はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆 5月度

2013-06-28 12:08:50 | 受賞作品
 はがき随筆5月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】4日「大根の花」伊尻清子(63)=出水市武本
【佳作】8日「痒いところに」若宮庸成(63)=志布志市有明町 野井倉
▽24日「母の情愛」秋峯いくよ(72)=霧島市溝辺町崎森


 大根の花  向田邦子のドラマに「だいこんの花」がありました。ひっそりと咲く地味な花だが、その優しく美しい雰囲気を亡妻の面影に重ねた内容でした。今独りになって、亡き夫君の大根の種の蒔き方の几帳面さを懐かしんでいる内容で、夫君との愛情の交感の思い出が、大根の花を吹くそよ風に重ねられている、美しい文章です。
 痒いところに 痒い背中に手が届かず、壁に押し付けて無理して掻いたら、今度は肩が痛くなったという、ご本人には悲劇ですが、読む方には可笑しくなる内容です。「歳を取るとは、こういうことか」という結びの一文が絶妙の効果を上げています。
 母の情愛 かつて、母親からの贈り物が大阪に次々と届いた。今にして思えば、母親の生活も大変だっただろうにと、感謝の念に堪えない。現在では、自分も子供に野菜などをせっせと送っている。「子を持って知る親の恩」と言いますが、こういう情愛の継続が社会を成り立たせているのかもしれません。
 この他に、鋭い観察が随筆の素材となり、文章にしているものを3編紹介します。
 年神貞子さんの「豊饒の海」は、誘われてヒジキ採りに行った内容です。打ち寄せる波の動き、揺れるヒジキ、その茶褐色の色合いなど、実に繊細な描写です。この豊饒の海の、原発による汚染が気がかりだという結びも、私たちに共通の感覚です。山岡淳子さんの「生まれる」は、教室で子供たちが、ダンゴムシの誕生を、感情移入しながら見守っている様子が、臨場感のある文章で綴られています。こういう、小さい生命の誕生に出会うのも子供たちにとっては稀有の体験でしょうし、その場に臨む教師には何よりの教材でしょう。種子田真理さんの「ツバメの知恵」は、ツバメの親鳥がヒナに与える餌のトンボを、中空から何度も落として、その生死を確かめている光景の描写です。ツバメが生き餌しか与えないとは知りませんでしたが、その観察力には脱帽です。
 (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)
 

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