はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ツバメのヒヨコ

2022-07-27 10:42:34 | はがき随筆
 回転すし屋を出ると幼稚園児ぐらいの女の子とその母親が軒先を見上げ立ち止まっていた。
 「ほら、ツバメのヒヨコだよ」とお母さんの声が聞こえた。私は「ヒナですよ」と心の中でつっこんだ。女の子は「うわあ」と口を開いて瞳をまん丸に輝かせている。お母さんは娘に目をやると表情を確かめて再び見上げた。きっと娘の心にドンピシャな言葉として「ヒヨコ」を選んだのだろうと思えた。なんてすてきなんだ。
 ツバメのヒヨコとヒトのヒヨコが向き合うそのひと時に、その親はそれぞれの子育ての楽しさを語り合ったに違いない。
 宮崎県都城市 平田智希(45) 2022.6.6 毎日新聞鹿児島版掲載 

キラキラしてる

2022-07-27 09:31:09 | はがき随筆
 友人とプールに行った日のこと。私たちのとなりのコースでは30人くらいの看護大の学生さんたちが水泳の授業を受けていた。はじめはライフジャケットをつけての水難訓練。次に体を鋭角にして水に潜る練習をしていた。若いからだろうか、はじめは下手だった子も徐々にうまくなっていく。
 その間、数人の男の子たちがニコニコして私たちに手を振ってくれた。私たちも手を振って応じた。彼らは鍼灸師を目指しいるのだそうた。とてもフレンドリーで明るい。鍼灸師になったら、体だけでなくきっと心も癒してくれるだろうな。
  熊本県玉名市 立石史子(68) 2022.6.5 毎日新聞鹿児島版掲載

花にときめいて

2022-07-27 09:22:50 | はがき随筆
 昨年植えた草花が、春の訪れとともに、狭い庭を色とりどりに覆ってくれた。飽きることなく鑑賞する日々。そんな中、とんと昔に埋め込んでいたミッキーマウス(オグナ)の種が1.5㍍の木に成長。なんと4月15日、初めて鮮やかな八つの花をつけてくれた。
 色形を楽しみにしていただけに、感謝感激雨あられ、最高の朝。「よく咲いてくれたね」。小さな蜂たちと花に顔を寄せてチューし、香りを堪能した。
 花期を終え、1㌢ほどの赤オレンジ色の表皮に包まれている。どんな変化を遂げるのか、ときめきの観察が続きそう。
 鹿児島県指宿市 外薗恒子(68) 2022.6.4 毎日新聞鹿児島版掲載

ぼくは生きたくない

2022-07-27 09:15:54 | はがき随筆
 新年度が始まりひと月が過ぎた。今の季節になると12年前に同居していた孫のことを思う。
 父親の転勤で4年生と6年生の男2人の孫は転校することになった。弟は何も感じていなかったが兄は不安なようだった。
 明日引っ越しという夜、母親のはからいで2人の孫が私たちの傍らで寝た。兄はなかなか寝付けず「ばあちゃん、ぼくは行きたくない」とポロっと涙をこぼした。親には言えなかったのだろう。「大丈夫」。孫の手を強くにぎりしめた。
 始業式の夕方。電話から「転校生が11人もいたよ」と明るくはずんだ声が聞こえた。
 宮崎県延岡市 片寄和子(73) 2022.6.4 毎日新聞鹿児島版掲載

90歳のバースデー

2022-07-27 09:05:37 | はがき随筆
 「お誕生日おめでとうございます」。朝ごはんの時、オーナーさんからスタッフの皆さんのお祝いのカードをいただいた。「楽しい」がいっぱいの一年にしましょう。お誕生日おめでとうございます。わあ、どうしよう。90歳にして初めていただく「HAPPY BIRTHDAY TO YOU」の文字に私の中の残り少ない熱い血がパッと目覚めた。ここまで来たのだから90まではもっともっとはがき随筆と仲良くしたいとの思いが本当に叶った。全開した窓からは見事な五月晴れの空、爽やかな風までも「90歳おめでとう」のささやきに聞こえる。
 熊本市東区 黒田あや子(90) 2022.6.4 毎日新聞鹿児島版掲載

霧島アルプス

2022-07-27 08:53:02 | はがき随筆
 若葉風 緑雨のあとを颯と掃き 大浪池 秘して現る。
 夫と私のご当地アルプスと言えば、2人が35年前に出会った場所であり、息子らの名前の由来になった霧島連山である。
 43年間の教員生活をリタイアしたばかりの夫をねぎらおうと高千穂河原へ。駐車場辺りから既に深い霧。高千穂峰登頂は諦めて大浪池へ。半分ほど整備された登山道を私の歩調に合わせてゆっくり登ってくれる。
 が、湖面はあいにくの霧。ウグイスが啼いた。風が颯と吹いた。新緑の大浪池に出会えた喜びがじんわりと込み上げた。
 鹿児島県霧島市 白坂功子(64) 2022.6.4 毎日新聞鹿児島版掲載の

