はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

エンジュの木

2018-07-23 06:45:48 | 岩国エッセイサロンより


2018年7月19日 (木)
   岩国市   会 員   片山清勝

 岩国市の錦帯橋近くにある吉香公園には、山口県天然記念物「エンジュの木」があった。高さ22㍍、幹回り最大3・6㍍の大樹。野鳥が飛来して、市民に親しまれてきた。
 その大樹の根本付近に大きな空洞の所在が分かり、数年以内に枯れ死すると診断され、今春、惜しまれながら地上から3㍍ほどを残して伐採された。
 すぐ横には、国指定重要文化財の吉香神社や園内通路がある。多くの観光客や散策の人が行き交うところだ。安全上の観点から伐採は仕方ない。そう思いながらも、うっそうとした大樹のこずえが消え、その後にばっかり開いた大きな空間はもの寂しい。
 散策するたび見上げていたら、ある時、大きな変化に気付いた。切り口近くに、柔らかそうな新緑の葉を付けた何本かの小枝が、青空に向かって手を振るように揺れていたのだ。
 セレクト「ひといき」で山村智賀子さんの投稿「ツバキよ」を拝読したのは、ちょうどその頃である。
 「生き物は子孫を残すため、最期は力を振り絞って頑張るものだ」との一文が胸に響いた。余命を知り自然のおきて通りに新しい枝葉を芽生えさせたエンジュの木の姿を示唆するようだった。私は、命を全うしようとする樹勢に改めて敬意と喜びを覚えずにはおれなかった。
 小枝はこの大樹の遺伝子を引き継いでいる。これを2代目「エンジュの木」として育てることを関係者に望みたい。

      (2018.07.19 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)

願わくば

2018-07-23 06:39:14 | はがき随筆
 78歳になった。よくぞ今日まで無事に来られたものだと思う。ひとえに亡き母が、食が細くて育てにくかった私を懸命に育ててくれたお陰であり、戦死した父が陰ながら守ってくれたのだろう。結婚してからは夫が支えてくれたし、子供たちを育てていく過程で心身共に鍛えられた。いくつかの手術もしたが、今は何の気になるところもない。
 夫が亡くなってからは、庭木の剪定、庭の草取り、畑仕事と大忙しの日々を送っている。
 私の寿命まで、あと何年残されているのかわからないが、願わくばその日まで晴耕雨読の今の生活が続きますように。
  鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(78)2018/7/23 毎日新聞鹿児島版掲載

道徳教育

2018-07-21 16:59:33 | はがき随筆
 モリカケ問題でうそをついているのは誰か、国民の心の中では決着はついている。文科省高官は私立大学支援事業に便宜を図り、見返りに息子を医大に合格させた疑いで逮捕された。
 文科省は道徳を教科にして教科書を作り評価の対象にしたが、自ら道徳の負の教材を示しているかのようだ。
 財務省高官のセクハラ問題では「セクハラ罪はありませんので」と高圧的にその知識をひけらかした大臣もいたが笑止である。道徳は法律以前の人間としての規範である。こんな文科省や大臣に道徳教育を語る資格があるのだろうか。
 熊本市北区 西洋史(68)2018/7/21 毎日新聞鹿児島版掲載

ぜいたくな時間

2018-07-20 17:03:56 | はがき随筆


 今年4月から定年再雇用で実家近くの市役所支所に勤務している。自宅から約30分の自家用車通勤は20代以来ひさびさの道のりで、霧島山や開聞岳の日本百名山2座と桜島を眺めながら国道220号を南北に往復ドライブする楽しい時間だ。
 桜島口から牛根大橋を渡ると桃源郷を思わせる牛根の山々や家並みが「今日も元気で頑張って」と迎えてくれる。老いた両親が暮らす実家に立ち寄るのも日課となり、安心して一日を終えられる。
 生れ育った地域にお役に立てればと希望した職場であるが、毎日ご褒美を頂いている。
  鹿児島県垂水市 川畑千歳(60) 2018/7/20 毎日新聞鹿児島版掲載

