はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

お嫁さん

2018-07-17 20:39:26 | はがき随筆
 連休に東京から来た知人に会った。最後に子供の話になって「東京にいる息子が結婚していませんが、いい方をご存じないですか」と聞くと「うちも3人の息子が結婚していないのです」と言われて大笑いした。
 知人は小学校の同級生と結婚しており、私は叔母の紹介で結婚して、今年、金婚式を迎えた。昔は年ごろになると縁談が持ち上がり、大抵結婚したものだ。今では世話をする人もいなくなり、結婚が難しくなってきた。こうなれば「お嫁さん募集」と幟を立てて、2人で全国行脚の旅に出ましょうよ、と言いながら知人と別れた。
 鹿児島市 田中健一郎(80) 2018/7/14 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆 6月度

2018-07-17 20:31:42 | はがき随筆
 はがき随筆の6月度受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)

【月間賞】4日「『ざん』という字」増永陽=熊本市中央区
【佳作】6日「廃業の店」田中健一郎=鹿児島市
▽14日「猫とピアノ」岡田千代子=熊本県天草市
▽2日「平凡な日常こそ」永井ミツ子=宮崎県日南市



 投稿は熟年の方が多いせいか、孫や子供の思い出あるいは父母の年齢を超えた今の自分を見つめ、子供のころの家族に思いを馳せる内容が目立ちます。また身辺の小さな花々に心を寄せるお話もあります。年齢を重ねると皆感じることで、そんな中からキラリと光る新しい発見を伝えていただきたいと思います。
 増永陽さん、いつも鋭い視点のお便りです。今回は一時期盛んに露出した「改ざん」の文字を解析しています。昨今の政治批判です。うそと開き直りで人を小ばかにした今の政府。これでは日本人の人間性、品格が疑われます。世直しが必要です。
 田中健一郎さんの「廃業の店」は、「たばこ屋」と「理髪店」廃業のおはなし。「浮世床」などと親しまれてきた店々が後継者不足でなくなっていく寂しさを描いています。機械の中に頭を突っ込めば自動的に髪を刈る時代とは、なかなか。笑いの中にも味気ない風景がジワリというところでしょうか。
 岡田千代子さんの「猫とピアノ」。好きなことややりたいことにはどんどん挑戦しましょう。猫から何と言われようと初志貫徹、人生大いに楽しんでください。ご主人とのやりとりなど愉快な毎日が伝わってきます。
 永井ミツ子さんの「平凡な日常こそ」では、熊本地震からまる2年、今もビニールハウスでつらい毎日を過ごしている夫婦に思いを致し、いまだに心が痛むと訴えています。現在仮設住宅住まいは3万人以上、そして一部では入居期限も迫っています。自宅を再建しようにも、東京オリンピック関連の建設ラッシュで建設業者が足りず熊本の田舎まで手が届かないのが現状です。いたるところに更地が見られます。途方に暮れている人がまだたくさんいます。永井さんのお気持ちの通り心配で落ち着かない日々が続きます。
熊本文化懇話会理事 和田正隆

命の洗濯

2018-07-16 22:11:41 | はがき随筆
 爽やかな母さん日和が続いて何かと家事が忙しい。
 あれもこれもと欲深に働いて「疲れたー」と思った頃、熊本在住の長女から電話が入った。「華道展があります。お父さんと見にこない?」あな、嬉し。「命の洗濯に出かけるわ」と言うと「命の洗濯? どおーゆうこと?」と聞く。あれ、初耳? 
「きれいな物を見て気ままに過ごすの」とざーっとした私なりの解釈を伝える。すると娘が噴きだした。「命を洗う? でも、お母さん、そりゃ、大ごとや。慎重にね」と笑い転げている。私はつと耳を澄ませた。ふふ。いいもんだな、娘の笑い声。
  宮崎県延岡市 柳田慧子(73)2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

柿の赤ちゃん

2018-07-16 21:45:46 | はがき随筆


 朝柿の小さな実がびっしり落ちている。4枚のヘタの真ん中に四角い先のとがった実がついたままだ。実の先端には黒い毛が少し伸び、二つに分かれて曲がっている。ヘタは4枚ともハート形で、真中が盛り上がって四方に広げて身を包んでいる。実もヘタも黄緑で柿の赤ちゃんだ。こんな小さな命のまま終わるって哀れだ。風雨があるとさらに落ちる。落ちる瞬間も見たいが……。毎朝自然淘汰されて、残った少ない実が柿右衛門が極めたきれいな色になるのだ。自然の営みにただおどめくばかりの朝である。
 鹿児島県出水市 畠中大喜(81)2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

