はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

野鳥

2018-04-23 20:17:51 | はがき随筆


 3月ともなればケンケンとなくキジの声に目覚め、ケッチョケッチョのウグイスの声に「ああ春か」と胸がときめき、季節を感じた頃そう昔ではなかった。
 雪降りにリンゴを棒に挿し、外に立てたが腐ってしまった。野鳥も過疎か。野鳥ばかりでなくカエル、セミ、バッタ類もあまり声を聞かなくなり、四季折々の季節感がわからない。農薬のせいと言われるけれどそれだけだろうか。
 きれいな空気、澄みきった小川の流れは昔と変わらねど、野鳥の声の聞けぬ山里の家は哀しい。
  宮崎県日之影町 甲斐カツエ  2018/4/12  毎日新聞鹿児島版掲載

ウグイスの来訪

2018-04-23 20:06:46 | はがき随筆


 窓から見える大木の桜は、あっという間に開花そして花吹雪。変化の速さに驚き、ぼんやり眺めていた私に娘が「お母さん、ウグイスが鳴いてるよ。早く早く」。
 慌てて席を立つ。「ほら、きれいな声で上手に泣いてるよ」。耳が遠い私は一生懸命耳をすます。ホーホケキョ。「ああ、聞こえた」。姿が見えるかもと探し「あそこにいる」と娘が指す方を見る。隣家の垣根の上だ。しきりに羽を動かし鳴いている。ウグイスま訪問は10年ぶりだろうか
最近体調不良の私に「元気になーれ」と言ってくれているよう。ありがとう。
  熊本市  原田初枝  2018/4/12  毎日新聞鹿児島版掲載

新燃岳噴く

2018-04-23 19:54:07 | はがき随筆


 昨年10月、6年ぶりに噴火した新燃岳が、またまた噴煙を上げた。噴煙の高さは桜島のそれに比べて10分の1の300㍍ほどだが、火口までおよそ7㌔の我家周辺にはドブ川のような悪臭が漂う。思わず〈杉花粉黄砂噴煙三重苦〉としたため万柳に投句した。それにしても16年前、浜松からIターンして来たときには、まさか桜島・新燃岳と前後から噴煙の挟み撃ちに遭うとは夢想だにしなかった。竜のごとくうねりながら吐き出されるどす黒い噴煙は、私をまるで太古の地球にタイムスリップしたかのような気にさえさせてくれる。
  霧島市 久野茂樹  2018/4/12  毎日新聞鹿児島版掲載 画像はネットより


ティーカップ

2018-04-23 19:45:17 | はがき随筆
 教え子がご主人と娘さんと3人で福岡からやって来た。彼女のお母様から私の結婚祝いに頂いたカップでもてなした。
 「このカップわかる?」
「え?」種明しすると3人とも「ええー!」驚きの表情。
 私は、いつも温かく見守り応援して下さった若きお母様の姿を思い出しながら飲んだが、彼女たちはそれぞれどんな思いでカップを持っていたのだろうか。今お母様は認知症状が少しずつ進んでおられるようだ。
 「母に見せたいのでカップ撮ります」彼女はシャッターを押した。カップのこと、私のこと思い出して下さるといいなあ。
  宮崎市  堀柾子  2018/4/12  毎日新聞鹿児島版掲載


熊本の生活

2018-04-23 19:31:43 | はがき随筆
 熊本へ移り住んで2カ月が過ぎた。1人暮らしをしていた息子が就職するも3カ月で入院。妻は母親の介護のため身動きがとれず、日々ふらふらしている私が息子と一緒に住み、しばらく様子を見ることとなった。
 誰一人しらない町で毎日洗濯と掃除と簡単なゆうげの準備をしている。息子は7月からの職場復帰に日々リハビリを続けている。今はただ息子の復帰がうまくいくことを祈るばかりだ。慣れ親しんできた熊本の生活。時間を見つけては街中を自転車で走り回っているが、白川沿いを走るのは心地よい。心配など何もない。今そう信じている。
  熊本市 志田貴志生 2018/4/12 毎日新聞鹿児島版掲載


