老残の身をいたわりあってきた姉が心臓手術の甲斐なくこの世を旅立った。忌み明けに納骨を終えた遺児たちが佐多岬へ行こうと誘った。心萎えた私は辞退したものの、気を取り直して同行した。佐多岬の短いトンネルを抜けると樹海の中に岬神社への下り坂がある。一向が下り坂へ差し掛かった時、突如電動鋸が作動し始めたようなジャーンという音が鳴り響いた。びっくりして足を止めるとピタリとやんだ。歩き始めるとまたジャーン。まるで指揮者がいるような盛大な蝉しぐれであった。思いがけない天からの声に耳に禊ぎを受けたようだった。
肝付町 竹之井敏(81) 2006/8/3 掲載 特集版-5
肝付町 竹之井敏(81) 2006/8/3 掲載 特集版-5