はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

パイナップルの味

2022-08-06 11:18:19 | はがき随筆
 忘れられない味がある。学生時代、夏休みに石垣島に行った。友達2人と自転車を借りて島内一周に出発。照りつける日差しに閉口しながらも、初めての石垣島を楽しんでいた。
 未舗装の道路脇に小さなパイナップルを見つけた。パイナップルを積んだ小型トラックとすれ違ったので、誤って落ちたのか。それにしては、何日かたっているようで傷み始めている。
 石で割って食べた。一口頬張って、顔を見合わせた。甘くておいしくて、何とも言えない味が口に広がる。命の味と思えた。
 日の紡ぐ パイナップルの味一つ
 鹿児島県霧島市 秋野三歩(66) 2022.8.6 毎日新聞鹿児島版掲載

2022-08-06 11:03:39 | はがき随筆
 夏だ。とても蒸し暑い。今日は1学期を完遂し、夏休みがついにやってくる。
 ペダルを回しながら思い返すと前進した1学期であったと思う。学級長としてどうしたら役に立つだろうと考えた日もあった。また体育大会でも、リーダーとしてみんなを活気づけて盛り上げたこともあった。そんないろいろなことをしている間でも太陽は照らし続ける僕らを。
 地球が太陽の周りをまわるように僕らも物事一つ一つに精いっぱい取り組む。クラスの熱を感じ一丸となって取り組んだ時間を自転車に乗りながら重く背中に感じ思う、放課後の日差し。
 宮崎県都城市 平田壮一朗(13) 毎日新聞鹿児島版掲載

ハゼ負け

2022-08-06 10:57:13 | はがき随筆
 右手首の周りに、錠剤大の水ぶくれができて、かゆくてたまらない。昨日、ハゼの盆栽を剪定した時、切り口の樹液を付着させてしまった。
 私たち3人の兄弟が小学生だった頃、二つ下の弟は、夏休みになると決まったように、ひどいハゼ負けになった。
 弟は、病院で白い難航を塗ってもらい、顔も変形するくらい腫れていた。どんなにかゆく辛かったことだろうと、自分がなってみて、包帯姿の弟に思いを馳せている。
 こんな思い出を語り合える兄と弟がいてくれたら、と思うことが多くなった。
 熊本市北区 岡田政雄(74) 2022.8.6 毎日新聞鹿児島版掲載

「観」でつかむ

2022-08-06 10:49:10 | はがき随筆
 観察、観光、人生観、傍観など「観」のつく熟語は多い。対象をよく見る。景色を楽しみながら見るなど、単純に目で見ることを現す文字と思い込んでいた。寝転んで読んだ本に「観という字には、見るだけでなく、そこから何かをつかむ意味が含まれる」とあり、びっくり。
 政治家主催の観桜会など単に桜を楽しむだけではない。票に結びつくとちゃっかり計算しているのだな。どんな時でも私たちが見えるものの裏側には何かある。常にそれをつかむ訓練をしなくちゃ、と観の一字から漢字の奥深さを改めて教えられた気がした。
 熊本市東区 中村弘之(86) 2022.8.6 毎日新聞鹿児島版掲載て

あっぱれ、名言

2022-08-06 10:42:07 | はがき随筆
 ある日、NHKのローカル番組で、日南市大堂津の小学生たちが、同地区の海水浴場でゴミ拾いをしたという話題が紹介されていた。
 よくある話で特段の注目もせず聞き流していた。最後にこの行事に参加した子どもたちの感想を紹介する場面があった。子どもがいろいろコメントする中で、ある一人の子が「ごみを捨てた人たちに拾ってほしかった」と述べているのを聞いたとき、私の老体に突然ある感動が走り抜ける思いがした。
 「あっぱれ、名言かな」。そこら辺りのどこかにゴミを捨てる人間にはなりたくない。
 宮崎市 山野秋男(88) 2022.8.6 毎日新聞鹿児島版掲載て

これぞ種子島の味

2022-08-06 10:31:20 | はがき随筆
 列島各地で猛暑日が展開している中、ご近所の方が、いまもぎ取ってきたばかりという感じのキュウリ、ピーマン、ナスをひと山持ってきてくれた。家庭菜園で収穫したのだという。
 カミさんは早速液状にといてある、だし入りのミソを小皿に入れて持ってきて、キュウリにつけるや否や、ガブリとかじりつき「ああ、おいしい」とニッコリ。私も真似してかじりついた。ナス、ピーマンにもそのミソをつけて食べ、2人ともおなかを膨らませた。
 「種子島だからこそ、こんな食べ方ができる」とカミさん。
 私にとっては新発見だった。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(85) 2022.8.6 毎日新聞鹿児島版掲載て