春の便り

2018-04-21 21:57:08 | 岩国エッセイサロンより
2018年4月20日 (金)
     岩国市  会員   林 治子

 関西に旅行した友からお土産に「いかなごの佃煮」をもらった。播磨灘でとれ 生いかなごでショウガやサンショウを入れて炊き上げる佃煮。舞子に住んでいた叔母の得意料理。当時、大阪に住んでいて「取りにおいで」という電話をもらうと、心うきうきと出掛けたものだ。
 電車を降り高台の家まで坂道をゆっくりと歩く。淡路島が春がすみに包まれ、のどかな海。素晴らしい自然の名画。胸いっぱい新鮮な空気を吸う。温かいご飯に乗せて食べるおいしさは格別。叔母が逝って春の便りも届かない.久しぶりの懐かしい味と共に叔母を思い出した。
  (2018.04.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

女優デビュー

2018-04-20 21:16:59 | はがき随筆
 ひょんな事で駅のホームで電車を待つ田舎のオバチャン役のエキストラをたのれた。当日はとても寒くて電車の乗客役に。新進気鋭の女優(有村架純)の2.3㍍の距離でワンランクアップのエキストラと思い喜んだのもつかの間、レンズは電車の後方からで、映るのは背もたれから少し出る頭頂部だけ。電車が止まり、ドアが開いたところで久しぶりに合う息子と抱き合うシーンになったが、レンズはホームの後方から……。
 子どもたちからは「女優デビューおめでとう」のライン攻勢。おもわず笑っちゃうデビューであった。(でも楽しかった)
  阿久根市  的場豊子  2018/4/12 毎日新聞鹿児島版掲載

せきれい

2018-04-20 20:45:10 | はがき随筆


 高校生の頃、文化祭でお琴の演奏をした姉妹がいた。その時琴への強い憧れを持った。
 上京して通勤の途中に琴の教室があり入門した。先生は若くて美しい色白の秋田美人。初めて触れる琴にうっとり。長い間の夢がかなった。その頃弾いた曲に「せきれい」があった。すてきな名前、どん鳥なのだろう。ずっと疑問のまま40年。
 だが最近偶然にも、ある会合で謎は解けた。まさか庭や畑で、手が届く程接近して、愛嬌を振りまく、人なつこい鳥だったとは。君に出会うと顔がほころび曲を口ずさむ。昔から、ずっと知り合いだったんだネ。
  宮崎市串間市  島田さつき  2018/4/11  毎日新聞鹿児島版掲載

助けあい

2018-04-16 21:52:44 | はがき随筆
 朝早く近所の奥さんから電話があった。携帯電話の音が鳴りやまず困って私の夫に来てほしいということだった。
 この奥さんは最近、ご主人を亡くして1人暮らしになられた。それで息子さんかスマートフォンを持たせてあったのだが、まだ使い慣れていらっしゃらない。夫が行ったらパニック状態だったらしい。基本的な使い方を教えて帰ってきた。
 1人暮らしの老人になると、例えばごみ出しとか、ささいなことで困ることがある。隣近所の関係が希薄な今、近所の人を気にかけて気楽な交流ができたらと改めて思う。
  熊本県玉名市  立石史子  2018/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載

一件落着

2018-04-16 21:46:32 | はがき随筆
 何時間歩いても丈夫な足と私の自慢であり取りえと豪語していたが、先日から右太ももが痛い。歩くのに支障はないが、脚上げストレッチの度に痛む。原因は? 考えた結果、敷布団ではないかと思い付いた。
 今年の冬のあまりの寒さに、ベッドの上に柔らかい布団を敷いたのだ。温かくて最高といい気分に浸っていたが、どうも腰部が沈んでしまうなと気になり出していたところだった。さっそく布団を外して元の硬いマットレスに寝ると、ウソのような話だが、薄皮をはがすように太ももの痛みが取れてきた。まずはめでたく落着。
  霧島市  秋峯いくよ  2018/4/8  毎日新聞鹿児島版掲載

