はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

懐かしの母校

2012-09-15 17:37:36 | はがき随筆
 母校の静岡県立磐田南高校(旧見付中学)の正門を45年ぶりにくぐった。壮年期は仕事に追われ、青春を懐かしむ気などなかったが、老いの兆しが見え始めて気持が変わったのだ。土曜日の午後とあって後輩たちは校庭狭しと、スポーツ練習に励んでいる。女子生徒はまるでモデルのような容姿。「あの土手に整列して応援練習をしたんだよ。『覇気あるか?』『オーッ』てね」と妻に話して聞かせる。バスケ部の女子に思いを告白した体育館もそのままだ。「こんにちはっ!」。男子生徒のすがすがしいあいさつに心を満たされて、母校を後にした。
  霧島市 久野茂樹 2012/9/14 毎日新聞鹿児島版掲載

花火大会

2012-09-15 17:09:38 | はがき随筆


 今年は雨の日が多く、花火大会はお盆過ぎに延期された。
 夜空に「ドーン」と爆発する豪華な花火絵巻。感動する大観衆。炎の精はご先祖の送り火となり、現世の人々は心の憂さを晴らす。
 お盆のさなか急死され、霊界へ旅立ちの知人。病気、入院宣告で手術を指摘され、その深刻さに立ち向かった人たちのことを思うと胸が痛む。訃報は順番を待つかのごとく次々と。この避けられない現実。宿命はいかんともしがたい。
 間断なく打ち上げられる花火。フィナーレ。夜の静寂。余韻は夢の中へ。
  肝付町 鳥取部京子 2012/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載

音楽祭

2012-09-15 16:54:48 | はがき随筆


 この夏、甑島での「甑の風音楽祭」は深く心に残った。
 甑島への船中で、うれしいことに「ルヴール」という関東の大学の混成音楽グループの音楽祭に誘われた。
 里公民館で、まず小中学生の演奏。緊張していたが見事。ひときわ大きい拍手が鳴った。ルヴールの混声合唱・オーケストラの「明日があるさ」などの演奏は、若々しく澄んだ音でさすがに素晴らしい。
 約200人の一般の人も交えた聴衆は、音楽と交流の喜びに惜しみない拍手を送っていた。
 カノコユリが咲く甑島の音楽祭、甑の希望の風よ強く吹け。
  出水市 小村忍 2012/9/11 毎日新聞鹿児島版掲載

「ほっこり…大分の旅」

2012-09-13 18:56:53 | 岩国エッセイサロンより
2012年9月13日 (木)

    岩国市  会 員   中村 美奈恵

 息子が大分県の大学に進学してから大分がぐんと身近になった。先日も大学の保護者懇談会があり訪れた。新幹線と特急列車を乗り継ぎ約4時間。それだけで帰るのはもったいない気がして大分市美術館に行った。
 開催されていたのは「岡村剛一郎のダンボールアート遊園地」。地元では見ることのできない特別展だ。巨大な恐竜を見上げ、精巧にできたアリやバッタに声を上げる。これが全部段ボールでできているとは驚きだ。ためらいながらスタッフに聞く。「大人が乗っても大丈夫ですか」「大丈夫ですよ」。うれしくなって馬にまたがった。海賊船に乗ると楽しくて忘れていた子ども心がよみがえった。
 余韻に浸りながら帰りはバスに乗った。街並みを眺めながら運転手に建物について尋ねる。気さくに答えてくれ、私の住む山口へと話題が広がった。
 観光地巡りとは違う旅に気持ちがほっこり。これからも訪れるたびに大分の良さを味わいたいと思う。

(2012.09.08 大分合同新聞掲載)岩國エッセイサロンより転載
岡村剛一郎のダンボールアート遊園地はこちらから




闘病記その7

2012-09-08 13:59:06 | はがき随筆
 入院中の夫と医師の会話が、かみ合わない。ちんぷんかんぷんな話しぶりとか。
 夫は「認知症で、意識障害のかげりがみえる」と診断された。認知症は、見聞きはしていたものの、夫がかかるとは予想外だった。
 医師の繁多船に任せて治療するほかはない。看護師さんから「病気は初期で、まだ意識が鮮明だから身内に会わせた方がほうが良い」とアドバイスされた。それで、夫の兄弟が駆けつけた。夫にあってくれて安心した。
 ありがとう。感謝します。夫よ、大きな夢を抱いて生き抜こう。
  姶良市 錦江町 2012/9/8 毎日新聞鹿児島版掲載

