はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

トムやん

2006-08-17 10:40:31 | はがき随筆
 「あっ、トムやん?」。道端でよく似た猫を見かけると、ふと足を止めてしまう。もういるはずがないと分かっているのに。
 2年前に亡くなった愛猫トムやんは、10年間病気らしい病気をしたことのない健康優良児だった。別れはなんの前触れも無く突然にやってきた。「さようなら」も「ありがとう」とも言わず、いや言えずに。私たちに心配をかけたくなかったのかな。ある意味、親孝行だったんだろうね、トムやん。
 でも夢の中で会いに来てくれるトムやんは、相変わらず食いしん坊である。そして、元気に走り回っている。
   鹿児島市 池田真美(45) 2006/8/17 掲載

哀悼

2006-08-16 16:40:05 | はがき随筆
 8月15日は、太平洋戦争の終戦日である。当時私は小学5年生だったので、戦時中のことはかなり覚えている。なかでも心に強く残っていることは、敵艦に体当たり攻撃を敢行した特攻機のことである。特攻基地としては知覧だけでなく、県内には数カ所あった。私の郷里の万世にも、急いで飛行場が造られ、わずか4カ月余りの間に201機が飛び立った。その跡には特攻平和記念館が建てられ、隊員の方々の遺品や遺書、遺影などが展示されている。私は国のために、若い命をささげられたこれらの方々に、心から哀悼の意を表したい。
   南さつま市 川久保隼人(71) 2006/8/16 掲載

童心に帰って

2006-08-15 11:22:00 | かごんま便り
 うだるような暑さが続く。朝からセミのせわしない鳴き声が、今日も暑くなるぞと告げているようで、体感温度も一気に高まる。
 ふと考えた。子どもの時は、暑さに平気だった。むしろ、わくわくしながら外を歩き回っていた。そこで、子どもの時に遊んだ事を今、試したらどうだろう。暑さを忘れる事が出来るかも知れない、と思い実行してみた。
 その一つが、セミの幼虫から成虫になる様子を観察することである。昼間、支局の近くを歩きながら、地面にセミの幼虫が出てきた穴がたくさんある場所を見つけた。
 夕方、ペットボトルに水を入れて穴の周辺にまいた。どうして水をまくのか知らないが、そうした方が「早く幼虫が出てくる」と言われていた。
 多分、暑い土に水をまくと土が冷える。すると土中の幼虫が、夜が来たと勘違いして、早く土から出てくるのであろう。ここまでやっておいて夜7時ごろ、再び現地に行った。すると1匹の幼虫が高さ約1・5㍍の木の枝の所で脱皮を始めていた。
 支局員も脱皮するところは誰も見たことはないと言う。本来なら、幼虫を持ち帰って支局員に自慢したかったが、すでに背中が割れて脱皮を始めていたので1人で観察した。幼虫の腹の中央を見ると小さな突起があるのでクマゼミである。
 ゆっくり、反るようにして脱皮し、縮れた羽が次第に張るのを待った。この間、約2時間。蝉は薄い緑色。まだ全身が柔らかい。虫かごにそっと入れ、支局に持ち帰った。この色と姿だけでも珍しがられた。 抜け殻の体長は約3・5㌢、これから約5㌢の成虫が誕生した。味方によってはグロテスクな幼虫。これが流線型の成虫になる生命の神秘。大人になっても感動、しばし暑さを忘れる時間だった。
 セミを見たせいか寝る時に紀友則(平安時代の歌人)の「蝉の羽の夜の衣は薄けれど写り香濃くも匂ひぬるかな」が浮かんだ。借りた夜の衣は薄かったですが、移り香は濃かったですよ。多分、女性の香りだろう。色っぽい歌だが、私は毛布さえ必要のない暑い夜だった。
 網戸の外に止まらせておいたセミは朝、姿を消していた。これから短い命を懸命に生きるに違いない。脱皮の過程を写真に撮り、観察すれば夏休みの宿題に最適だと思う。
   毎日新聞 鹿児島支局長 竹本啓自 2006/8/15 掲載

台風のあと

2006-08-15 10:32:16 | はがき随筆
 また湿気を連れて九州中を湿気漬けにしたのね。蒸し暑い。その中でプランターのナスやトマトは大きくなった。夕方、2個の桃太郎をちぎってまず供え、太陽と雨と風の恵みが育てる植物に感謝。下のお宅のトマトが10ばかり熟れて、やや羨望を感じていたら、我が家のにもちゃんと時が来た。
 朱に赤を加えた明るい赤。二つも取れた感慨にしばし浸ると湿っぽいぬくさも忘れてしまう。東風がようやくやんで、台所のドアを開けるとかすかな西からの流れを感じる。カライモとナスの小さな畑を越えて――ああ涼気。
   鹿児島市唐湊 東郷久子(71) 2006/8/15 掲載