新聞 日常に欠かせず

2018-04-11 21:44:47 | 岩国エッセイサロンより
2018年4月11日 (水)
   岩国市   会 員   片山清勝

 新生活が始まる時期に合わせて「春の新聞週間」が始まった。
 私が新聞を読み始めたのは1949年、小学3年だった。戦後の混乱は収まってはいなかった。そんな頃に「新聞を読んで感じたこと」を発表する時間があった。今のNIE(教育に新聞を)の先駆けかもしれない。
 それから69年、新聞は日々の生活から切り離せず 「速報は放送、詳細は新聞から」と配達を待つ。家族の一員と同じような存在になっている。
 このところ「確認したが、ない」などとした公文書の存在が明らかになり、改ざんや隠蔽など、政府や行政の姿勢が問題になっている。この問題でも放送は聞き流して未消化で終わる。その点、新聞は納得できるまで読み返せる。解説はより深く理解させる。
 紙面にはさまざまな情報がある。全てが気に入るものではないが、そこから自分とは異なる考えを知り、思いやりも生まれる。広場欄はそんな集約面の一つと思う。
       (2018.04.11 中国新聞「広場」掲載)

3月26日

2018-04-07 18:18:38 | はがき随筆
 隣に住む孫が去年4月、1年生になった。
 じじとばばは朝7時18分になると落ち着かなくなる。勝手口を少し開けて「まだかまだか」と孫の登校を待つ。じいっと待つ。靴音が聞こえると、私の気分は晴れる。
 「行ってらっしゃい」と言う。「うん」とか「行ってきます」という返事。見えなくなるまで毎日見送った。
 そして1年が過ぎ、3月26日が終業式。
 孫は見事、無欠席という快挙を成し遂げた。3月26日はじじとばばのうれしい記念日となった。
  宮崎県日向市  黒木和子  2018/4/7 毎日新聞鹿児島版掲載

私の心の支え

2018-04-06 06:36:13 | はがき随筆
 「再び帰らぬ時ならば、この時に命燃やさん」。いつも私の心に秘めている言葉。高校に入学してこの言葉と出会った。出会ったころはわからなかったこの言葉の意味。部活動を通して少しずつ少しずつ分かってきた気がする。主将としてチームをまとめることができず、先生や部員との衝突を繰り返し、今までにない苦しみを味わった。何度も何度もどん底に突き落とされた。つらかった。逃げたかった。でもそんな時、この言葉が頭をよぎる。今しかない。この言葉があったからこそ、今の私があるのかもしれない。
  熊本県玉名市  猪古知奈津  2018/4/6 毎日新聞鹿児島版掲載

雨靴

2018-04-05 16:24:39 | はがき随筆
 私が小学6年の昼下がりだった。町内のサイレンが鳴った。車庫から消防車が出る。3分もすると団員が7人駆け付けた。消防車が走り出したそのとき、1台の自転車が猛スピードでやって来た。
「父ちゃん、そんボロ雨靴ではよか仕事がでけん。こん新品を履いて行っきゃい」と母ちゃんは、消防車の荷台の父ちゃんに、新品の雨靴を投げ上げた。そのとき、集まった人々の中から「持つべき者は母ちゃんじゃねー」と、褒めたたえる声がした。その声が終わると同時に、サイレンの音までかき消す拍手が沸き起こった。
  出水市  道田道範 2018/4/5  毎日新聞鹿児島版掲載

窓からの景色

2018-04-05 16:15:58 | はがき随筆
 私がいる3階の部屋の正面に小高い丘がある。中腹に道があって朝晩車が行きかう。昼はたまに通る。土曜は少なく、日曜日はもっと少ないので多分通勤の近道かもしれないと思っている。朝は6時半から8時半、夕方は5時半から8時半くらいに通る。夜はライトが光るので帰って来たのが分かる。窓から見える景色は硝子戸2枚分だけれど木が揺れて風を知り、道行くひとの傘で雨を知る。ツバメが宙返りしながら飛びかい、夕方には鳥が番で古巣に帰っていく。まあるい眼をした良い子が待っているのかな。読書で目が疲れた時は窓の景色を眺めている。
  宮崎市 田上蒼生子  2018/4/5  毎日新聞鹿児島版掲載