至福の時

2012-09-08 12:25:09 | はがき随筆


 猫の額ほどの小さな畑に、トマト、キュウリ、ナス、ピーマンと夏野菜を1本ずつ植えている。それぞれが実をつけて目と胃袋を満足させてくれた。
 時にカメムシの鈴なりと格闘したり、朝夕何度も見回ったりする私に、野菜もうんざりしているよう。でも意外に発奮して例年よりよく育ってくれた。時々の雨の恵みにも助けられて。草取りも楽しんですれば苦にならず、実をつけた野菜たちに会う至福の時は何にも替えられない。そろそろ秋ナスの時期、紫紺の可愛い実がいとしく、枝を切れなくて一日延ばしになっている。
  霧島市 口町円子 2012/9/8 毎日新聞鹿児島版掲載

「夏の終わり」

2012-09-07 18:04:49 | 岩国エッセイサロンより


2012年9月 7日 (金)

   岩国市  会 員   貝 良枝

砂糖が200㌘残った。友人のゴーヤーの佃煮がおいしかったのがきっかけで、何度も作った。1回の砂糖の使用量は100㌘だから8回作ったことになる。4㌔のゴーヤーを使ったことにも。

去年はエコカーテンに使ったが、実は邪魔物扱い。せいぜいゴーヤーチャンプルを作るぐらいでおしまい。今年は食卓のアイドル。食べるのもよく食べたが、配るのもよく配った。弟にも娘たちにも「うまい!」と言わせた。

「これが最後だろうな」。砂糖を片付け、窓からゴーヤーを見ると、つかまるところのないつるが風に揺れていた。

(2012.09.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載) 岩國エッセイサロンより転載

秋さがし

2012-09-06 10:36:29 | アカショウビンのつぶやき


 日中はまだまだ厳しい日差しにあえいでいますが、
ここ数日、朝夕の涼しさに、ホンモノの秋を感じます。

今朝も一つ秋を発見しました。
彼岸花が芽を出しました。
今年はピンクが一番早く芽をだしたようです。

しかし、黄色と赤の彼岸花のあたりは、夏草が生い茂っていて…。
その下に芽をしっかり出してるのかもしれませんね。

早く何とかしなくちゃ…です。

清涼剤

2012-09-06 10:12:36 | はがき随筆
 連日のうだるような暑さに身も心もへこんでしまいそうな中に明るい知らせが届く。友人のお孫さんが漢検2級に合格とのこと。まだ中学3年の少年。早速「おめでとう」と声を掛け、問題を見せてもらう。
 漢字の読み20問中、やっと17問の正解。目を白黒させるような難しさ。
 今回のことは、へなへな過ごしている私には一服の清涼剤となり、気合いを入れて日々過ごさなければと思った。
 元気をくれて、ありがとう。今度は来年の高校入試に向けて頑張ってね。おばちゃんも五十肩が治るよう頑張るからね。
  薩摩川内市 南政江 2012/9/6 毎日新聞鹿児島版掲載

喜寿を迎えて

2012-09-05 21:33:14 | はがき随筆
 9月に喜寿を迎えるが、比較的元気である。長年患っていた心房細動の手術を昨年3月に受けてから1年半。経過も良く、完治したようである。
 私は長男であるが、81歳になる姉を頭に70歳の妹、その間に3人の男の5人姉弟妹である。共に戦中戦後の苦しい生活を体験してきたが、お陰様で5人とも今日まで元気である。
 父は85歳で、母は95歳で他界したが長寿であった。毎年、父母の命日には供養を兼ねて集まり、健康な体を授かった事に感謝し合っている。元気で喜寿を迎える誕生日には、父母に感謝の真心を手向けたい。
  志布志市 一木法明 2012/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