おくればせながら

2018-07-16 21:22:18 | はがき随筆


 真夏の太陽背にうけて……。
 歌の文句じゃないけれど、遺影の中の貴男はダイビングスーツ姿で笑ってる。海が大好きでいつも誘ってくれていたのに、私の答えはいつだってノー!
 4年前突然の難病という宣告にどうして? と心がついていけず2人して落ち込みましたね。でも貴男は精一杯頑張りましたね。1人になって7ヶ月、今はまだ心細さに震えています。
 梅雨が過ぎれば暑い暑い夏! 新盆の頃には魚になって、おもいっきり泳いでいるのかな。この夏は海に言ってみようかな。言えなかった〝ビメンナサイ〟そしてありがとう! を伝えに。
 宮崎市 山下弥栄子(75)2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

岸井さんをしのぶ

2018-07-16 21:14:04 | はがき随筆
 今朝も「サンデーモーニング」の時間にスイッチを入れたが、岸井成格さんのお姿はもう見られない。知識も記憶も薄れるばかりの私にも、岸井さんの解説は分かりやすかった。森友、加計、そしてアメリカ、北朝鮮。こんな難題いっぱいの時、岸井さんはどんな解説をしてくださったことだろう。飾らない人柄と風ぼうが思い出される。
 初任地が熊本で水俣病のことにも関わったと聞いて一層の親しみがあつた。まだまだお元気でこの世の中が明るくなるよう尽力してくださればと、惜しむ気持ちでいっぱいだ。心からご冥福を祈りつつ。
 熊本市中央区 川口紋子(90) 2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

新たな戦い

2018-07-16 20:54:01 | はがき随筆
 左の背筋から腹筋にかけて激しく痛む。夜になって我慢できずに夜間救急へ駆け込んだ。CTを撮ったあとイケメンの青年医師の丁寧な説明。「どうやら『結石』ですね」。画像には白く小さな点がくっきりと一つ。
 こいつとの出会いは20歳の頃。友人宅に泊った日の朝、訳のわからない激痛に襲われたのだった。あまりの痛みに死ぬかと思った。あれから何度もこいつにやられた。そのたびに私は暴れ、家族や病院に迷惑をかけたのだ。痛み止めの座薬にすがりながら、こいつとの新たな戦いが今始まろうとしている。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(68)2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

6歳の優しさ

2018-07-16 20:46:40 | はがき随筆
 法事の日、我が家に皆が集まった。私は何かと忙しく、席を立つ事が多かった。台所にいた時、チョン、チョンと誰かが背中を突っついた。6歳の孫・りょう君だ。「ばあば、お口明けて」と言うと、後手に隠し持っていたチョコを、ポンと私の口に入れた。柔らかくなったチョコが、口いっぱいに広がった。「おいしい」と言うとうれしそうに飛び跳ねた。6歳の優しさが真っすぐに伝わってきた。
 得意げにスキップする後ろ姿がジワーッとぼやけていった。
 りょう君の優しさは、元気の糧となり、「ばあばばか」はまだまだ続きそうである。
  宮崎県延岡市 橋本京子(74)2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

幼語

2018-07-16 20:31:37 | はがき随筆


 子育ての途中、子どもが作りだした、的を射た楽しいことばに出会うことが度々あった。
 縄跳びを習い始めたころは「ニワトビ」。縄をくぐることなんかできない。庭に出てピョンピョン跳ぶことが精一杯だった。夏のキャンプでよく遊んだアスレチック公園は「アソビチック」。体を鍛えるより遊びが優先だ。大好きなイチゴは「イチゴベリー」。日本語と英語の単純な組み合わせだが、妙に語感が良い。我が家では今でも使い続けすっかり定着している。
 孫の世話をする年になった。孫の口から新しいことばが飛び出すのを待つ昨今である。
 熊本市北区 西洋史(68)2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

政治は最高の道徳

2018-07-16 20:24:09 | はがき随筆
 六十余年前「造船疑獄」と呼ばれた事件があった。当時の自由党、佐藤栄作氏が逮捕されそうになった時、吉田茂首相は法相に指示して指揮権を発動させ、佐藤氏の逮捕を免れた。
 最近の森友学園問題に関する佐川元国税庁長官の不起訴処分を聞いた時、なぜかあの時の指揮権発動という言葉が浮かんだ。安倍、麻生両氏の下で起きた森友・加計学園問題報道に接しながら、政治家が役人を盾として逃げ隠れしているようで見苦しいと感じている。
 「政治は最高の道徳」であるべきとか。同感。
 熊本市北区 園川賢一(83)2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