アジサイ

2018-07-19 16:37:18 | はがき随筆


 庭先の熟れたビワがぬれてゆくのは痛ましいが、色づいてくるアジサイには、やはり雨がよく似合う。咲き始めは白、しだいに緑、青、紫など微妙に色を変え「七変化」の別名通り変色の妙を楽しませる。雨にぬれて鮮やかさを増し、雨水を含んで重たげに咲くのがこの花の風情である。花の少ない季節にこの花は貴重な彩りである。花を見ていると亡き友、Aさんのことを思い出す。庭の片隅に咲いたアジサイと笑顔で迎えていただいたそのひとは、薫風慈雨とでもいうお人柄で、書道、日本舞踊、お茶などに精進され、私の大好きな人だった。
 鹿児島県出水市 橋口礼子 (84)2017/7/19 毎日新聞鹿児島版掲載

誕生日Ⅱ

2018-07-19 16:28:54 | はがき随筆
 6月15日は○○で誕生会のランチをしましょうね。とその20日くらい前に友人からメールがあった。どこか覚えのある日。
 あ! わたしの誕生日。
 誕生日は産んでくれた母に感謝する日だから大事にしなくちゃねと去年釘をさされていたのに今年も日々のスケジュールに埋もれすっかり忘れていた。
 この誘いがなかったら、しばらく気付かなかっただろう自分の誕生日。有難かったが、心の片隅に罪の意識がわいた。
 その日、彼女は言った。「墓参りくらいはした?」と。
 私の辞書には、誕生日に墓参りというのは無かった。
  宮崎県延岡市 露木恵美子(67)2018/7/19 毎日新聞鹿児島版掲載

頭にねじ

2018-07-19 16:19:12 | はがき随筆
 今は見られなくなった柱時計。昔は「しっかりねじをかけんから途中で止まる」と叱られたことを思い出します。つま先立ちして手が痛くなるまでねじを巻いていました。
 90歳になり、心機一転して頭にねじをかけねばと思いました。それは新聞に毎日載っている数独です。
 1日も休まず続けています。満点の時は赤丸でうれしくてうれしくて今日はしっかりねじがかかったねと自分をほめてやります。体の中に油が入ったようです。続けることは力なりといいます。うれしさの輪が広がりました。
  熊本県八代市 相場和子(91)2018/7/19 毎日新聞鹿児島版掲載

春から夏へ

2018-07-19 16:11:56 | はがき随筆
 3月「早春の里山へのお誘い」と称してはがきを出したら15人の参加。少し不安だったが、なんとかなると覚悟した。パエリア、座禅豆、鶏ハムなどを作った。美味しかったと喜んでくれた人、仲間たちの談笑が私への贈り物。この計画を後押ししてくれた友人へ感謝だった。
 始めて会った人も何人か、和やかなひと時を過ごした。山菜採りに足を延ばした人も。
 来る七夕の日は母の七回忌。この日もつたない腕を振るおう。遠来の客にありがとうの気持ちをこめて、そして母の思い出を語ってもらう楽しみが待ち遠しい。
 鹿児島県薩摩川内市 馬場園柾子(77)2018/7/19 毎日新聞鹿児島版掲載

休耕田を梅畑に

2018-07-19 15:48:32 | はがき随筆


 作らないからと、貸していた田を返されたが、本業の養鶏だけで田畑には手は回らずのまま、放置状態で3年は過ぎた。
 草茫々の荒れ田と化して、周りの田の中に、草丈が高く伸び目立つのが気になっていた。
 4月初めに、植木市のチラシを目にすると心躍らせ、仕事の合間に隣町へ軽トラを走らせた。渋柿を4本、お目当ての梅を11本買った。桜を買いたかったが、休耕田には実のなる物しか植えられない決まりだ。
 3月に草刈りを済ませた田に2日がかりで苗を植えた。植え終わると、達成感で満足した。花が咲く春の楽しみができた。
 宮崎県串間市 武田ゆきえ(63) 2018/7/19 毎日新聞鹿児島版掲載

ラジオ体操

2018-07-19 15:24:04 | はがき随筆


 黄泉の世界へ旅立ったならば二度とこの世に戻ってくることはない。余命を知るすべはないが、一応健康体だし、余生を楽しく過ごそうと思っている。
 若かったころは筋骨たくましくて敏活な挙動をしていたが、今では足腰が弱くなって動作の緩慢さを痛感している。それでも寄る年波には勝てぬと諦めるのではなく、毎朝6時半のNHKのラジオ体操を心がけている。始めるときの肩こりや腰の鈍痛を我慢して体を動かしていると、終わる頃には多少なりと痛みが和らいでいる。健康を維持しているのは体操の影響だろうか。
  熊本市東区 竹本伸二(90) 2018/7/19 毎日新聞鹿児島版掲載