行く末考

2012-09-05 21:27:14 | はがき随筆
 人生設計というほど大げさなことではないが、行く末を考えたことはある。すでに20年余り歳月が流れたが、当時の平均寿命は77歳代であったと思う。定年後の17年、妻と2人で自由奔放に生きてやろうと本気で考えた。
 干渉されず、拘束されず、起きたい時に起き、食べたい時に食べ、怠惰を思い切り楽しんでやろうと思った。僕の思考の根底にはそんな考え方が内蔵されていて時々顔を出す。いよいよ残り5年余りとなったが、この生き方は捨てがたい。生けるところまで行くしかないが、次は往生際を考える時かしら?
  志布志市 若宮庸成 2012/9/4 毎日新聞鹿児島版掲載

ミカン泥棒

2012-09-05 21:10:41 | はがき随筆


 Kさんの庭にはいろいろなミカンが植えられていた。おなかをすかせた学校の帰り道、熟れた黄の色はまぶしく輝いていた。小学校3年生の時だったと思う。いつも登下校が一緒だった4人が、1個ずつだったらよかろうと盗みに入った。
 1個のつもりが3個、4個と手を伸ばしていると、背後からKさんの怒鳴り声。足をすくませた私たちは横一列に並ばされ、それぞれの父親の名前を言わされた。
 それから1人ずつ交代に歌を歌わされた。私が歌ったのは「みかんの花咲く丘」。一瞬、Kさんの怖い表情が崩れた。
  伊佐市 清水恒 2012/9/4 毎日新聞鹿児島版掲載

セミ時雨

2012-09-05 19:54:39 | はがき随筆


 今年のセミ時雨は例年になく元気がいい。カミさんが道端の雑草についているクマゼミの抜け殻を見つけてきた。
 「こんな雑草にまでしがみついて脱皮するなんて、頑張れって応援したくなるわね」
 車の窓を開けて並木の下を走っていると、セミの大合唱が飛び込んでくる。「こんなにたくさん鳴いていると、うれしくなるわねえ」というカミさんの声が聞き取りにくいくらいだ。
 島の夏……。庭の隅ではナツエビネが咲いている。有線テレビのカメラが鹿児島に向かうフェリーを追う。青い海の向こうに開聞岳がくっきり見えた。
  西之表市 武田静瞭 2012/9/2 毎日新聞鹿児島版掲載

写真は武田さん提供

「暑さの見舞い」

2012-09-05 06:47:28 | 岩国エッセイサロンより
2012年9月 4日 (火)

   岩国市  会 員   林 治子


この暑さを吹き飛ばすような友からの絵手紙が届いた。はがきいっぱいに熟した真っ赤なトマト。思わずのどかゴクッと鳴った。冷やして食べたら、どんなにかおいしいだろうな~。ともあれ返事を書くことに。
 絵はやっぱりトマトにしよう。ガブリと一ロかぶりついたのにしようかな。それとも、全部食べましたとヘタだけ残ったのに。いやいや、ちょっとしゃれてお皿に輪切りに、スライスしたタマネギ、キュウリを載せドレッシングをかけた一品料理に。あ~あおいしかった。ごちそうさま。添え書きをして送ろう。びっくりする友の顔が見たい。

   (2012.09.04 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

「夏の終わりに」

2012-09-01 19:39:09 | 岩国エッセイサロンより
2012年8月31日 (金)

岩国市  会 員   吉岡 賢一


広島、長崎の平和式典や終戦記念日追悼式など、お線香の香りの絶えない日が続く8月。そんな行事に挟まれるように、39年前に74歳の生涯を閉じた父の祥月命日がある。

帝国海軍軍人であったことを誇りに生きた父も、昭和48年の歴史に刻まれた猛暑酷暑には耐えられなかったのか、短い患いであっけなく逝ってしまった。あの夏の再来を思わせる連日の猛暑を無事乗り切り、せめて寿命だけでも父と肩を並べられる日を迎えたい。

8月は鎮魂の月。風鈴を揺らす風とともに心静かに手を合わす。秋はすぐそこに。

(2012.08.31 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載