はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆12月度

2016-01-20 22:01:33 | 受賞作品
 はがき随筆12月度月間賞は次の皆さんです。

 【優秀作】2日「逃げ道」新川宣史さん=いちき串木野市大里
 【佳作】4日「解禁の日に」中馬和美さん=姶良市加治木町
 △30日「傘寿を迎えて3」一木法明さん=志布志市志布志


 「逃げ道」は、静かなアイロニーの籠った文章です。川内原発に事故が起きたときの、避難経路の冊子が配られてきたので、それに従って南へと向かってみた。すると、暖かい冬日の中の美しい開聞岳にたどりついた。この薩摩富士に別れを告げて南海へ飛び立った若者たちがいたことを思い出した。さて現在、ここが安全な場所となるかどうか。
 「解禁の日に」は、自分の日記の記事を、1日分ずつ読み返すことにしたという、自分だけの楽しみが書かれています。高齢になると持ち時間に、将来よりも過去が占める割合が増えてきますが、このように過去を確認しながら先へ進むことは素晴らしいことだと思います。
 「傘寿を迎えて3」。老いは、視力や聴力それに体力や気力の衰えとして実感される。そこで自分に望まれるのは、西田幾太郎の短歌にあるように、命の重さに気づき、残りの命を燃やし尽くすことができればということだと、なにかに充実した余生を任せたい気持ちがよく表れています。
 この他に3編を紹介します。
 秋峯いくよさんの「転校生」は、宮沢賢治の「風の又三郎」を思いださせる文章です。小学校5年のとき、ドッジボールの強い転校生がいた。すぐにまた転校していなくなったが、その生徒のそれからの人生が気になるときがあるという、私たちにもある思いが書かれています。
 田中由利子さんの「年賀状」は、3年前に同級生から、次の干支までは?と、添え書きされた年賀状をもらった。軽く読み流していたが、その後その人のがん手術のことを知り、添え書きの意味の重さを知ったという文章です。
 高橋誠さんの「タブレット」は、現在タブレットPCを便利に使っている。子どもの頃を思い出してみると、家の周りの板塀に実にたくさんの張り紙がしてあった。あの張り紙の情報の豊かさから考えると、あの頃の板塀はタブレットであったにちがいない。板塀をアナログタブレットと見たところが生きた文章にしています。
 鹿児島大学 名誉教授 石田忠彦 2016/1/20 毎日新聞鹿児島版掲載

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