兄の涙

2022-07-27 08:43:51 | はがき随筆
 戦後の配給で戦死者の子供にはズックが支給されるので、文数を知らせるよう通知がありました。楽しみにしていた兄が持ち帰ったのは大きな包みでした。兄は泣きながら「ズックじゃなかった」と投げ捨てたのです。それは8畳張りの蚊帳でした。6畳一間の掘っ建て小屋の我が家には不要な品でした。悔し泣きする兄に祖母が言いました。「早く大きくなって、この蚊帳の張れる家を建てようね」。そっと涙をふいた祖母の姿を見た兄はあの日から、大泣きする事はなくなりました。私も大好きなやさしい祖母の涙を今も忘れる事はありません。
 宮崎県日向市 津江保美(83) 2022.6.4 毎日新聞鹿児島版掲載

雑草取り

2022-07-27 07:04:32 | はがき随筆
 調理の際に出る生ゴミを庭の随所に埋めているが、1カ月もたつと跡形もなく土にかえっている。それを肥料にしているのだろうか、土が見えなくなるくらいに雑草が生い茂っている。「雑草のようにたくましく生きよ」という言葉があるが、全くその通りである。
 スコップで土を深く削り取ると雑草は根こそぎ取れるが、10分も腰を曲げていると激痛が襲うので、松葉ぼうきで雑草を履き集めて袋につめている。草枯し剤をまけば簡単に枯れるだろうが、庭の土を汚したくないので、時たまスコップで削り取っている。
 熊本市東区 竹本伸二(93) 2022.6.4 毎日新聞鹿児島版掲載

予言の書

2022-07-27 06:57:28 | はがき随筆
 人生の先輩達は、脳トレのためにいろんなことに挑戦している。
 近隣の先輩は最近、格調高い名分に挑戦した。それは日本国憲法前文。合計643字、原稿用紙1枚半。暗記してみて発見があったそうである。「これは予言の書だ」と。いわく「全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」。また「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」。
 76年前に想定していた、あってはならない事態。「頭の鍛えにはなったが、胸の方は痛い」と言っていた。
 鹿児島県出水市 山下秀雄(53) 2022.6.4 毎日新聞鹿児島版掲載

お月さまお願いします

2022-07-27 06:50:26 | はがき随筆
 夜、お月様を見るのが好き。手を合わせただ「母さん」と言う。母はお月様が殊の外好きだった。母のように思える。
 月の大きさは太陽の400分の1だと言う。地球から見るとほぼ同じくらいに見える。この不思議な一致は果たしてただの偶然なのだろうか。地球に暮らす人間にとって太陽も月もなくてはならないものである。
 朝は太陽を拝し、夜は月に祈る。心正しく暮らせば今の世界の戦争はとてもつらい。
 ロシアよどうぞ手を引いてください。小さい子供や母を泣かせないでください。
 私は月に祈る。
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(95) 2022.6.3 毎日新聞鹿児島版掲載

おっかしゃん

2022-07-27 06:40:45 | はがき随筆
  おっかしゃん、その響きに母を偲んだ。母が呼んでいた母の呼び名、つまり、私の祖母のことである。
 その呼び声を初めて耳にした時、甘くて切なくてどこか懐かしい香りがしたことを今も覚えている。
 末娘に生まれ、甘えたかっただろうに、戦争はそれを、許さなかったのですね、それでも働くことが生きがいだった母。働いて働いて、私たちを支え続けてくれました。
 これからは、私がおっかしゃんと呼ばせてもらいますね。今朝も感謝の思いを込めて、おっかしゃんからおっかしゃんへ。
 熊本県宇城市 野沢美和(57) 2022.6.2 毎日新聞鹿児島版掲載


春日和

2022-07-27 06:29:16 | はがき随筆
 春告げ鳥のウグイスがさえずり、春らんまんの一日。ほほえましい光景を目にした。若い家族が桜の木の下でお花見弁当を広げている。
 こんな幸せな国もあれば、惨状に逃げ惑う国も。同じ地球上とは思えず、何度見ても胸が痛む。コロナ禍に加え、ウクライナ侵攻は世界経済を揺るがし、物価の上昇により市民生活を圧迫しつつある。
 私たちは、平和な世界は決して当たり前ではないと学んだ。一方、この若い家族は穏やかな春を満喫し、私の心のモヤを吹き飛ばしてくれた。「思いよ届け」とばかりに空を仰いだ。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(72) 2022.6/1 毎日新聞鹿児島版掲載