忘れられないあの音

2022-08-06 10:24:07 | はがき随筆
 年と共に何でも忘れるのに8月が来ると毎年あの音がなまなましく聞こえる。不思議なものだ。終戦3日前、友達と二人で軍事工場からの帰り道、振り返り空を見上げると金峰山から黒い雲のようなものが広がってくる。友達がB29だと大声で叫んだ。隠れる場所はなく畑のあぜ道に重なるようにかがんだ。低空での機銃掃射が始まり、目の前の草原にブスブスと弾が刺さった。体がガタガタふるえて友達と手を握り、どんなにして帰ったか思い出せない。防空壕の中の母の顔を見てホッとした。あの時の機銃掃射の弾が突き刺さる音は今でも耳に残っている。 
 熊本県八代市 相場和子(95) 2022.8.6 毎日新聞鹿児島版掲載

試練

2022-08-06 10:17:14 | はがき随筆
 昨年からの帯状疱疹の後遺症をひきずっている日々。
 6月末、妻が大けがをした。2階の階段を踏み外して転落、救急車のお世話になった。骨折し手術、入院と完治には約2カ月かかる。変哲のない穏やかな毎日が一変した。コロナ禍で面会もできず、入院時に持参する物品が家のどこにあるのか探すのに神経がすり減る。特に炊事や洗濯、買い物は難行苦行だ。
 妻が私を案じて「一人立ちの試練。乗り越えられる」とメール。「75歳になってまで試練はいらない」と思ったが、従来のつつがない日々が訪れるまで、後期高齢者の試練は続く。
 鹿児島県出水市 宮路量温(75) 2022.8.5 毎日新聞鹿児島版掲載

ヤマメ釣り

2022-08-06 10:09:29 | はがき随筆
 渓流の女王ヤマメ釣り。その渓流の入り口に位置する我が家は、漁券の販売をしている。各地からいろいろな人が来て心楽しい。
 先日、客が買った漁券を店頭に忘れて帰ってしまった。控え券を見てはがきを出すと、すまなかったと頭をかきかき来られた。一方、子供2人連れのご夫婦。ご主人が年券、あとは日釣り券で1万4000円はちと痛い? が、いやこれは私が痛むことではない。その分楽しむのだ。人はお金持ちでケロリとしておられるよう。大正生まれの婆は古くさい。改めねばいけない。頭をコッツン!
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(95) 2022.8.4 毎日新聞鹿児島版掲載

虫干し

2022-08-06 10:03:17 | はがき随筆
 梅雨が明け、晴れの日が続くと虫干しを始める。箪笥を開けると匂い袋からいい香り。座敷にロープを張り、数枚ずつの着物を数日、掛けて干す。結婚前に両親が作ってくれた着物。母好みのオレンジやピンクの赤系統の着物が多い。中には母が自ら縫ってくれた着物もある。4年前に母が亡くなり、母の形見の着物も加わった。最近、自分でも母によく似てきたと思う。母の着物を着たら、きっと母の再来のように家族には見えるかもしれない。
 汗をかきかき、一枚一枚丁寧にたたんで仕舞う。私の夏の定番行事。
 熊本県玉名市 立石史子(68) 2022.8.3 毎日新聞鹿児島版掲載

背中の温もり

2022-08-06 09:48:55 | はがき随筆
 私の祖母は、熊本市内に1人で暮らしていた。私は幼い頃、夏休みには両親とよく遊びに行った。祖母は私を見ると決まっておんぶしたがった。私の体重を直に感じることで、成長を確かめたかったようだ。
 5年生になり訪ねた時、肥満児だった私の体重は祖母の体重を超えていたと思われるが、それでも祖母は私をおんぶすると言い張った。かろうじておんぶすると、大きくなった、大きくなったと喜んでくれた。
 その後祖母と会う機会は減り私が高2の冬に亡くなった。今でも仏壇の前に座ると、祖母の背中の温もりがよみがえる。
 宮崎市 福島洋一(67) 2022.8.1 毎日新聞鹿児島版掲載

むかしむかし

2022-08-06 09:40:49 | はがき随筆
 終戦の年、私は国民学校の4年生でした。当時、村の学校は陸軍に接収されていて私たちは集落ごとに分散教育でした。
 私の集落は大きくて人数も多く、4年生以上と3年生以下に別れて女先生が一人ずつついておられました。天気の良い日は鍬をかついで集落の坂を上り、奥の畑へ荒地開墾に行かされました。「勝ち抜く僕ら少国民」と隊列を組んで大きな声で歌いながら行きました。
 雨の日はお宮やラミー小屋(繊維素材になる苧麻を収納する小屋)で藁草履作りを村の古老に教わりました。まだ戦勝国だと信じていましたから。
 熊本市北区 佐々京子(86) 2022.7.31 毎日新聞鹿児島版掲載