はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

蝉しぐれ

2006-08-03 21:47:45 | はがき随筆
 老残の身をいたわりあってきた姉が心臓手術の甲斐なくこの世を旅立った。忌み明けに納骨を終えた遺児たちが佐多岬へ行こうと誘った。心萎えた私は辞退したものの、気を取り直して同行した。佐多岬の短いトンネルを抜けると樹海の中に岬神社への下り坂がある。一向が下り坂へ差し掛かった時、突如電動鋸が作動し始めたようなジャーンという音が鳴り響いた。びっくりして足を止めるとピタリとやんだ。歩き始めるとまたジャーン。まるで指揮者がいるような盛大な蝉しぐれであった。思いがけない天からの声に耳に禊ぎを受けたようだった。
  肝付町 竹之井敏(81) 2006/8/3 掲載 特集版-5

新婚のころ

2006-08-03 21:39:49 | はがき随筆
 夫はトマトが大好きだった。新婚のころ、ひと山幾らの大安売りのトマトを隣町の商店街までよく買いに出かけた。大きくて少しいびつな露地物トマトを冷やして帰りを待った。冷蔵庫と言っても、しばらくは義兄宅からのお下がりの氷の固まりを入れて冷やす形式のものを使っていた。1人で待つ私のために、付き合いもそこそこに会社から飛んで来る夫は、大盛りのトマトや、まだレパートリーの少ない私の料理を何でもおいしいと平らげた。そんな夫が頼もしく、またいとしかった。44年前、夫も私も若く初々しかった。
   霧島市 秋峯いくよ(66) 2006/8/3 掲載 特集版-4

オーシャンブルー

2006-08-03 21:33:19 | はがき随筆
 菜園の傾きかけたビニールハウスにオーシャンブルーが咲き誇っている。数年間、二男の結婚式の後、義姉や妹たちと小旅行をした。彼女らは、近くのアジサイ園でこの花をみかけ、記念にしようと、1鉢ずつ買い求めて、はしゃいでいた。大学生を抱えていた私は、1000円の花を買うのをためらった。子どもたちが自立したら、いっぱい植えよう。その日を待とうと思った。今、母を看ながら草花との毎日である。山で遊ぶ小鳥の声、緑の風に揺れながら、次々に咲く花に囲まれたこの幸せを、いつまでも大切にしたい。
   阿久根市 別枝由井(64) 2006/8/3 掲載 特集版-3

ジャズの夕べ

2006-08-03 21:25:28 | はがき随筆
 待ちに待ったこの日が来た。マンハッタンジャズオーケストラの開演だ。五感のスイッチは入場前からON。心地よい緊張感と同時に天を貫くビッグバンドサウンドはたちまち会場と一つになった。聞き覚えのある曲が次々奏でられ、いつの間にかスイング。アンコールは「A列車で行こう」。ウーン懐かしい。ペットのソロがたまらない。さすが本物。片言の日本語と結成18年という円熟したメンバー16人。はるばるこの町へ。嬉しい。久々に音のシャワーを浴び潤い、癒され、夢のようなひとときをありがとう。
   薩摩川内市 田中由利子(64) 2006/8/3 掲載 特集版-2

絶対負けないぞ

2006-08-03 21:18:27 | はがき随筆
 土地の境界にブロックを積むより心なごむ緑と思いラカンマキを植えた。庭木にはいろんな種類があったが、この木は手入れが簡単で丈夫とすすめられた。今は色濃く茂り新鮮な気分を与えてくれ境界の役目も十分だ。毎年剪定バサミで楽しみ半分庭師のまね事をしていた。が、昨年新芽を食い荒らす幼虫が異状発生。「あっ」という間にやられてしまった。割り箸で取り除き、薬剤散布して食い止めた。今年も昨年見た蛾が飛んでいる。卵を産みにきたぞ。「スワッ」と身構え戦闘モードに突入。今年は絶対食い荒らされないぞ、と己に誓う。
   鹿児島市 鵜家育男(61) 2006/8/3 掲載 特集版-1

水害見舞い

2006-08-02 20:58:39 | はがき随筆
 降り続く雨で河川が氾濫、わが川内川上流は道路や家を飲み込み、全国放映となった。遠くに住む姪や甥たちから見舞いの電話が相次いだ。
 そして今朝、何気なく取った受話器に懐かしい声。何年ぶりだろう。古い友人からだった。無事を喜んでくれ、それぞれの近況報告、お連れ合いは大病を患い介護の日々であると。わが夫は元気に遊んでいるよと答える。
 20代のころ、フウフウ喘ぎながら霧島の山を登っていた時、出会ったのが彼女だった。
 受話器を置くと遠い日の「青春」が胸をいっぱいにした。
   薩摩川内市 馬場園征子(65) 2006/8/2 掲載

カレンダー

2006-08-01 20:51:43 | はがき随筆
 今年はカレンダーをめくるのが楽しい。この世に二つと存在しない手作りのカレンダーをプレゼントしてもらった。2カ月が1枚で、既に三つの凝った工夫を楽しんだ。中でも前回のものは、ご自身で編まれたコースターを半分に折って傘に見立て、柄の部分は木製のスプーン。6月が終われば、夏本番にむけてそのまま使えるというなんとも心憎い演出だ。いざ7月になると、取り外して使うのがもったいなく思えていまだ思案中だが。あと3回の楽しみに加えて誕生月開封予定の封筒1通もある。どんな時も送り主の息づかいが感じられ心強い存在である。
   薩摩川内市 横山由美子(45) 2006/8/1