はがき随筆・鹿児島

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向田邦子展

2009-11-04 17:25:54 | かごんま便り
 28日に生誕80年となる作家、向田邦子(1929~81)の特別企画展が30日まで、鹿児島市城山町のかごしま近代文学館で開かれている。

 雑誌記者からラジオ・テレビの脚本家となって数々の傑作ドラマを生んだ後、50歳で小説に新境地を開いた。直木賃を受け、これからという時に飛行機事故で散った。

 彼女は多感な少女期を鹿児島で過ごした。わずか2年3カ月ではあったが、鹿児島での暮らしは、平凡な市井の人々の日常を、鋭い人間観察の視点で描く作風の原点だと述懐している。東京生まれでいわゆる″田舎″を持たない向田は終生、鹿児島を「故郷もどき」と呼んで愛し、作品にもしばしば登場させた。

 同館が所蔵する約9300点もの遺品の大半は「鹿児島に嫁入りさせよう」との母・せいさんの言葉で寄贈されたものだ。今回はそのうち約450点を見ることができる。この種の展示は年代順に並べるのが通例だが、アルファベット26文字になぞらえたキーワードに沿ってテーマを分類しているのがユニークだ。

 学芸員の山口育子さんによると、従来とは趣向を変えた展示をとの遺族の意向を受け、4人のスタッフがアイデアを練ったという。草稿やメモから愛用品の数々まで、ART(絵画)▽DISH(器)▽FASHION(装い)▽WORD(言葉)――などなど、さまざまな角度から紹介し、いままで知らなかった「向田邦子」像が見えてくるという狙いだ。KはもちろんKAGOSHIMA(鹿児島)である。

 同館から500㍍ほどの平之町に居住地跡があり、少し歩くとビルの間から桜島が望める。亡くなる2年前、鹿児島を訪れた向田は街の様変わりに驚くとともに、変わらないのは「人」と「生きて火を吐く桜島」だと書き残した。彼女は鹿児島県人ではないが、確かに鹿児島が生んだ、あるいは育てた作家なのだ。

鹿児島支局長 平山千里 2009/11/02 毎日新聞掲載


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