楽しい麻雀

2018-07-19 15:14:53 | はがき随筆


 グラウンドゴルフ中に転倒し骨折で3カ月入院、外出や運動が出来ない友人がいる。何とか元気になってもらいたいと、高齢者仲間で相談し、家の中で楽しめる遊びをする事になった。
 麻雀をする事に、「えっ麻雀」。何だが後めたい思いのまま、麻雀歴20年のSさんが先生。慰め元気づけるはずの仲間が毎週水曜日を待っている。
 136枚のパイを「取ったら出す、取ったら出すとよ」と3時間はあっという間。お茶を飲んで「また来週」と別れる
 救急車の中で悲痛な顔を思い出すと、やっと笑顔が戻ったようで安堵するこのごろである。
 宮崎県日向市 津江保美(79)2018/7/19 毎日新聞鹿児島版掲載


米寿の祝辞

2018-07-19 14:59:19 | はがき随筆


 老妻は今年米寿を迎えましたので、ホテルで身内が集まりお祝いをしました。結婚の契りを結んで68年目。長男が世話役になり、一言のあいさつがほしいとのこと。ありのままの日常を話しました。
 米寿おめでとう。心から祝福します。願わくは私は100歳、あなたは105歳まで長生きしてください。別れた後は自由気ままに過ごし、次は浄土で会いましょう。それに加え長期勤務と朝たたき起こし賞を贈ります。子供の教育や炊事、洗濯、掃除などの重責。感謝賞に博士号も追加します。長口上になりましたが拍手もありました。
  熊本市中央区 田尻五助(97) 2018/7/18 毎日新聞鹿児島版掲載

愛しい弟

2018-07-17 21:58:49 | はがき随筆
 弟の命日、忘れることのできない日、既に35年が過ぎてしまった。今もなおこの日が来ると当時がよみがえってくる。七つ年下の21歳。この時期、周りでは田植えが盛んで、その土手の先の国道上での出来事だった。
 私のおなかには5カ月の長女がいた。昼過ぎに一本の電話が鳴った。その時点では、車好きの弟だったので「何をやらかしたのか?」という感じだった。
 その弟が最後に聞いていただろう曲を聞き、唯一2人で見に行った映画を見て、私の最後の手作りトンカツを食べて逝った弟をしのぶ今日を、毎日切ない思いで過ごしている。
  鹿児島県霧島市 上野京子(62)2018/7/17 毎日新聞鹿児島版掲載

タンゴの夕べ

2018-07-17 21:47:28 | はがき随筆
 去る5月、タンゴショーに行った。今年は、ステージがしつらえてある。去年のフロアより、石元の動きが、はっきり見られると、わくわく感に包まれた。
 生演奏が始まると、ほほ笑みながら、1組のダンサーが登場する。最初の動きは、ゆっくりだった。曲が変わると、動きと足さばきの見事さに見入った。
 衣装の美しさと靴のかかとの飾りは、女であれば一度は身につけたい気持ちに駆られた。
 娘夫婦と鑑賞した時間は、至福の時と思っていたが、更にお別れの時、バイオリニストと力強いハイタッチができ、喜びが、体中を駆け巡った。
 宮崎市 田原雅子(84)2018/7/16 毎日新聞鹿児島版掲載

アクアパッツア

2018-07-17 20:54:17 | はがき随筆


 冷蔵庫の中の夫の釣果に、何かいつもとは違った魚料理をと、ネット検索をしてみたのはつい最近のこと。アクアパッツア。聞きなれない料理名だったが、作り方はいたって簡単。魚介類をトマトやニンニク、オリーブオイルなどで煮込んだイタリアの家庭料理。もともとは漁師がありあわせの材料を適当に煮込んで作った鍋らしいから、我が家のアマチュア漁師の料理としてもぴったり。
 アサリ貝だけ買い足し、拍子抜けするほどあっさりと完成した一品は、思いのほかの好評で、その日から日本の我が家の献立に採用された。
 熊本県菊陽町 有村貴代子(71)2018/7/15 毎日新聞鹿児島版掲載