はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

風も街の景色

2017-10-04 15:52:49 | はがき随筆
 鹿児島では真夏日に近い日が続く8月下旬、新潟に出張した。仕事先の会場から、夕食場所の繁華街まで通りを散策。
 今は全国どこもおなじような街並みになっているが、よく見ると南国鹿児島にはない景色が。車両用信号機は、欧米風の縦型。豪雪に備えてだろう。外国人旅行者用に米・中国・ハングルの案内板を目にするが、新潟はそれに加えロシア語も。
 夕方の涼しい風を受けて、30分ほど歩いた。汗かきの私なのに湿気がなく、ほとんど汗をかいていない。時間の関係で観光に行けなかったが、一足早く秋の「風」を満喫できた。
  高橋誠 鹿児島市 2017/10/4 毎日新聞鹿児島版掲載

ハンセン病患者に

2017-10-04 15:45:57 | はがき随筆
 ハンセン病のNHKドキュメンタリーを視聴した。80代の患者は穏やかな風貌。歩みも不自由ない。左目が少しつぶれかけ、やけどの痕のように感じた。ハンセン病にかかったのは生後と言う。世の偏見や根拠のない差別に苦しみ、長期間奈落の底に沈んだ。日々のありのままをつづり、原稿用紙に好きな小説を執筆した。日ごろの趣味の随筆に興味津々と感慨無量。夜の晩酌では一匹の子犬が戯れる。天岩戸の扉に一筋の神々しい光が差す。生命のある限り一日一秒の今を生きよう。人の心を温め支える犬。砂漠にみなぎる力の泉が湧く心情だ。
  姶良市 堀美代子  2017/10/3 毎日新聞鹿児島版掲載

約束

2017-10-04 15:38:59 | はがき随筆
 母が「お茶にしよう」と私の好物の芋テンプラを持って縁側にきた。出水駅の発車ベルが聞こえ、上りの汽車が黒煙を出して動き出している。汽車を目で追う母が、高校卒業したばかりの私に「たばこは吸わないこと。百害あって一利なしだ」と。「分かっている」と軽い返事に母は間髪いれず「体に悪いし、お前が吸ったら弟もまねをする」と言う。母の茶わんに私の茶わんを当てる。カチッと約束の音がした。以来、母は逝き、汽車から電車へ、禁煙から受動喫煙対策へと時代は流れたが、私は一本もたばこを吸っていない。弟は禁煙に成功している。
  出水市 宮路量温  2017/10/2 毎日新聞鹿児島版掲載

わが街

2017-10-04 15:31:51 | はがき随筆
 わが街は、霊峰・紫尾山と矢筈山それに阿久根市との境・三笠山に囲まれた、鶴も来る街。
 パラオから引き揚げ、独立して終の住み家を建てた街。小・中・高と学び、高校卒業まで、父母に育ててもらった街。
 弟妹と背比べして古い傷のついた柱もあった、今は亡き父母の廃屋のあった街。
 子どもも2人育ち、妻と生涯を暮らす街。
 作詞曲「ふるさと出水」を教え子に歌ってもらった街。
 うなぎ獲りをして遊んだ米ノ津川が流れる街。
 数え切れぬほどの恩愛を受けた街。あぁーわが街、出水市。
  小村忍  出水市  2017/10/1 毎日新聞鹿児島版掲載

ナガサキアゲハ

2017-10-03 06:51:57 | はがき随筆






 今年もナガサキアゲハがハマユウとサンダンカの蜜を吸いにきた。狭い庭ながらサルスベリ、ハイビスカスも咲き、夏の庭の感じを出してくれた。ただ、この日の空はまるで黄砂に覆われているような感じで、太陽も顔を出してはいない。
 玄関横のグレープフルーツの木にいたアゲハチョウの幼虫が、いつの間にか一匹もいなくなったそうだ。成長を楽しみにしていたカミさん、「カマキリにやられちゃったみたい」と嘆いた。この弱肉強食の世界をくぐりぬけ、花から花へ移って蜜を吸うナガサキアゲハに「がんばれよ」とエールを送った。
  西之表 武田静瞭  2017/9/30 毎日新聞鹿児島版掲載

雀のお宿

2017-10-02 00:17:11 | 岩国エッセイサロンより
2017年9月30日 (土)
岩国市  会 員   上田 孝

 夜中にトイレに行った際、ドアを開け明かりをつけた途端、バサッと音がして目の前で小さな黒い物体が動いて消えた。15度ほど開いた窓と網戸のすき間を雀がねぐらにしていたらしい。昼間に糞を確認した。
 その後しばらく来ない日が続いた。数日後、暗がりのままそっとドアを開けると、いるいる。黒い小さな影が見える。この春に巣立った子雀で、安全なねぐらを見つける知恵もまだないのか。そっとドアを閉めて階下のトイレに行った。
 どんなヤツか、ちょっと顔を見てみたい気もするが、しばらくそっとしておいてやろう。
(2017.09.30 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

私もそうなりたい

2017-10-02 00:15:51 | 岩国エッセイサロンより
2017年9月29日 (金)
岩国市  会 員   安西 詩代

 夕方「はい、これ」と親しい中学生の彼女は小さなお菓子の袋を差し出した。「あら、どうしたの?」といった瞬間「敬老の日だ」と気がついた。カードには「長生きしてください」と可愛い字で書いてある。突然の老人デビューを娘に話すと「十分老人よ。自覚して感謝」。
 昨年来、白髪にしている。電車では若者がすぐに席を譲ってくれる。優しさがうれしい。
 老人になったからこそ生まれる美しさもある。それは外見的なものではなく人生の体験を通して培われた内面性の深さによる。そんな方はいつも「明日への希望」を持っている。
  (2017.09.29 毎日新聞「はがき随筆」掲載)