも言われ、腱鞘が腫れたり、腱が太くなったりしてなめらかに動かない。まだ軽症だが、年を感じて少し自重せねばと思う次第。
熊本県阿蘇市 北窓和代(67) 2022.5.14 毎日新聞鹿児島版掲載

極めたい

2022-07-25 11:22:22 | はがき随筆
 5.6年前、圧力鍋を買ったが、数回使って片づけたまま。友人に影響され軟骨料理を作ろうと思った。
 久しぶりに使用したので圧力の時間や火加減が分からなかった。骨が硬かったり焦したりしてしまった。納得いかず、また肉を買い込んだ。夫が「こんなに肉をなんすっとか」。「軟骨料理を極めたい」と答えると、笑い顔で「別な物を極めろよ」と言われた。はぁ? と嫌みに聞こえ癪に障ったが、別のものと急にいわれてもなにも浮かばなかった。後で「はがき随筆」と答えればよかったのかと独り言を言いながらにんまり。
 宮崎県串間市 林和江(65) 2022.4.13 毎日新聞鹿児島版掲載

おとなの子供

2022-07-25 11:15:30 | はがき随筆
 「今日はデイサービスの日よ」。お気に入りのバッグを出すが、怪訝な表情。行きたくないと顔に書いてある。どうしても今日は行ってほしくて次の手を考える。「先週も休んだから帳面から消えるよ」。相手の顔色をうかがう。お腹が痛いと言う。「もう少し時間があるから座って様子見ようか」「うん」。いいぞいいぞ、内心にんまり。「行ってみるか」。「そうね」とつい優しい声になる。本当に大きな子供なのだ。どうにか外出の支度ができて、玄関に夫が腰をおろして迎えを待っている。これでやっと一安心だが、すぐにお帰りの時間が来る。
 熊本県八代市 鍬本恵子(76) 2022.5.12 毎日新聞鹿児島版掲載人

80歳の壁

2022-07-25 11:06:57 | はがき随筆
 長年、主宰する体操教室で精神科医、和田秀樹さんの「80歳の壁」を紹介する。本の中から「男性は9年間、女性は12年間、この年数は何でしょう」と質問する。「正解は病気や寝たきりになり、介護されて生きる平均期間です」「人はなぜ認知症になるのですか」「それは年を取るからです」。70歳代が多い教室は、大爆笑となった。
 80歳を過ぎると何らかのがんや認知症が見つかるらしい。ショックだがどつらもゆっくり進行することが多いとのこと。
 私もとっくに80歳を過ぎた。今のうちに好きなことをして、気楽に生きていきたい。
 鹿児島市 田中健一郎(84) 2022.5.11 毎日新聞鹿児島版掲載

春なのに

2022-07-25 10:50:29 | はがき随筆
 戸を開けると春だと言わんばかりに沈丁花の香りが漂い、雪柳、チューリップが咲く。山桜を眺めては春を満喫する。
 浮かれ気分を遮るかのように、ニュースが流す画面には開いた口が塞がらず、新聞の記事にはため息が出る。ウクライナが侵攻されてひと月が過ぎた。仕掛けている国の大統領には殺された一般人、逃げ惑う老人。女、子供の姿が映らないのか。国を破壊する傍若無人さは殺人鬼に等しい。悲しみは大きい。
 一刻も早く平和への道にたどってほしい。飢えと寒さのない場所で過ごしてもらいたい。せめて春よ。あそこにも早く来い。
 宮崎県串間市 武田ゆきえ(67) 2022.5.10 毎日新聞鹿児島版掲載

ヤモリ

2022-07-25 10:42:27 | はがき随筆
 台所の隅に食品のパック、豆腐や納豆の容器、野菜が入った袋、ペットボトル、菓子の袋などを捨てて、たまると分類してゴミ袋に詰めてゴミ置き場に持って行く。今回も分類していたらゴソッと動くものがいた。トカゲの子だ。窓もドアも閉めているのに、どこから入ってきたのだろうか。つまんで外に捨てた。待てよ。辞典で「ヤモリ」を調べて見たら、トカゲよりも小さい灰黒色の爬虫類で、足指の裏面に特殊な吸着構造があり、壁や天井などにも張り付いて「家守」とも書くと記載してあった。台所には小虫がいるのに。失敗だ。
 熊本市東区 竹本伸二(93) 2022.5.8 毎日新聞鹿児島版掲載

高いビール

2022-07-25 10:33:02 | はがき随筆
 空は青く風もない。若くはなくても外に出たくなる陽気だ。
「いい天気だね」「そうね。でも足が痛いからね」と渋る。
 私と2人では面白くないのだ。結婚して50年以上もたつと鈍い私でも容易に察することができる。自室に入ると同時に電話のベルが鳴る。「出かけるから。昼はテーブルの上のおにぎりを食べて」。あっという間にいなくなった。
 夕方「いい温泉だった」とご機嫌の帰宅。以外にもひがみもせず「それは良かった」と素直に喜べた。夕食時、私は妻の喜びと我が素直さとに、高いビールで乾杯した。
 鹿児島県肝付町 吉井三男(80) 2022.5.7 毎日新聞鹿児島版掲載

祈る

2022-07-25 10:25:02 | はがき随筆
 夜のしじまの中、草木が芽吹き、生々しく、暖かく、いのちの香りがあたりに満ちている。
 主の復活の前夜祭、喜びに満たされて家路をたどりながら西の空シリウスのかなた、ウクライナに思いをはせる。
 坊やの声が聞こえてくる。「おうちに帰りたい。おばあちゃんに会いたい」。老婦人の声が聞こえる。「40年かかって建てたのに燃えてしまったの」
 魔法のじゅうたんに乗って平和を届けたい。けれどできない。
 だから心を込めて平和を祈る。ウクライナのため、ロシアのため、世界中のため、宇宙の平和を願い、祈り続ける。
 鹿児島県鹿屋市 伊地知咲子(85) 2022.5.7 毎日新聞鹿児島版掲載