その家は旧家のたたずまい。コケむした石垣、お堀もあった。そこに住んでいたのが、同級生のみどりちゃん。家が近く、すぐに親しくなった。登校時、よく待たされた。そのとき、お母さんが朝食のトーストを「食べててね」と私の手に。当時バター香るパンなど珍しく、ワクワクした。東京育ちのお母さんは上品で明るくまぶしいような存在だった。家に遊びに行くと、髪を結った和服のおばあ様もおられ、緊張したものだ。高校進学時に離れ、疎遠に。今でも「きよ子ちゃん」と返してくれるだろうか……。往時を追想する。トーストの香りの中で。
出水市 伊尻清子 2017/10/16 毎日新聞鹿児島版掲載