終戦時の記憶

2006-08-13 12:03:06 | はがき随筆
 戦争で長男と婿殿を亡くした両親は老いの体で悲しみに耐えて田畑を守っていた。私は兵器廠を後に田舎に帰省した。家の奥に異様な面相の人たちがいた。やせ細った顔、顔、顔。一瞬、ギョッとした。言葉が出ない。すると「今戻ったや」。母の声だ。どうしたと。赤痢にやられた。下痢が続き、苦しい伝染病だった。村人たちも皆伝染したとのこと。よし、俺が看病すると決意した。幸い田舎に疎開している薬局があった。持ち金はたいて食糧や薬を買い一生懸命看病した甲斐あって、全員回復、まずはめでたしの夏だった。
   霧島市 楠元勇一(79) 2006/8/13 掲載

ニガゴリ

2006-08-12 14:33:50 | はがき随筆
 今年もニガゴリの季節がやってきた。畑の脇に棚をつくってもらい、暑さもなんのその濃い緑の葉っぱが棚いっぱいに広がり、涼しげな棚の下に出番を待っているかのように何本もぶら下がっている。
 まな板の上で刻み、軽く塩もみ、三杯酢和え。ちょっぴり、かつお節を添えておかずに、つまみに。入院中の姑や実家の母も好物の一つ。豆腐と相性がいいので炒めてもおいしい。
 朝はミキサーでジュースに早変わり。バナナ、ハチミツ、牛乳に氷を入れる。夏バテ知らずの我が家のスタミナ源に感謝している。
   指宿市東方 堀内信子(59) 2006/8/12掲載

消しゴム

2006-08-11 22:33:18 | はがき随筆
 ゆったりと時間の流れる日曜の朝。洗濯物を干し終えて、いつもの計算ドリルに向かう。
 ピッ。スタートボタンを押し、一心不乱に100問の単純計算に挑む。ピッ。終了。1分28秒。昨日より5秒遅い。それに合わせて名作音読と漢字の書き取り20問もする。
 平日は朝出勤前のわずかな時間をみて毎日しているのでページ数が残り少なくなってきた。
 今朝は時間に余裕があるので、以前したところを消しゴムで丁寧に消すことにした。再利用である。私のささやかな痴呆防止策である。
   出水市美原町 川頭和子(54) 2006/8/11 掲載

妻の再起

2006-08-10 11:00:49 | はがき随筆
 父の日、サンデーモーニングを見ていた妻がソファーに倒れ込んだ。右の手足、目、唇から力が失われていく。
 運ばれたI総合医療センターの当番委に脳外科医がいて幸いした。CTが撮られ、医師に「左の脳内に2㌢弱の出血。右半身不随。手術をする時は救命措置。寝たきりになることも……」と告げられ落ち込むが、後の写真では出血が止まっていたのでホッとする。
 七夕に願かけるころ、妻は治療やリハビリのお陰で、車椅子に座れるようになり、話す言葉も聞きやすい。待望の愛犬ハナの面会に喜び、週末帰宅の感激もあって、歩く日は早まりそう。
   出水市 清田文雄(67)2006/8/10 掲載

ひからびない

2006-08-09 10:28:23 | はがき随筆
 「心はひからびていないか?」
 夏の日曜の朝、コンクリートの上でからからに乾ききったミミズを見つけて、自分は果たして精神的にそういう状態にないと言い切れるのか焦燥感に襲われ、自問自答した。
 異常な暑さによる疲れや仕事のストレスなどから、同僚や家族を思いやる気持ちがほんの少し足りなくなってしまい、それこそカサカサした人間関係になってしまう傾向にあるように思う。そんな時、庭先の花や夜空の星に目を向けてみる余裕を持ちたい。それが乾きそうな心を潤してくれるに違いないから。
   垂水市 川畑千歳(48) 2006/8/9 掲載