アマリリス

2018-07-16 16:14:00 | はがき随筆







 狭い庭ではあるが日当たりのいいのが取りえ、早々とアマリリスが咲き始めた。
 「きれいですね。いつもここを通るのを楽しみにしています」。買い物帰りの奥さんが足を止める。「ありがとうございます」カミさんは喜色満面だ。
 スーパーは通りの反対側にあるのだが、わざわざこちら側に渡ってきて眺めて行く奥さんも多い。島の人は気さくだ。さっさと庭の中に入って見て行く人もいる。そんなときカミさんの鼻はますます高くなる。
 柔らかい夕日を浴びるアマリリスも、春風を全身に受けて小躍りしているようだった。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(81)2018/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

沙羅の木

2018-07-16 15:54:30 | はがき随筆


 雨上がりの裏庭、沙羅の白い花が咲いている。清楚で気品があるが少し寂しい。弟を思う。
 弟は20代、夢を抱き上京、懸命に働いた。45歳で家を建てた時、どこの部屋からも見える庭の中央に沙羅を植えた。どんな思いで選んだのか私は知らない。
 入居して半年、弟は病に倒れ逝ってしまった。それは2月だった。沙羅は枯れてしまっているかのように灰褐色の姿で立っていた。だが、春が来ると芽吹き、葉を茂らせ、白い花を一面につけた。弟の写真のある部屋から義妹と無言で眺めた。
 あれから25年。弟の沙羅は今年も静かに咲いているだろう。
  宮崎市 堀柾子(73) 2018/7/10 毎日新聞鹿児島版掲載

気になった出会い

2018-07-16 15:43:38 | はがき随筆
 病院のエレベーターに乗ったら、包帯をぐるぐる巻きにして車椅子に乗った、高校生くらいの女の子が近づいてきた。私は「急がなくていいよ」と言って待った。
 降りる階を確認して「大変だったね」と声をかけたら、消え入るような声で「事故で……」と言った。見上げた瞳がハッとするくらい澄みきっていた。「お父さんお母さんに心配かけないようにしなさい」と言ったら、素直に「はい」と言って降りていった。
 母親が待っているに違いない。
 私との会話を母親に話しただろうか、ちょっと気になった。
  熊本市北区 岡田政雄(70)2018/7/8  毎日新聞鹿児島版掲載

レアアースの未来

2018-07-15 20:51:36 | 岩国エッセイサロンより
2018年7月14日 (土)
   岩国市   会 員   片山清勝

 七月号の巻頭随筆『日本近海にレアアースを発見』を読んで、高校で学んだ資源の話を思い出した。
 昭和三十年代のはじめ、日本の主要エネルギーが石炭から石油に移行をはじめ、国内産業は大きな転換期にあった。当時、教科書での石油埋蔵量は今後三十年分だということだった。ただ、それから六十年が経った現在でも、石油は枯渇していない。ただ、国内でとれる石油の量はほんのわずかであり、多くを海外からの輸入に頼っている状態だ。
 日本の資源の乏しさは、レアアースについてもそうだった。 
 しかし、早稲田大学の高谷雄太郎氏によると、日本近海に膨大な量のレアアースが眠っていることが分かったという。その量は、ハイブリッド自動車のモーターなどに使われているプロシウムとテルビウムであれば、なんと世界需要の七百三十年分。途方もない数字である。
 文章を読むと、採掘に向けての課題はまだ残っているという。それらをクリアし、日本を、中国を凌駕するレアアース輸出国に成長させてほしい。それは、世界の最先端技術発展に貢献することにもなるだろう。
 未来に向けて、非常にわくわくする話を知ることができた。早期の採掘技術完成を願っている。

     (2018.07.10 文藝春秋8月号「三人の卓子」掲載)


標語に安全運転誓う

2018-07-15 20:50:14 | 岩国エッセイサロンより
2018年7月14日 (土)
   岩国市   会 員   片山清勝

 8日の広場欄「無事願い毎朝見送り」は、お父さんを交通事故で亡くされた主婦が、毎朝主人と子どもの見送りをするのは「ただいま」を聞く楽しみのためだとあった。読んで、前に見たある標語を思い出した。
 川沿いの道を上流ヘ1時間、ある講座の手伝いで2年間通った。カーブの連続するその国道187号は、数字をもじって「いやな国道」とも呼ばれる。
 会場近くになってほっとする辺りに、大きな看板があった。「ただいまが 何よりのお土産」。そんな言葉が大きく記してあった。右力ーブで減速する所なので、はっきり読めた。
  「ただいま」のあいさつ、そのひと言がどんな土産にも勝るという標語。それを聞いて「おかえり」と迎える言葉が安全運転に連なる。
 私も通るたびに「無事に着いた。よし、帰りも安全運転で帰るぞ」とハンドルを握り直した。この地を車で訪れた人にも、安全運転を促す効果があった。あの看板、まだ立っているだろうか。    

        (2018.07.14 中国新聞「広場」掲載)