甥の魚釣り

2006-08-08 16:46:19 | はがき随筆
 甥は海釣りに熱中して20年になる。小舟を買い、風や雨以外の休日には欠かさず竜ヶ水の釣り場に行くという。早や15年になるが、静かに釣りを楽しんでいると急に突風が発生して、凪の錦江湾が一気に荒海に変わり、転覆しないように必死になっていると、いつしか船ごと牛根まで流され九死に一生を得たこともあると言う。甥は今も釣りを続けている。前回の差し入れで妻が調理に腕をふるってアラカブをまな板にのせると50㌢も跳び上がり、その新鮮さに驚いたと甥に説明すると、それからは自宅で調理して届けてくれる。鯛の刺身の味は忘れられない。
   姶良町 谷山 潔(80) 2006/8/8 掲載

愛しき野の花よ

2006-08-07 17:50:50 | はがき随筆
 生い茂る雑草のなかに、すーっと伸びた「清楚なあざみ」1本の幹から数本の枝を張り、刺のある濃い緑色の葉、いずれの枝も赤紫の可憐な花をつけて、夏の庭に彩りを添えている。昨年のこの季節、亡父の故郷、串木野を訪れた折、漁港の町並みが一望できる小高い山を散策中、山道周辺に群れをなして鮮やかに咲き誇る「野あざみ」に出会う。野に咲く健気さにひかれ、根つきの花1本を持ち帰り、庭の一隅に植えたものの、すっかり忘れ去っていた矢先、季節は巡り、見事な開花に思わず「あざみに深き我が思い」と愛唱歌を口ずさむ。
   鹿屋市 神田橋弘子(68) 2006/8/7 掲載

再び「1枚の写真」

2006-08-06 17:41:58 | はがき随筆
 今年も忌まわしい夏がやってきた。そして、再びあの「1枚の写真」の掲載。
 胸を突く衝撃は新たな涙を誘って止まらない。
 一文字に結んだ口元。手足の指先に込められた直立不動の姿勢には改めて原爆の悲惨さを大きく包み込んであらゆる争いへの憤りが、いかなる理由も許さない「ノー」のオーラを放っている。
 忘れてはならない戦争の悲惨さ、余りにも痛ましい少年の姿、そっと抱きしめたい。そして今健やかであろうかとふと思う。
   南さつま市 寺園マツエ(84) 2006/8/6 掲載

猫のしっぽ

2006-08-05 17:10:19 | はがき随筆
 その頃、女の子は下校時に出迎えに来てくれる忠実な猫を飼っていた。来客の度に、猫の尻尾を握って「大きく振れ」「小さく振れ」と言えば、大きくも小さくも振る猫。
 「感心な猫!」と褒められると有頂天になる女の子。昭和20年代の物のない頃の娯楽?
当の女の子は、尻尾を持つ位置を変えて、大きく小さく揺らしていたのだが、意識的にした覚えがない。
 「うちの猫は賢いでしょう」と、それも真顔で。からくりを気づかないふりの周囲を巻き込みこの遊びは数年続く。この変な女の子は私の小学生時代。
   霧島市 口町円子(66) 2006/8/5 掲載

足元にご用心

2006-08-04 16:55:17 | はがき随筆
 5月下旬のこと。物を取ろうとして、回転椅子に乗り体のバランスを崩してこけてしまった。
 手首が腫れあがって痛い。氷水で冷やしても痛みは増すばかり。一晩中、眠れぬまま夜明けを待った。
 早朝、整形外科へと急ぐ。骨折していないだろうか……。不安がよぎる。医師はレントゲンを見ながら、骨折と診断。ギブスで固定し、全治2カ月と告げられる。
 「一寸先は闇」とはこんなことだろうか。年を重ねたら転びやすいと聞いていたけれど。自分がけがするなんて。これからは足もとに気を付けよう。
   出水市 橋口礼子(72) 2006/8/4 掲載

感 謝

2006-08-03 21:57:30 | はがき随筆
 以前80代になったら読書、絵描き、五目並べ。生活の計画を立てながら夢見た。あれから、いよいよ今、80代となった。早朝の散歩が出来る。でも遊ぶ友人たちは皆去って、絵描きも目が疲れる。以前考えた事はあの時の事であった。老は当たって初めてわかる。でも姿勢の良い事はいつもほめられる。それだけは嬉しい。夏は大好き。スイカ、トコロテン。大好きである。食事が一番の楽しみである。勝負に来る友人が1人いて、時々オセロで勝つとうれしい。こんな日々が崩れないで老日を笑って生きたい。やっと書いたはがき。感謝、感謝。
   さつま町 浅山清子(84) 2006/8/3 掲載 特集版-6